私は役目を放棄し関わらないことを誓います

宵丸

文字の大きさ
12 / 17

第十二話

しおりを挟む
「はぁ…可愛いわ」

「きゅきゅ!」

私の掌の上で愛らしく尻尾を振りながら私を見つめてくるこの小動物に私は心を持っていかれていた。

「おい、おい!」

「はい!」

だから、あの人の声が聞こえてなかった。この小動物ちゃんが可愛すぎるのだから聞こえてなかったのは許してほしい。

「はぁ、ったく。いいか?そいつは栗鼠という。私の使徒だ。これからお前にはそいつと勝負をしてもらう」

「こんなに小さい子に賭け事をさせるのですか?!」

信じられないとばかりに私は大きく目を見開く。

「誤解が生まれそうな言い方はよしてくれ」

「それに、こんなに小さな動物を使えさせるなど…」

「お前はどうしてそのような言い方しか出来ないのだ。…そうか、文化の違いだな。
だが、そいつは普通の動物とは違う、だから安心しろ」

「普通の動物と違うといえど、愛らしい動物に変わりありませんわ!」

こんなに小さいのに働かされているなんて…。

掌にいる小動物…いえ、リスちゃんの眉間を撫でてあげると気持ち良さそうにきゅ!と鳴いた。

…、私の屋敷に連れて帰りたい…。

「何度も言うがそいつは私の使徒だ。故に連れて帰るなどの愚かなことは考えるなよ」

何故思考がバレているのだろう…。やはり顔に出やすいのかな?

シュンっとしているとリスちゃんがきゅいきゅいと慰めてくれた。

「ありがとう、リスちゃん…」

はぁ、連れて帰りたい。

すると、突然リスちゃんが小屋の方を向いて、聞いたことのないような声で鳴いた。いや、叫んだ。

「ぎゅい!ぎゅぎゅ、ぎゅぎゃァァァァ」

「五月蝿い」

「ぎゅぎゅ!」

「…いや、だから」

「ぎゅぎゃァァァァ」

「……わかった、わかったからやめてくれその声」

「チィィィィィ」

先程までの愛らしい様子は嘘だったかのようにリスちゃんは小屋に向かって威嚇をしていた。

私には何を言ってるかわからなかったけれど、小屋の人はわかったようだ。
姿は見ていないけれど、会話からして少し怖そうな人だったのに、動物と会話できるなんて…メルヘンチックな方だわ。

「お前、今私に対して失礼なことを」

「ぎゅ」

「…名はなんという…」

「エミリア・サンダースと申します」

名前を聞かれ、ハッとしてリスちゃんを掌に乗せたまま挨拶をする。

「違う、そんな長い名前でなく…。もっと短い名はないのか?」

私は比較的短い名前なのだけれど…。もしかして、短い名前とは愛称のことを言うのかしら?

「我が家ではエミリーと呼ばれますわ」

「ふむ、ではエミリーと私も呼ぼう。これで文句ないだろう?」

「きゅ」

首を前後に振ってリスちゃんは肯定していた。ただし、発した鳴き声は低かった。

「ああ、もう先ほどから論点がずれすぎてはないか?賭け事の話から始まったというのに。そもそも私はお前…名前なんてどうでもいいのだ。私はさっさと1人になりたい」

「ぎゅぎゃっ!ぎゅぎゃ」

「あの…先程からこのリスちゃんは何を言っているのでしょう?」

小屋の中にいる人には聞こえて、私には聞こえない。あの人の使徒だから聞こえるのは当たり前だろうけど、どうせなら私もこの可愛らしいリスちゃんとお話ししてみたいわ。

「この偉大なる私に説教をしているのだ」

お説教?!怒っているのはわかったけれど、まさかお説教をしているとは。

「もうそんな話はいいのだ。さっさと勝負を決めてしまおう。栗鼠、手を抜くなよ」

「ええ?!もうですの?!」

「きゅい!」

戸惑っている私にリスちゃんは振り返って、まるで任せておけとでも言っているような笑顔を向けた。

「はい、始め」

その瞬間、風が強く吹いた。

いや、待って展開が早すぎてついていけない!それにあの木の実は私には高すぎる位置にある。無理よ!取れないわあんなの!

呆然としている私を背にリスちゃんは木に向かって走り出した。

「え?!リスちゃん待って!」

私は後を追いかけるものの、リスちゃんの足が速すぎて追いつけない。

普段からマナーの授業で令嬢は走ってはいけませんと強く言われるけれど今回はノーカウントでお願い!

私は幼少期以来、久しぶりに走った気がした。



木の下に着くとリスちゃんはスルスルと木を登って行った。

「どうしよう…」

木登りなんてやったことないし、他にどうすればいいの…?

