人生和歌集 -風ー(1)

多谷昇太

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海を渡る風

ヤン

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ノックありドアを開ければ人の腹見あげていけば笑みしガリバー
※あとから入ってきた、私と同じ住み込みのバイト同僚。身長192cmのオランダ人青年で19才だ(因みに往時私は23才で身長は167cmほど)。ガリバーと云うよりは豪傑サムソンか。

サムソンは誰彼かまはず嘲笑(わら)ふなりされど憎めず皆に好かれき

誰か知るホテル・キュッフェはリング上(へ)とヤンとシェフつと殴りあひぬ
※1.つと:突然に シェフ:料理長
※2.「ボクシングをやっていた(ヤン)」「ほんとうか?(シェフ)」などとつまらぬ会話がきっかけで殴り合い。手加減されたがシェフはすぐに叩きのめされた。

ボーイとぞ我さし云へば堪へかね睨み合ひしがマリア止めくれぬ
※23才の私を19才のヤンが「ボーイ」とからかう。思わず睨み合ってしまった。サブシェフのオーストリア人の女性コック、マリアが間に入ってくれたからよかったが、もしそうでなかったら…容易に想像がつく(馬鹿だな、俺は、本当に)。

汝(な)の指は汚れてゐぬかとヤンが問ふ事故死せし両親(おや)その写真見せしとき
※旅客機事故で両親を亡くしたと涙ぐんでヤンが云う。彼の気丈さには分けがあったのか…。

ルッツェルン美しきまち湖(うみ)のまちホテル・イルゲへ人よいざたまへ
※宣伝しちゃいます。ルッツェルンへお越しの際はホテル・イルゲへぜひどうぞ。

   【ヤンのイメージ、怖いけど面白くて且つ〝いいやつ〟だった】
by Alexander Lesnitsky
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