人生和歌集 -風ー(1)

多谷昇太

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海を渡る風

でか男氏

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白痴(こけ)のごと手ふり顎(あご)上げ歩むなり明関さまに妻君退(ひ)くも

ターナー事務所を出てハンプトン・バンノフ(中央駅)へ歩いて向かう途次、人出のある繁華街で明関が突然手ふり顎を上げ、右足を引きずって歩き出しました。所謂白痴(こけ)のスタイルです。それを見るや口を手で覆ってご妻君の礼子さんが逃げ出し、松山と私は苦笑します。『お主、やるのう』という苦笑ですね。私などまったく感心しきり。とても小心男のできることではありません。がしかし、この辺でしょうね、彼我の人生の差は。
     
     【下のような繁華街でのこと。但しこの写真はリヨン市です】


集ひくる愛(は)しき同胞(はらから)楽しかり異郷の家に日本語躍る
※愛(は)しき;なつかしい、いとおしい、慕わしい

このようにターナー詣でを送る日々でしたが明関夫婦の他にも同胞、日本人はやって来たのでした、この“我らが家”ズーリック・ユースには。それぞれの来欧の動機を持つ、非常にユニークな人物が何人もいたのですがここではその内の一人“でか男〟を紹介しましょう。ちゃんとした名前はもちろんあるのですが、190cmを超すその偉丈夫ぶりにみんなが“でか男〟と呼んでいたのでした。しかしそのニックネームとは裏腹にとても理性的で計画性のある人物で、将来の目的ガイドになる為の伊・仏語などを習熟中とのこと。ここに来る前はイタリアで暫くバイトしていて既に同国語はOKとのことでした。彼を含めた我々日本人7、8人ぐらいでそれぞれの訪欧の目的などを語り合っていた時、止せばいいのに私は自分の本音を語ってしまった。曰く「俺は日本では人に対して臆病で陰気一辺倒で、もう窒息しそうだった。そんなところへランボーやホイットマンやデュ・モーリアやらの書を読んでさあ、それを地で行こうと思って日本を飛び出したんだよ。陰気癖やら気の小ささを矯正しようと思ってね(笑い)」しかしそれへ歯に衣着せずに「ふん、一人で生きて行けないような、そんな奴がいるからなあ」と辛辣にやっつけてくれる男がいた。本音で語った分私は痛く傷ついて顔を赤らめ黙り込んでしまったのです。しかしすばやくでか男が「ばーか」とそいつへ云い返してくれたのでした。彼は私と松山氏のバイトが決まってバイト先へ赴く前、明関夫婦とともにユース近くのカフェで祝杯を挙げてもくれました。気遣いのあるとてもいい男だったのです。彼はその後スイスのフランス語圏たるジュネーブで首尾よくバイトに付けて、目的を果したのでした。

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