クワンティエンの夢

多谷昇太

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この道や行く人なしに秋の暮れ

色即是空・空即是色

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「また、はて…こちらは私の時空の認識違いでしょうか、さきほど、ふだんは人一倍節度を心得ているとおっしゃられながらも、それをもかえりみず、いきなりあなたがたが過去世の家族のように思われると、そう鳥羽会長が開陳されたこと、このことについてはどうですか、どう思われますか?」ここまで聞いて来てこの場に居合わす全員がはっきりとこの僧の超常能力を認識するにいたる。どこかに隠れて聞いていたのならいざ知らず、あの時にはまだ僧の姿はどこにもなかったからだ。しかしそのことを云い出す者はいない。示し合わせたかのようにただ僧の次の言葉を待ち受けている様子だ。いや、しかしたたらを踏まされた梅子が先に口を切った。「因縁生起とおっしゃりたいんでしょ?要は。すべての現象は原因があって起こる、つながりがあるという仏教の教え。それで云うなら確かにこちらの‘会長様’と過去に親子だったということもあるかも知れない。しかし因縁生起を略した縁起で云うなら、はっきり云って私にはあまりありがたくない、俗に云う縁起が悪い関係と、いまの邂逅でしかないわね」と僧の超能力には触れずに、せっかくの僧の再結をはかろうとする言葉を切り捨ててしまう。荒らぶる神の面目躍如というか、ジャスト積み木崩しでしかない梅子の言動ではある。恵美と加代をのぞいた、もはや反目に近い皆の視線が梅子にそそぐ。特にお嬢様コンビの匡子と慶子の表情が舌打ちしたげだった。しかし僧はいつものように委細拘泥せず「そうですか。受け賜りましたが、しかし仏教用語で云うならば、因縁生起よりは色即是空・空即是色だと申し上げたい。その心は…」とわざとここで間を置いて以下の重要性を梅子と皆に印象付けるようだ。やおら「色即是空、色、すなわち現象は空である、空に等しいのだと云う。しかしこの空とはからっぽを云うのではありません。因果で云うところの因に当たるのです。つまり諸々の現象の原因、元となるものですね。ここではこれを仮に亜希子さんと鳥羽会長としてみてください。亜希子さんが原因となって今のこの現象がある…とするわけです」「そりゃそうよ。さっき私がそう云ったじゃない」と梅子が一言。

           色即是空・空即是色…般若心経より】
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