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15.ギルバート視点
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幼少の頃から『何か』を渇望していた。だが『何か』が何のことなのか分からず、飢える心を持て余していた。
王族としての教育。剣術。作法。話術。ありとあらゆる知識を身につけた。だが飢える心が満たされることはない。
『何か』が足りない。自分の『何か』が欠けてしまっている。飢えた心を満たす方法が知りたくて貪欲に知識を貪った。
そしてようやく一つの可能性に気づいた。
俺は番を求めているのではないか?
番とは獣人にとっての魂の伴侶。会えることは奇跡に近いと言われている。
俺はすぐに行動に移した。
好都合なことにその時の俺は、王太子として王国の領地を視察でまわっていた。これならすぐに見つけ出せると思っていたが、全ての領地をまわっても番に出会えることはなかった。
では、諸外国にいるのか?
だが友好国を巡っても番に会えることはなかった。
どこにいるのだ……想いが募り、焦りに変わっていく。俺には時間がなかった。王太子として、将来の王として、いつまでも独り身でいる訳にはいかない。
周りからも婚約者をと煩く言われていたが、どうしても番を諦めきれず何かと理由をつけて婚約の話は遠ざけていた。
だが、さすがに限界だった。
二十歳になった時、これ以上周りの声を抑えるのは無理があった。
そもそも番など存在しないのではないか。そう思い番を探す事を諦めかけた時、ふいに『彼女の存在』を感じるようになった。なぜ急に存在を感じるようになったのか。まるで検討がつかない。
だが彼女は俺と同じ世界にいる。そう感じるのだ。そう思うと彼女以外の女性を娶ることなど考えられない。
何度も彼女に願った。逢いたいと。俺を求めて欲しいと。だが彼女は俺を必要としていないのか応えてくれない。彼女に必要とされていないと思うと胸が張り裂けそうになる。
それでも諦めきれなかったのは、彼女が苦しんでいると感じたからだ。彼女が苦しんでいるなら助けたい、彼女の痛みを取り除いてやりたい。
何年も願い、ついに彼女が応えてくれた。
彼女と繋がった瞬間の本能的な喜び。彼女の…クローディアの名前を知れた時の高揚感。クローディアと言葉を交わすたびに、飢えた心が彼女への愛おしさで満たされていく。
俺に欠けていた『何か』はクローディアだった。
そう確信した俺はかなり浮かれていたのだろう。
浮かれた俺はクローディアに何か嫌な思いをさせてしまったのかもしれない。マシューズ領に着いてからクローディアの態度がよそよそしい。
何かしてしまったか? 思い当たる節が無いのだが……
俺がしたことはクローディアの額に口付けしたり、頭を擦り付けたり、耳を舐めたり、尻尾で撫でたりしたぐらいだ。本当はもっと愛を囁き彼女に触れたかったが、クローディアが恥ずかしがっているから控えたのだが……。
もしや恥ずかしいのではなく、嫌がっていたのか?
いや、待て……そんな……嫌だったのか?
