人生和歌集 -風ー(1)

多谷昇太

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海を渡る風

万事順調

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さて、その当日はそのまま仕事に就いたものかそれとも翌日からだったかは忘れてしまったが(何せいまから半世紀も前の体験ですから)、奥様から毎日の勤務時間帯(松山と私とで早番・遅番があった。早番にはトイレや階段等の清掃が課されていた)とか朝食やコーヒーの取り方を教わる。バターロールを大量に入れた24時間保温機があって、そこから好きなだけパンを取っていいのだし、こちらも24時間保温のコーヒードリップがあって好きなだけ飲めた。またビッショフ氏からは皿洗い機の使い方や皿やコップの収納場所を聞き、そして(これが意外だったが)洗うのはその皿とコップのみでプライパンとか鍋の調理器具はフィリップとドリスが洗うからいいと聞かされる。これは仕事を始めてから実感したことだが〝こんな楽な仕事〟で月8万フラン(当時のレートで約8万円)ももらえるなんて、ほんと何とスイスは豊かな国なんだろうということでした。何せ部屋と3度の食事はタダだし、それも考え合わせれば実質月12万フランくらいに等しかったのではないかと思う。往時(1973年)の日本における大卒初任給が5~7万円くらいのことでしたからね。私も松山氏もただ呆れたものでした(尤も「これはいい目に会った」とただ嬉しかったが)。これでは東欧・南欧始めアラブや中近東、遠くはインド・パキスタンからも出稼ぎ者が殺到した分けです(当和歌集・当章の「バーゼル」をご参照ください)。

景すぐれ豊けきところハイジもゐスイスよいとこ一度はおいで


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