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「ふぅーー」
冷静に、冷静に……。
湯浴みを終え、身支度を整えてからギルのいる部屋へ案内されたが……
えっと、まずは何から話すべきなのかしら。やっぱり浄化の方法を知っているか聞いて……。いえ、その前に不敬を謝って……でもギルと呼んでと言われたし……じゃあギルと呼ぶの? 陛下とお呼びしなくても不敬ではない? ……いえ、その前に助けてもらったお礼を言わないと。
案内してくれた侍女と扉の前で別れてから、ギルに何を話すか考えが纏まらず、ずっと部屋の扉の前で立ち尽くしている。
いい加減にしないと。いつまでもこのままではいられないわ。
「ふぅーー。よし!」
深く息を吐いて気を引き締め、扉をノックしようとすると……ドアノブが回り扉は勝手に開き始めた。
「クローディア? さっきから物音がすると思って、どうした? さぁ中に入って」
「えっ! あ、はい」
ギルが不思議そうな顔をして、部屋の中から扉を開けてくれた。
そんなに騒がしかったのかしら?
……恥ずかしい。
私は恐る恐る部屋に入り、ギルに促されて部屋のソファに腰掛ける。ギルは私の横に座り、真剣な顔で話し始めた。
「クローディア、俺も君と色々話をしたいと思っている。まずは俺の話を聞いてほしい。その、クローディアには獣人の事を知ってもらいたい」
「えっと、、人と獣が交わって産まれた…」
──── サラッ……スルリ……
「そうだ。そして獣人は獣の血が混じっている為、獣の容姿を受け継ぐ。俺の翼や尻尾、クローディアの角は獣の血から受け継がれている。それと獣人には番という唯一無二の存在がある」
「番? そう言えば、私のことを番と言っていた?」
──── クルリ……クルクル……チュッ……
「……ああ、クローディアは俺の番だ。番とは魂で結ばれた運命の伴侶のことだ。獣人は番に出会うことを望んでいるが、番に出会えることは奇跡に近いと言われている」
魂で結ばれた運命の伴侶?
だから初めてギルと繋がった時、あんなに衝撃を受けたのかしら。
「俺はずっと番を、君を求めていた。クローディアに会った時、俺の心は喜びで満ち溢れた。君との仲を深めたくて……その……クローディアの気持ちを考えず触れてしまったことを申し訳なく思っている」
──── クルクル……サラリ……サラ……
シュンと音が聞こえそうな程に気落ちしているギルを見ながら私は彼の言葉を反芻する。
「……私の気持ち?」
「……嫌だったのだろう。俺に触れられるのが」
嫌だった? 私はギルに触れられて嫌だったの?
いえ、、、違う。だって今だって……
「……嫌ではないです。ただ恥ずかしかっただけで。その今だって……」
そう言いながら私はギルの手元に視線を送ると、ギルは「うん? 今?」と不思議そうに呟きながら私の視線を追う。
ーーそして二人の視線は、私の髪を撫でているギルの手元に辿り着くーー
さっきから話をしている最中に、ギルが私の髪を触ったり指に巻き付けたり……その……髪に口付けをしたり……でも嫌だとは思わなかった。
「す、すまない! つい、その、美しい髪だと思って……」
慌てて謝るギルは私の髪から手を離すと、それを寂しいと思ってしまう自分がいることを自覚する。
「いえ、大丈夫です! その、はしたないと思われるかもしれませんが、私は貴方に触れられて……そ、その、嬉しいと思いました……」
……とても凄いことを言ってしまった。
思わずカァーと頬が熱を持っていく。
「ほ、本当に? そうか、良かった。でも、それなら……」
ギルは安堵したような表情で私の頬に優しく触れるが、その目は不安げに揺れている。きっと私の態度が変わったことを聞きたいのだろう。
「それは、その、ギルが、いえ、ギルバート様が国王陛下と知って驚いてしまって。今までの私の態度があまりにも不敬だと思いましたので、申し訳御座いませんでした。その、私のようなものが陛下のお傍にいることは許されないと思ってはいるのですが……」
