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6.張り込み
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「うーん。まだ来てないのかしら。」
私はあれから真っ直ぐ裏庭に向かい、今は草陰に隠れてオークの木を見つめている。正直その姿は周りから見れば不審者極まりないが、エリー様が髪飾りを掘り返しにくるかもしれないと思い、現在張り込み中なのだ。
(ヴァネッサ様に取られたなんて絶対に嘘だわ。だってあり得ないもの。)
『ヴァネッサ・パーシヴァル』は乙女ゲームで殿下ルートの婚約者である。
ヴァネッサ様は筆頭公爵家のご令嬢で、殿下とは幼少の頃から婚約している。規律を重んじる性格で、マナーや作法を完璧にこなし淑女の模範となる様なお方だ。ただ己に厳しく人に弱さを見せない性格が災いして殿下との仲は冷め切っている。
そして殿下はヒロインと出会い真実の愛に気がつくのだ。
(だいたいヴァネッサ様は嫌がらせなんて絶対にしないわ。ライバル令嬢なのにヒロインに嫌がらせしたことなんて無いんだから。)
乙女ゲームでは『あるある』なライバル令嬢からの嫌がらせだか、ヴァネッサ様から嫌がらせされることはない。
ヴァネッサ様は殿下とヒロインの仲が進展するとある提案をしてくる。
『男爵令嬢が殿下の婚約者になるには身分が足りないので、あくまで愛人として殿下を支えるように。そして二人で殿下を支えていこう。』と。
この提案を受け入れるとバッドエンドになるが、提案を跳ね除け『真実の愛』を掲げた二人が、周囲の人達に認められ婚約者の座を勝ち取るのがハッピーエンドだ。そしてヴァネッサ様は自ら身を引き、ヒロインの良き理解者として支えてくれる。
(去り際の姿でさえ美しいのがヴァネッサ様なのよ。『嫌がらせするヴァネッサ様』なんて…。こんなの乙女ゲームに対する冒涜だわ!キャラがまるで違うじゃない!)
このゲームは攻略対象者だけでなく、ライバル令嬢のキャラ達もしっかりと丁寧に作られている。最初はヒロインと敵対するが、最後にはヒロインを認めて婚約者の座を降りてくれる。ヒロインは誰から恨まれず、とても後味が良いハッピーエンドを迎える。だからこそ美織はこのゲームが一番大好きだったのだ。
「でも、さすがに今日掘り返すことはしないか…。指摘されてすぐに掘り返すなんて『疑って下さい』って言ってるようなものだし。」
私の裏庭発言から隠し場所を移動するかと思ったが……。
さすがにすぐ移動するのは怪しいと思ったのかもしれない。
「日を改めて張り込みするか……。」
髪飾りを掘り返してエリー様に突き付けようかと思ったが、逆に私に盗まれたと言い出しかねない。やはり現場を押さえるのが一番だ。
帰りが遅くなってアンナを心配させるのは申し訳ないので、日を改めてまた張り込みしようと決めた。
私はよっこらしょと淑女にあるまじき掛け声で立ち上がろうとした時、、、
「…⁉︎、な、、何をしているんだ?」
男性の驚いたような困惑しているかのような声が聞こえきて、私は後ろを振りかえり思わず目を見張った。
(あ!!この前の"不審者らしき人"だわ!)
