人生和歌集 -風ー(1)

多谷昇太

文字の大きさ
21 / 151
海を渡る風

命をだまき繰り返し…

しおりを挟む
そこには(確か)レストランとは別にいまひとつの小屋のような建物がありモレーノという名のウエイターがそこで寮住いをしていたのである。因みにさきほどのフレディとドリスも私たちと同じフロアにそれぞれ一室を与えられて住んでいたのだった。夫人はさらに6坪ほどの広さのある別の一室に案内しそこに設置してあるシャワーや洗濯機、乾燥機などを指し示してから、今度はプライベートエリアを出てレストラン入口横にある男子トイレに私たちを連れて行くと、収納庫にあるモップや掃除機などを見せて「トイレ掃除も仕事のひとつ」である旨を告げた。「ソー(so)、こういったところね。じゃ荷物(リュックサック)を片付けてからレストランに上がって来てちょうだい」と云い残して2Fへと上がって行った。私たちは部屋に戻ってリュックのヒモを解く。「ベッド、どっち使う?」尋ねる私に「どっちでもええよ。それにしてもよかったのう。ええ?おい。こんな部屋宛がわれて、主人や奥さんもよさそうな人やったし、万事叶った叶ったやろ?」と松山が微笑みながら云う。それへ「ああ…(それもこれもすべてあんたのお陰だよ)」と()内は今さらのように思えて云えなかったが上気したように赤らむ私の表情ですべてが通じただろう。一瞬でも走馬灯のようにフランクフルトのこと(当アルファポリス内の拙著「1974年フランクフルトの別れ」をご参照ください)や、仕事を求めて寒空のもとヨーロッパ中を彷徨った光景が目に浮かんだ。ああ、やっといま、こうして仕事をつかんだのだった。〝生きれる〟のだ…。

空蝉の命をだまき繰り返し生きれることを直に喜ぶ

ややあって2Fに上がって行くとハイジ奥様が待っていてフロアの給仕人たちを集め私たち2人を紹介してくれる。男3人、ウエルナーとモレーノとポールだった。年はいずれも35~40才くらいに見受けられる。背の高いウエルナーと筋肉質で容体(がたい)のいいモレーノ、そして太っちょのポール3人はそれぞれウエイター服を身に纏っている。他にもう1人テリスという名のウエイトレス(ウエルナーの彼女)がいるのだったが今日は休みだった。ウエルナーとは姓でありモレーノとポールがファーストネームを名乗ったのに対し彼は違っていた。それをすばやく悟った松山が「ええか。あのウエルナーを呼ぶ時は〝あ〟を付けるんやで」と教えてくれたのは我々が部屋に下がってからのことである。スイス語で〝ア・ウエルナー〟と呼べば〝ウエルナーさん〟になるのだった。要はこのウエルナーが気安く俺のファーストネームを呼んでくれるなということだが、その辺は鷹揚に見えて本当に細かいことに気が付く松山氏であることだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...