人生和歌集 -風ー(1)

多谷昇太

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海を渡る風

日本人アラカルト(1)

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光の子とも云はんかな撫子よ放つオーラは眩しかりけり

なにそれと悉皆差別を見かぬるは人当りよき美容師たりぬ

やっちゃ場で手鉤翳してやり合ひし関東一文字セイジ来ぬ

散々に越中富山の薬売りと笑はれしとか抱腹の人

おとなしきさびしきをみなひとりゐて冷たきターナーを嘆きをりしも

でか男氏の他にもこのズーリック・ユースにはいろろと印象的な同胞たちが集い来ました。上にまとめて詠みましたが一言づつ彼らを紹介しましょう。「光の子…」はイギリスでオーペアを終えて帰国する途次の2人連れの女性たち。うち一人に魅了され尽くしました。大河ドラマ「おしん」の小林綾子にも似た美貌もさることながら、その放つオーラです。一言一言が光の玉となって耳に沁み、胸に沁みます。明るい心根と生き来し姿勢が人にそう感じさせるのでしょうが、2人との交わりに暫し癒された次第です。
2首目の美容師。我々は概ね皆長髪なのですが同じ長髪でも彼のそれは(よく知りませんが)カールか何かを施したシャレたものでした。人当たりはソフトながらウイットの効いた辛辣さを持ち、何よりも誰に対しても興味を抱き得るような、常に自ら接し行く積極性がありました。笑窪を浮かべたその表情に誰でも親近感を覚えずにはいられません。我々の間で現地における「人種差別」に話しが及んだとき「なにそれ?そんなのあるの?俺そんなの全然感じないよ」は蓋し本音でしたでしょう。私の目に写るヨーロッパと彼の目に写るヨーロッパとではまったくの別物であったのに違いありません。再び蓋し、深く考えさせられる彼の姿、姿勢ではありました。
3首目のセイジ氏。身長は1m60cmそこそこの小男ながら「山椒は小粒で…」を体現したような元気者です。元気があり過ぎて日本から飛び出してしまったような男。顔はとても可愛らしくてどこかでヒッチした折にゲイの男に迫られたのだとか。しかし内実は、日本での仕事先だった精肉市場で互いに鍵爪を持って喧嘩したという武勇伝の持ち主です。非常な短気者ながら色紙を切り抜いて影絵をつくるという意外な特技を持っていて、芸者などを描いては路上で売るのだそうです。その出来栄えから見て恐らくそれは売れたでしょう。

【日本人アラカルトのイメージ写真。私は日本でなぜ目暗だったのでしょう?海外に出て気づく同胞たちの素晴らしさ】
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