クワンティエンの夢

多谷昇太

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クワンティエンの伝説

梅子の眼力

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いかに行雲流水をよそおうとも、またいまさら時代遅れのダダイストでもあるまいし、能力やスキル、また容姿や性格本位の、生き行くに実にせこい世の中であると、疾うに自覚順応している現代っ子の娘たちにとっては、決して受け入れられるような男の実態ではなかった。あまりにもなさけなく、弱すぎた。なにごとにも辛辣な恵美が「お、こ、じ、き」とやんわりながら無遠慮に決めつけてみせる。「止しなさいよ」匡子が諌めるがその実本人もまた眼前の男を僧形をしただけの住所不定の輩とでも認識しているようだ。梅子ではないがなぜこんな男をと、めずらしく亜希子を責める気持ちにもなっている。そしてそれは亜希子をのぞくほとんど全員の気持ちだった。それを察して『ほーれ、見なはれ』とばかり鳥羽がほくそ笑むのだがしかしもちろんその亜希子さえ翻意してくれるなら、こんな男なぞいつでも追っ払って見せるつもりだった。いま亜希子のやや興ざめしたような表情を確かめつつ、やおら鳥羽が始末をつけようと口火を切ろうとした刹那、思いも寄らぬ人物から待てが入った。梅子だった。
「ねえ、雲水さん。行運流水はいいけどさ、あなたさっき亜希子に…こちらのお美人さんに、なんて云ったの?‘非顕教の純蜜の趣はなはだ強し’なんてさ。彼女が密教の強者とでも云うの?密教どころか彼女、宗教なんてなんにもやってないよ」亜希子の強引さに超フラストしながらも聞くべきところはしっかりと聞き取っていた梅子だった。またさすがに白河大特待生らしく、頭の良さと知識の豊富さはさすがで、非顕教という言葉が密教を意味することまで心得ていた。すればさきほどの僧から亜希子への託宣が、どこか意味深であることを鋭く嗅ぎ取っていたのである。どうやら一番の排斥者とも見えた梅子が、この僧もどき且つプータローもどき男の中に潜むものを、一番に感じ取っていたようだ。いや正確には二番か、知識などではなく亜希子が直感で先に‘何かを’感じ取っている。

        【坊さん、あんた只者じゃないわね…梅子の眼力】
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