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──── 近づいている。
(……せい……おき…)
─── 彼との距離が縮まっている。
(…せいじょ……おきて……)
── もうすぐ逢えるの? 逢いたいわ。
(聖女様……おきて…)
─ 私もそっちに行くわ…………
(聖女様、起きてください)
えっ?!
わたしはコノアの声に気づき目を覚ました。
「ごめんなさい。眠り過ぎてしまったわ」
窓から外を覗くと朝日が昇り、辺り一面に広がる緑生い茂る木々を明るく照らし出していた。
「ごめんなさい。深く眠ってしまったのね。ここは…森?」
「はい、早朝に王都を抜けて、人目につかないように森の中で馬を休ませております。聖女様も食事をなさいましょう。用意はできております」
「みんなは休めたの? 私ばっかりごめんなさいね。何か手伝うことはないかしら」
「順番に仮眠をとっておりますからご心配には及びませんよ。国を抜けるまで二日ほどかかると思います。その間は申し訳ないのですが、野営をすることになりますが……」
「宿に泊まったら危険なのは分かっているわ。だからコノアは謝ったりしないで。それに、聖女の務めで何度も野営を経験しているもの。私はそんなにか弱くないのよ!」
聖女の務めを行う源泉は山間にあり辿り着くまで何日もかかる。その道中は殆ど野営で過ごしているのだから、自然と森での過ごし方は身についていく。
私は腕で力こぶを作りながら笑いかけると、コノアは眩しいものを見たように目を細め笑いかけてくれた。
「聖女様、明るくなられましたね。殿下との婚約が決まってから日に日に窶れていって……笑うことも少なくなってしまったので、皆心配をしておりました」
「みんなに心配かけていたのね。こんなことを言うのは不謹慎だけど、殿下との婚約が破棄されて、少し解放された気分なの。……殿下とお会いするのはやっぱり辛かったから。婚約を破棄されたことで貴方達を巻き込んでしまったのに、こんなことを言ってごめんなさいね」
「そんな! 私達こそ聖女様に謝りたいと思っておりました。国の為に身を犠牲にして下さっているのに、私達は何も手助けが出来なくて。不甲斐ないです」
コノアは悔しそうに下唇を噛みながら目線を下げる。どうかそんな顔をしないで……私はコノアの肩にそっと手を置いて話しかけた。
「そんなことないわ。みんなの存在にどれだけ助けられたことか。教会のみんなは私の角を受け容れてくれたから……それだけで救われていたわ」
蔑まれ白い目で見られていた私を教会のみんなは優しく受け入れてくれた。
自分を受け入れてくれることにどれだけ助けられたことだろう。
「聖女様……」
「あのね! コノアにお願いがあるのだけど、私のことを聖女ではなくて名前で呼んでもらえないかしら。もう聖女では無くなってしまったのだし、それに前からみんなには名前で呼んでもらいたいと思っていたの」
「そうだったのですか。分かりました! これからはクローディア様と呼ばせて頂きますね!」
「あっ『様』はいらないのだけど。それに言葉も崩してもらっても・・・」
「そ、そうですか。えっと…クローディア? う、うーん、そうですね。ちょっとお待ちくださいね。あっ違った。ちょっと待ってね。……なんかしっくりきませんね」
「フフ、コノアの話し方が可笑しくなってる。ゆっくりでいいから少しずつ変えてもらえたら嬉しいの」
「そうですね。少しずつ・・・フフ、これからも宜しくお願いしますね。クローディア様」
そう言うと私達は顔を見合わせ、声を上げて笑いあった。
こんなふうに無邪気に笑えたのはいつぶりかしら。
彼と繋がれたことで自分は少し変わったのだろうか。
彼の存在がどんな困難状況にも立ち向かえる勇気をくれている気がする。
「さあクローディア様、二人が待っていますので外で食事にしましょう」
「ええ、そうね。行きましょう」
困難な状況に変わりはないのに、なぜだか心は晴れやかになっていった。
(……せい……おき…)
─── 彼との距離が縮まっている。
(…せいじょ……おきて……)
── もうすぐ逢えるの? 逢いたいわ。
(聖女様……おきて…)
─ 私もそっちに行くわ…………
(聖女様、起きてください)
えっ?!