私は木の下でぐるぐると回っていた。その間にもリスちゃんは上へ上へと登っていく。

ふと下を見ると木の枝がたくさん落ちていた。これを木の実に当てればもしかしたら落ちるかもしれない。
だけど、万が一リスちゃんに当たったりしたら大変だわ。この作戦ではダメね…。

うーんと唸っていると私の頭の上からリスちゃんの鳴き声が聞こえた。

「きゅきゅーい!」

パッと上を向くと上から何かが降ってきた。

(それとって!)

脳内に声が響いた。
その声に無意識に身体が動き、上から降ってきたものをキャッチしていた。

「これって…。木の実?!」

「きゅーい!」

ぽすんッ

そして、上からリスちゃんが私の掌に降ってきた。

「リスちゃん!この木の実…」

「きゅい!」

リスちゃんに持たせようと木の実を渡そうとしたものの、ぐいぐいと押し返された。

「持ってて、ってこと?それにさっきの声…」

ーーチリンッ

あの凛とした鈴の音が聞こえたと思ったら今まで見たことのないような服装をした男の人が目の前に立っていた。

「裏切ったな」

「きゅい?」

「チッ」

「きゅーい?」

「…お前が裏切ったせいで私は負けたではないか。主人を裏切る使徒なんて使徒じゃないな」

「チィィィ」

「先代からの使徒でなければ私は間違いなくお前を見捨てていたぞ。先代に感謝しろ」

美しい白い布に身を包んだその男性は聖女様と同じ漆黒の髪と瞳を持っていた。これを言ってはいけない気がするけれど、聖女様の何倍も艶がある美しい髪を持っている。それに、中性的な整った顔立ちにも関わらず、スラッとした高身長な方だった。

小屋の扉からチラッと見えたあの瞳と同じ、それに同じ声色なことから小屋の中にいた人物と同一人物ということだろう。

「エミリー、大変不服だがお前の勝ちだ。よって望むことを教えてやろうではないか」

「きゅい?きゅきゅきゅ?」

「…」

「あ、ありがとうございます…?」

目の前にいる人の顔をじっくり見てしまったことに気づき、目線を徐々に下に下げた。

待って、本当に私の勝ちでいいのだろうか?

「きゅい?きゅ・きゅ・きゅ」

「…はぁ…。まずは私の社に来い。外で立ち話はなんだからな」

そう言って黒髪の人は元いた小屋の方へと歩いていった。

「きゅい!」

いつの間にか、私の掌から足元へ移動していたリスちゃんがくいくいと制服の裾を引っ張った。
これはついて来いということかしら?

一度しゃがみ、リスちゃんを掌に乗せてから私はあの黒髪の人の後を追った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

皇太子から婚約破棄を言い渡されたので国の果ての塔で隠居生活を楽しもうと思っていたのですが…どうして私は魔王に口説かれているのでしょうか?

高井繭来
恋愛
リコリス・ロコニオ・クレーンカは8歳のころ皇太子に見初められたクレーンカ伯爵の1人娘だ。 しかしリコリスは体が弱く皇太子が尋ねてきても何時も寝所で臥せっていた。 そんな手も握らせないリコリスに愛想をつかした皇太子はリコリスとの婚約を破棄し国の聖女であるディルバ・アーレンと婚約を結ぶと自らの18歳の誕生の宴の場で告げた。 そして聖女ディルバに陰湿な嫌がらせをしたとしてリコリスを果ての塔へ幽閉すると告げた。 しかし皇太子は知らなかった。 クレーンカ一族こそ陰で国を支える《武神》の一族であると言う事を。 そしてリコリスが物心がついた頃には《武神》とし聖女の結界で補えない高位の魔族を屠ってきたことを。 果ての塔へ幽閉され《武神》の仕事から解放されたリコリスは喜びに満ちていた。 「これでやっと好きなだけ寝れますわ!!」 リコリスの病弱の原因は弱すぎる聖女の結界を補うために毎夜戦い続けていた為の睡眠不足であった。 1章と2章で本編は完結となります。 その後からはキャラ達がワチャワチャ騒いでいます。 話しはまだ投下するので、本編は終わってますがこれからも御贔屓ください(*- -)(*_ _)ペコリ

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

今さら遅いと言われる側になったのは、あなたです

有賀冬馬
恋愛
夜会で婚約破棄された私は、すべてを失った――はずだった。 けれど、人生は思いもよらない方向へ転がる。 助けた騎士は、王の右腕。 見下されてきた私の中にある価値を、彼だけが見抜いた。 王城で評価され、居場所を得ていく私。 その頃、私を捨てた元婚約者は、転落の一途をたどる。 「間違いだった」と言われても、もう心は揺れない。 選ばれるのを待つ時代は、終わった。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

処理中です...