聖地巡礼をしてる時に見かけた青年が驚きの表情でこちらを見ている。あの時はシャツとトラウザーズで簡易な服装だったが、今は学園の制服を身に纏っている。
(この学園の生徒だったのね。通報しなくてよかった。)
私は安堵の気持ちと同時に目の前の青年が気になり思わず繁々と観察してしまう。庭園の時は、とっさに逃げてしまって黒髪しか印象に残ってなかったが、改めて見ると彼は端正な顔立ちをしていた。
艶がある黒髪を短く整え、鼻筋が通り切れ長の目をしている。男らしい体つきや背の高さも相まって一見威圧感を感じるが、彼から発せられる雰囲気から真面目な人柄も感じられた。
何より目を奪われるのは、、、
(すごい……とても綺麗なオッドアイ……。涼しげな薄い青色の瞳と暖かみを感じる茶色の瞳…。相反する色合いなのに、なぜこんなに美しいの。)
私は彼の瞳に吸い込まれるように見つめてしまう。瞳の美しさだけではなく、不思議と彼の瞳を見ると、記憶の奥底を刺激される感覚に陥る。
(……私……この瞳を知っている?……)
記憶から何かが蘇ってきそうになったが、彼が戸惑いながらこちらを窺う姿を見て、ハッと正気に戻った。
(いけないわ!名乗りもせずに見つめるなんて失礼過ぎる。)
私は慌ててカーテシーをとり頭を下げる。
「不躾な態度をとってしまい大変失礼致しました。非礼をお詫び致します。」
彼の佇まいの気品さからみて、恐らく上流貴族なのだろう。私は『不敬罪』の三文字が頭をよぎり、恐怖から体が小刻みに震えてしまう。
「ま、、待ってくれ!謝るのは私の方だ。」
彼は慌てたような声で「頭を上げてくれ」と口早に話しかけてきたので、私は恐る恐る頭を上げて彼の様子を窺った。
「その、、私はアルフレッド・ウィンスレットと申します。先日庭園でお見かけした際に、貴方を怖がらせてしまった。その事を詫びたいと思っていたのです。」
たしかウィンスレット伯爵家といえば、王国の交易の要を担っているはずだ。
(あれ?…ウィンスレット?……いや、そんなことより挨拶を…)
「ご丁寧にありがとう御座います。私はトレヴァー・マイヤーズが娘 リリアと申します。私のようなものにお詫びなど畏れ多いことで御座います。」
私の態度を見た彼は哀しい目をしながらポソリと呟いた。
「……君は…やはり覚えてないのか…。」
(えっ?何を??)
彼の発言を不思議に思いながら、ふと先ほど何かを思い出しかけたような気がすると思ったその時、、
(えっ⁉︎ あ、あらーーー!!き、来た!!)
私はあれから真っ直ぐ裏庭に向かい、今は草陰に隠れてオークの木を見つめている。正直その姿は周りから見れば不審者極まりないが、エリー様が髪飾りを掘り返しにくるかもしれないと思い、現在張り込み中なのだ。
(ヴァネッサ様に取られたなんて絶対に嘘だわ。だってあり得ないもの。)
『ヴァネッサ・パーシヴァル』は乙女ゲームで殿下ルートの婚約者である。
ヴァネッサ様は筆頭公爵家のご令嬢で、殿下とは幼少の頃から婚約している。規律を重んじる性格で、マナーや作法を完璧にこなし淑女の模範となる様なお方だ。ただ己に厳しく人に弱さを見せない性格が災いして殿下との仲は冷め切っている。
そして殿下はヒロインと出会い真実の愛に気がつくのだ。
(だいたいヴァネッサ様は嫌がらせなんて絶対にしないわ。ライバル令嬢なのにヒロインに嫌がらせしたことなんて無いんだから。)
乙女ゲームでは『あるある』なライバル令嬢からの嫌がらせだか、ヴァネッサ様から嫌がらせされることはない。
ヴァネッサ様は殿下とヒロインの仲が進展するとある提案をしてくる。
『男爵令嬢が殿下の婚約者になるには身分が足りないので、あくまで愛人として殿下を支えるように。そして二人で殿下を支えていこう。』と。
この提案を受け入れるとバッドエンドになるが、提案を跳ね除け『真実の愛』を掲げた二人が、周囲の人達に認められ婚約者の座を勝ち取るのがハッピーエンドだ。そしてヴァネッサ様は自ら身を引き、ヒロインの良き理解者として支えてくれる。
(去り際の姿でさえ美しいのがヴァネッサ様なのよ。『嫌がらせするヴァネッサ様』なんて…。こんなの乙女ゲームに対する冒涜だわ!キャラがまるで違うじゃない!)