ま、まさか、俺はクローディアに……
「……嫌われたのだろうか」
「フ、ハッハッハッ」
「マシューズ辺境伯! 何を笑っているのだ!」
思わず呟いた言葉を聞かれてしまったのか、マシューズ辺境伯は腹を抱えて笑っている。
クローディアと別れたあと、マシューズ辺境伯に部屋を案内され今までの経緯を説明していた。
一通り話し終えてクローディアの事を考えていたら……くそ、油断した。
「いえ、失礼致しました。これまで貴方の王としての威厳ある姿を見てきたので、まさかこの様な弱々しいお姿を見ることになるとは……フ、フフフ。クローディア様に縋り付く姿はまるで幼子のようでしたな」
「……情けない姿を見せたな」
クローディアのよそよそしい態度が悲しくて、ついあんな行動を……周りに人がいることなど頭から抜け落ちていた。
よりにもよってこの男に見られるとは。この男には幼少の頃から剣術を習っていたこともあって、どうにも頭が上がらないときがある。
「いえ、そのような事は御座いません。……貴方は幼少の頃より簡単に自分の素顔を見せる方ではなかった。人と接するときは王太子として、相応しい立ち振る舞いをなさっておいででした。勿論、国王になった今でもそうですが」
「…急になんだ? 当然の事だろう」
「左様で御座います。ですがクローディア様とお話ししている時の陛下は、ご自身の身分や立場を忘れているように感じられました。陛下がありのままの自分を見せられるお方と出会えた事を嬉しく思っております」
「……」
王たるものの言動の一挙一足には常に観衆の目が光る。毅然とした態度でいることは、幼き頃から身についていたが……ありのままの自分か。彼女といる時の俺はそう見えるのだろうか。
「お話を聞く限りでは、クローディア様は番の事をご存知無いと思われます。それに貴方が国王陛下だと知り、戸惑われているのでしょう。今は冷静に一から説明をすることを推奨致します」
「…そうだな。助言、感謝する」
「いえ、陛下のお力になれて光栄で御座います」
冷静に……まずはクローディアと話さなければ。
俺にとって君はどれだけ必要な存在かを。
だが、その前に……
「マシューズ辺境伯、急ぎ調べたいことがある。王宮に早馬を出してもらいたい。それと数日のうちに奴が…蛇が動くだろう」
「……ッ!やはりあの国は…」
「ああ、確証は無いが恐らくクローディアの力が蛇を遠ざけていたのだろう。奴のことだ、すぐにクローディアが国を出たことに気づくに違いない。数日の内に荒れるぞ。警戒を怠るな」
「……フォンテーヌ王国は自国を守っていたクローディア様を自ら手放したということでしょうか。愚かとしか思えませんが」
「知らなかったかもしれんがな。だが、今更クローディアを返すつもりもない。自業自得だろう」
「承知致しました。急ぎ早馬を手配致します」
クローディアを無下に扱った国など俺が滅ぼしたいぐらいだ。蛇にどう扱われようと興味はない。
だが、蛇がクローディアに迫る可能性もある。
「俺の番に手出しなどさせない」
クローディアを守る為にも急ぎ情報を集めなくては。
王族としての教育。剣術。作法。話術。ありとあらゆる知識を身につけた。だが飢える心が満たされることはない。
『何か』が足りない。自分の『何か』が欠けてしまっている。飢えた心を満たす方法が知りたくて貪欲に知識を貪った。
そしてようやく一つの可能性に気づいた。
俺は番を求めているのではないか?
番とは獣人にとっての魂の伴侶。会えることは奇跡に近いと言われている。
俺はすぐに行動に移した。
好都合なことにその時の俺は、王太子として王国の領地を視察でまわっていた。これならすぐに見つけ出せると思っていたが、全ての領地をまわっても番に出会えることはなかった。
では、諸外国にいるのか?
だが友好国を巡っても番に会えることはなかった。
どこにいるのだ……想いが募り、焦りに変わっていく。俺には時間がなかった。王太子として、将来の王として、いつまでも独り身でいる訳にはいかない。
周りからも婚約者をと煩く言われていたが、どうしても番を諦めきれず何かと理由をつけて婚約の話は遠ざけていた。
だが、さすがに限界だった。
二十歳になった時、これ以上周りの声を抑えるのは無理があった。
そもそも番など存在しないのではないか。そう思い番を探す事を諦めかけた時、ふいに『彼女の存在』を感じるようになった。なぜ急に存在を感じるようになったのか。まるで検討がつかない。
だが彼女は俺と同じ世界にいる。そう感じるのだ。そう思うと彼女以外の女性を娶ることなど考えられない。
何度も彼女に願った。逢いたいと。俺を求めて欲しいと。だが彼女は俺を必要としていないのか応えてくれない。彼女に必要とされていないと思うと胸が張り裂けそうになる。
それでも諦めきれなかったのは、彼女が苦しんでいると感じたからだ。彼女が苦しんでいるなら助けたい、彼女の痛みを取り除いてやりたい。
何年も願い、ついに彼女が応えてくれた。
彼女と繋がった瞬間の本能的な喜び。彼女の…クローディアの名前を知れた時の高揚感。クローディアと言葉を交わすたびに、飢えた心が彼女への愛おしさで満たされていく。
俺に欠けていた『何か』はクローディアだった。
そう確信した俺はかなり浮かれていたのだろう。
浮かれた俺はクローディアに何か嫌な思いをさせてしまったのかもしれない。マシューズ領に着いてからクローディアの態度がよそよそしい。
何かしてしまったか? 思い当たる節が無いのだが……
俺がしたことはクローディアの額に口付けしたり、頭を擦り付けたり、耳を舐めたり、尻尾で撫でたりしたぐらいだ。本当はもっと愛を囁き彼女に触れたかったが、クローディアが恥ずかしがっているから控えたのだが……。
もしや恥ずかしいのではなく、嫌がっていたのか?