許されないことは分かっているけど傍にいさせてほしい。そう伝えたいが、もし否定されたらと思うと怖くて言葉が出てこない。
思わず目を伏せると、ギルは私の顔を優しく撫でて頬にそっと唇を落とす。
「どうかそんなことを言わないでくれ。身分なんて関係ない、俺は君と共にいたいと思っている」
「……共に? 陛下のお傍にいても許されるのですか? 私は国を追われた人間ですよ」
「許すもなにも俺が傍にいてほしいと願っているんだ。それに番を引き離すなんて、愚かな考えを持つ者などこの国にはいない。クローディアは俺の傍にいることを望んでくれるのか?」
「私は……許されるのなら私は陛下のお傍にいたいです。どんな形でもいい、貴方の傍にいさせてほしいです」
「どんな形でも? 本当に? ハハ、なら俺が望むのはクローディアが俺の妻になってくれることだ。クローディアの存在を感じるようになったとき、君が苦しんでいるのが分かったのに、なにも出来ずとても歯痒かった。今度は君の傍で守らせてほしい。どうか俺と結婚してくれないだろうか」
ギルは蕩けそうな甘い笑顔で私の手を取り、そっと唇を落とした。
「け、結婚!? ですが、私なんかが…」
結婚なんてできるはずがない……。
「君以外を娶るなんて考えられないよ。番の君なら異議を申し立てるものなどいないさ。ただ、王妃としての教育を受けてもらうことにはなるが……。勿論、俺がクローディアを支えるし出来る限りの事はするつもりだ」
「本当に……私が貴方の…」
妻になってもいいの? 結婚してもいいの?
「クローディア、泣かないでくれ」
困ったような顔でギルは私の涙を拭う。
「ち、違うの。これは嬉しくて……」
ギルの傍にいることができるなんて……。嬉しい。嬉しくて涙が止まらない。
「私、頑張るわ。みんなに認めてもらえるように」
「クローディア・・・」
ギルは私の涙を拭うように唇を落とし、熱を含んだ目で私を見つめる。
私はそっと目を閉じると・・・・
私の唇に優しく温かいギルの唇が重なった。
冷静に、冷静に……。
湯浴みを終え、身支度を整えてからギルのいる部屋へ案内されたが……
えっと、まずは何から話すべきなのかしら。やっぱり浄化の方法を知っているか聞いて……。いえ、その前に不敬を謝って……でもギルと呼んでと言われたし……じゃあギルと呼ぶの? 陛下とお呼びしなくても不敬ではない? ……いえ、その前に助けてもらったお礼を言わないと。
案内してくれた侍女と扉の前で別れてから、ギルに何を話すか考えが纏まらず、ずっと部屋の扉の前で立ち尽くしている。
いい加減にしないと。いつまでもこのままではいられないわ。
「ふぅーー。よし!」
深く息を吐いて気を引き締め、扉をノックしようとすると……ドアノブが回り扉は勝手に開き始めた。
「クローディア? さっきから物音がすると思って、どうした? さぁ中に入って」
「えっ! あ、はい」
ギルが不思議そうな顔をして、部屋の中から扉を開けてくれた。
そんなに騒がしかったのかしら?
……恥ずかしい。
私は恐る恐る部屋に入り、ギルに促されて部屋のソファに腰掛ける。ギルは私の横に座り、真剣な顔で話し始めた。
「クローディア、俺も君と色々話をしたいと思っている。まずは俺の話を聞いてほしい。その、クローディアには獣人の事を知ってもらいたい」
「えっと、、人と獣が交わって産まれた…」
──── サラッ……スルリ……
「そうだ。そして獣人は獣の血が混じっている為、獣の容姿を受け継ぐ。俺の翼や尻尾、クローディアの角は獣の血から受け継がれている。それと獣人には番という唯一無二の存在がある」
「番? そう言えば、私のことを番と言っていた?」
──── クルリ……クルクル……チュッ……
「……ああ、クローディアは俺の番だ。番とは魂で結ばれた運命の伴侶のことだ。獣人は番に出会うことを望んでいるが、番に出会えることは奇跡に近いと言われている」
魂で結ばれた運命の伴侶?