わたしはコノアの声に気づき目を覚ました。
「ごめんなさい。眠り過ぎてしまったわ」
窓から外を覗くと朝日が昇り、辺り一面に広がる緑生い茂る木々を明るく照らし出していた。
「ごめんなさい。深く眠ってしまったのね。ここは…森?」
「はい、早朝に王都を抜けて、人目につかないように森の中で馬を休ませております。聖女様も食事をなさいましょう。用意はできております」
「みんなは休めたの? 私ばっかりごめんなさいね。何か手伝うことはないかしら」
「順番に仮眠をとっておりますからご心配には及びませんよ。国を抜けるまで二日ほどかかると思います。その間は申し訳ないのですが、野営をすることになりますが……」
「宿に泊まったら危険なのは分かっているわ。だからコノアは謝ったりしないで。それに、聖女の務めで何度も野営を経験しているもの。私はそんなにか弱くないのよ!」
聖女の務めを行う源泉は山間にあり辿り着くまで何日もかかる。その道中は殆ど野営で過ごしているのだから、自然と森での過ごし方は身についていく。
私は腕で力こぶを作りながら笑いかけると、コノアは眩しいものを見たように目を細め笑いかけてくれた。
「聖女様、明るくなられましたね。殿下との婚約が決まってから日に日に窶れていって……笑うことも少なくなってしまったので、皆心配をしておりました」
「みんなに心配かけていたのね。こんなことを言うのは不謹慎だけど、殿下との婚約が破棄されて、少し解放された気分なの。……殿下とお会いするのはやっぱり辛かったから。婚約を破棄されたことで貴方達を巻き込んでしまったのに、こんなことを言ってごめんなさいね」
「そんな! 私達こそ聖女様に謝りたいと思っておりました。国の為に身を犠牲にして下さっているのに、私達は何も手助けが出来なくて。不甲斐ないです」
コノアは悔しそうに下唇を噛みながら目線を下げる。どうかそんな顔をしないで……私はコノアの肩にそっと手を置いて話しかけた。
「そんなことないわ。みんなの存在にどれだけ助けられたことか。教会のみんなは私の角を受け容れてくれたから……それだけで救われていたわ」
蔑まれ白い目で見られていた私を教会のみんなは優しく受け入れてくれた。
自分を受け入れてくれることにどれだけ助けられたことだろう。
「聖女様……」
「あのね! コノアにお願いがあるのだけど、私のことを聖女ではなくて名前で呼んでもらえないかしら。もう聖女では無くなってしまったのだし、それに前からみんなには名前で呼んでもらいたいと思っていたの」
「そうだったのですか。分かりました! これからはクローディア様と呼ばせて頂きますね!」
「あっ『様』はいらないのだけど。それに言葉も崩してもらっても・・・」
「そ、そうですか。えっと…クローディア? う、うーん、そうですね。ちょっとお待ちくださいね。あっ違った。ちょっと待ってね。……なんかしっくりきませんね」
「フフ、コノアの話し方が可笑しくなってる。ゆっくりでいいから少しずつ変えてもらえたら嬉しいの」
「そうですね。少しずつ・・・フフ、これからも宜しくお願いしますね。クローディア様」
そう言うと私達は顔を見合わせ、声を上げて笑いあった。
こんなふうに無邪気に笑えたのはいつぶりかしら。
彼と繋がれたことで自分は少し変わったのだろうか。
彼の存在がどんな困難状況にも立ち向かえる勇気をくれている気がする。
「さあクローディア様、二人が待っていますので外で食事にしましょう」
「ええ、そうね。行きましょう」
困難な状況に変わりはないのに、なぜだか心は晴れやかになっていった。
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