このゲームは攻略対象者だけでなく、ライバル令嬢のキャラ達もしっかりと丁寧に作られている。最初はヒロインと敵対するが、最後にはヒロインを認めて婚約者の座を降りてくれる。ヒロインは誰から恨まれず、とても後味が良いハッピーエンドを迎える。だからこそ美織はこのゲームが一番大好きだったのだ。
「でも、さすがに今日掘り返すことはしないか…。指摘されてすぐに掘り返すなんて『疑って下さい』って言ってるようなものだし。」
私の裏庭発言から隠し場所を移動するかと思ったが……。
さすがにすぐ移動するのは怪しいと思ったのかもしれない。
「日を改めて張り込みするか……。」
髪飾りを掘り返してエリー様に突き付けようかと思ったが、逆に私に盗まれたと言い出しかねない。やはり現場を押さえるのが一番だ。
帰りが遅くなってアンナを心配させるのは申し訳ないので、日を改めてまた張り込みしようと決めた。
私はよっこらしょと淑女にあるまじき掛け声で立ち上がろうとした時、、、
「…⁉︎、な、、何をしているんだ?」
男性の驚いたような困惑しているかのような声が聞こえきて、私は後ろを振りかえり思わず目を見張った。
(あ!!この前の"不審者らしき人"だわ!)
聖地巡礼をしてる時に見かけた青年が驚きの表情でこちらを見ている。あの時はシャツとトラウザーズで簡易な服装だったが、今は学園の制服を身に纏っている。
(この学園の生徒だったのね。通報しなくてよかった。)
私は安堵の気持ちと同時に目の前の青年が気になり思わず繁々と観察してしまう。庭園の時は、とっさに逃げてしまって黒髪しか印象に残ってなかったが、改めて見ると彼は端正な顔立ちをしていた。
艶がある黒髪を短く整え、鼻筋が通り切れ長の目をしている。男らしい体つきや背の高さも相まって一見威圧感を感じるが、彼から発せられる雰囲気から真面目な人柄も感じられた。
何より目を奪われるのは、、、
(すごい……とても綺麗なオッドアイ……。涼しげな薄い青色の瞳と暖かみを感じる茶色の瞳…。相反する色合いなのに、なぜこんなに美しいの。)
私は彼の瞳に吸い込まれるように見つめてしまう。瞳の美しさだけではなく、不思議と彼の瞳を見ると、記憶の奥底を刺激される感覚に陥る。
(……私……この瞳を知っている?……)
記憶から何かが蘇ってきそうになったが、彼が戸惑いながらこちらを窺う姿を見て、ハッと正気に戻った。
(いけないわ!名乗りもせずに見つめるなんて失礼過ぎる。)
私は慌ててカーテシーをとり頭を下げる。
「不躾な態度をとってしまい大変失礼致しました。非礼をお詫び致します。」
彼の佇まいの気品さからみて、恐らく上流貴族なのだろう。私は『不敬罪』の三文字が頭をよぎり、恐怖から体が小刻みに震えてしまう。
「ま、、待ってくれ!謝るのは私の方だ。」
彼は慌てたような声で「頭を上げてくれ」と口早に話しかけてきたので、私は恐る恐る頭を上げて彼の様子を窺った。
「その、、私はアルフレッド・ウィンスレットと申します。先日庭園でお見かけした際に、貴方を怖がらせてしまった。その事を詫びたいと思っていたのです。」
たしかウィンスレット伯爵家といえば、王国の交易の要を担っているはずだ。
(あれ?…ウィンスレット?……いや、そんなことより挨拶を…)
「ご丁寧にありがとう御座います。私はトレヴァー・マイヤーズが娘 リリアと申します。私のようなものにお詫びなど畏れ多いことで御座います。」
私の態度を見た彼は哀しい目をしながらポソリと呟いた。
「……君は…やはり覚えてないのか…。」
(えっ?何を??)
彼の発言を不思議に思いながら、ふと先ほど何かを思い出しかけたような気がすると思ったその時、、
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