だから初めてギルと繋がった時、あんなに衝撃を受けたのかしら。
「俺はずっと番を、君を求めていた。クローディアに会った時、俺の心は喜びで満ち溢れた。君との仲を深めたくて……その……クローディアの気持ちを考えず触れてしまったことを申し訳なく思っている」
──── クルクル……サラリ……サラ……
シュンと音が聞こえそうな程に気落ちしているギルを見ながら私は彼の言葉を反芻する。
「……私の気持ち?」
「……嫌だったのだろう。俺に触れられるのが」
嫌だった? 私はギルに触れられて嫌だったの?
いえ、、、違う。だって今だって……
「……嫌ではないです。ただ恥ずかしかっただけで。その今だって……」
そう言いながら私はギルの手元に視線を送ると、ギルは「うん? 今?」と不思議そうに呟きながら私の視線を追う。
ーーそして二人の視線は、私の髪を撫でているギルの手元に辿り着くーー
さっきから話をしている最中に、ギルが私の髪を触ったり指に巻き付けたり……その……髪に口付けをしたり……でも嫌だとは思わなかった。
「す、すまない! つい、その、美しい髪だと思って……」
慌てて謝るギルは私の髪から手を離すと、それを寂しいと思ってしまう自分がいることを自覚する。
「いえ、大丈夫です! その、はしたないと思われるかもしれませんが、私は貴方に触れられて……そ、その、嬉しいと思いました……」
……とても凄いことを言ってしまった。
思わずカァーと頬が熱を持っていく。
「ほ、本当に? そうか、良かった。でも、それなら……」
ギルは安堵したような表情で私の頬に優しく触れるが、その目は不安げに揺れている。きっと私の態度が変わったことを聞きたいのだろう。
「それは、その、ギルが、いえ、ギルバート様が国王陛下と知って驚いてしまって。今までの私の態度があまりにも不敬だと思いましたので、申し訳御座いませんでした。その、私のようなものが陛下のお傍にいることは許されないと思ってはいるのですが……」
許されないことは分かっているけど傍にいさせてほしい。そう伝えたいが、もし否定されたらと思うと怖くて言葉が出てこない。
思わず目を伏せると、ギルは私の顔を優しく撫でて頬にそっと唇を落とす。
「どうかそんなことを言わないでくれ。身分なんて関係ない、俺は君と共にいたいと思っている」
「……共に? 陛下のお傍にいても許されるのですか? 私は国を追われた人間ですよ」
「許すもなにも俺が傍にいてほしいと願っているんだ。それに番を引き離すなんて、愚かな考えを持つ者などこの国にはいない。クローディアは俺の傍にいることを望んでくれるのか?」
「私は……許されるのなら私は陛下のお傍にいたいです。どんな形でもいい、貴方の傍にいさせてほしいです」
「どんな形でも? 本当に? ハハ、なら俺が望むのはクローディアが俺の妻になってくれることだ。クローディアの存在を感じるようになったとき、君が苦しんでいるのが分かったのに、なにも出来ずとても歯痒かった。今度は君の傍で守らせてほしい。どうか俺と結婚してくれないだろうか」
ギルは蕩けそうな甘い笑顔で私の手を取り、そっと唇を落とした。
「け、結婚!? ですが、私なんかが…」
結婚なんてできるはずがない……。
「君以外を娶るなんて考えられないよ。番の君なら異議を申し立てるものなどいないさ。ただ、王妃としての教育を受けてもらうことにはなるが……。勿論、俺がクローディアを支えるし出来る限りの事はするつもりだ」
「本当に……私が貴方の…」
妻になってもいいの? 結婚してもいいの?
「クローディア、泣かないでくれ」
困ったような顔でギルは私の涙を拭う。
「ち、違うの。これは嬉しくて……」
ギルの傍にいることができるなんて……。嬉しい。嬉しくて涙が止まらない。
「私、頑張るわ。みんなに認めてもらえるように」
「クローディア・・・」
ギルは私の涙を拭うように唇を落とし、熱を含んだ目で私を見つめる。
私はそっと目を閉じると・・・・
私の唇に優しく温かいギルの唇が重なった。
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