いや、待て……そんな……嫌だったのか?
ま、まさか、俺はクローディアに……
「……嫌われたのだろうか」
「フ、ハッハッハッ」
「マシューズ辺境伯! 何を笑っているのだ!」
思わず呟いた言葉を聞かれてしまったのか、マシューズ辺境伯は腹を抱えて笑っている。
クローディアと別れたあと、マシューズ辺境伯に部屋を案内され今までの経緯を説明していた。
一通り話し終えてクローディアの事を考えていたら……くそ、油断した。
「いえ、失礼致しました。これまで貴方の王としての威厳ある姿を見てきたので、まさかこの様な弱々しいお姿を見ることになるとは……フ、フフフ。クローディア様に縋り付く姿はまるで幼子のようでしたな」
「……情けない姿を見せたな」
クローディアのよそよそしい態度が悲しくて、ついあんな行動を……周りに人がいることなど頭から抜け落ちていた。
よりにもよってこの男に見られるとは。この男には幼少の頃から剣術を習っていたこともあって、どうにも頭が上がらないときがある。
「いえ、そのような事は御座いません。……貴方は幼少の頃より簡単に自分の素顔を見せる方ではなかった。人と接するときは王太子として、相応しい立ち振る舞いをなさっておいででした。勿論、国王になった今でもそうですが」
「…急になんだ? 当然の事だろう」
「左様で御座います。ですがクローディア様とお話ししている時の陛下は、ご自身の身分や立場を忘れているように感じられました。陛下がありのままの自分を見せられるお方と出会えた事を嬉しく思っております」
「……」
王たるものの言動の一挙一足には常に観衆の目が光る。毅然とした態度でいることは、幼き頃から身についていたが……ありのままの自分か。彼女といる時の俺はそう見えるのだろうか。
「お話を聞く限りでは、クローディア様は番の事をご存知無いと思われます。それに貴方が国王陛下だと知り、戸惑われているのでしょう。今は冷静に一から説明をすることを推奨致します」
「…そうだな。助言、感謝する」
「いえ、陛下のお力になれて光栄で御座います」
冷静に……まずはクローディアと話さなければ。
俺にとって君はどれだけ必要な存在かを。
だが、その前に……
「マシューズ辺境伯、急ぎ調べたいことがある。王宮に早馬を出してもらいたい。それと数日のうちに奴が…蛇が動くだろう」
「……ッ!やはりあの国は…」
「ああ、確証は無いが恐らくクローディアの力が蛇を遠ざけていたのだろう。奴のことだ、すぐにクローディアが国を出たことに気づくに違いない。数日の内に荒れるぞ。警戒を怠るな」
「……フォンテーヌ王国は自国を守っていたクローディア様を自ら手放したということでしょうか。愚かとしか思えませんが」
「知らなかったかもしれんがな。だが、今更クローディアを返すつもりもない。自業自得だろう」
「承知致しました。急ぎ早馬を手配致します」
クローディアを無下に扱った国など俺が滅ぼしたいぐらいだ。蛇にどう扱われようと興味はない。
だが、蛇がクローディアに迫る可能性もある。
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