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鬱蒼とした森
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夜子は不眠症だ
一体いつから眠れなくなったのかは分からない
ずっと眠たいけど、何故か眠れない
寝るには薬を飲むか、人が居るところでないといけない
だから学生時代、教室で眠っていた夜子は教師から嫌われていた
『別に授業がつまらないとかじゃないのにな
あぁ、いやつまらないけど
そんな理由で眠ってる訳じゃないのに』
そんなことを思っても、わざわざ説明するなんて面倒は御免だった
そんな夜子の様子に気がついたのは担任だった
「なぁ、夜凪…
もしかして、家で眠れてないんじゃないか?」
「……別に」
若くてかっこよくて“良い”教師だった
けどだからといって夜子が優先したいのは自分の悩みとか愚痴とかそんなのよりも睡眠だった
夜子はただ眠りたい
ゆっくりと、良い夢を見ながら心地よい温かさに包まれて眠りたい
「夜凪」
「……なに」
「話すだけ話してみてほしい」
嫌だよ
だって眠たいもん
でもきっと今を逃したら話を聞いてもらうことは出来ないんじゃないか
そんなことをふと思う
「…………不眠症で、1人の時は、眠れない」
「1人の時は?
人が居たら眠れるのか?」
「うん
昔からそう
家で寝たことはほとんどない」
「……そうだったのか
夜凪が特別不良だとかやる気がないだとかそういうのではなく、何か問題を抱えて居るのなら怒るとかそういうのは違うんじゃないかと思ったんだ」
「…別に、いいよ
先生、俺は嫌われたって何したって
それに思うことは無いから」
「そうは言ってもなぁ」
はは、と笑う
夜子があまりにも無感情だから
担任は笑うしか無かった
「ならせんせ、仕事が終わったらこの空き教室に居てよ
俺、最終バスまではここで本読んだり時々は廊下を走る運動部の足音とかでうとうとできるんだ」
「…分かった
そうすれば少しは授業中の居眠りも無くなるか」
「さぁ」
願いが聞き入れられたと分かれば夜子は早々に本を開いて担任の声に生返事を返した
ただ、担任の方では夜子のこの願いはたった一つの何にも変え難い願いなのだと気がついていた
「じゃあ、また後で戻ってくるから」
「…」
誠実な教師だと、夜子も知っていた
彼が立ち去った後に数回クラスメイトが教室に用事を済ませに来たり、談話しに来たりと行き来があったが
ほんの少し眠れるだけで
決してゆっくりは出来なかった
眠気はあるのに一向に眠れずイライラが募る
貧乏ゆすり、歯ぎしり
手の甲を爪でガリガリと削る
そんなことをしているから普段誰からも話しかけられず友達もできないのだろうが
眠れないことが何よりの苦痛だった
そうこうしているうちに手の甲の薄い皮膚や爪から血が滲む
睡眠不足の夜子の痛覚はやたら鈍く
痛みによってそれらの行為を辞めることは無かった
「っと、おい」
慌てたようにぐい、と腕を掴まれる
「あ」
「なにしてる」
「別に」
いらだちを隠そうともしない声色でそう言った
「ほら、来たから」
「…」
「あ、でも寝る前に少し待ってくれ」
「何」
「ほらいいから
手出せ」
「…」
帰り支度まで済ませてきたらしく、黒い無骨なリュックを机の横に置いて小さな救急セットを取り出した
「最近の男にしちゃマメだろ」
「最近、ね。」
余計なことを言われるのだろうと構えていたために拍子抜けして肩の力が抜ける
かさぶたの剥がれた傷口からポトポトと血が滴っているのに気づいてようやく痛みやヒリヒリとした感覚がやってきた
「俺はまだ若いぞ
おー、結構深いな
手持ちで手当できるかな」
手当用の除菌シート、絆創膏、ガーゼ、テープに包帯
それがきちんとまとめられた小箱
ひんやりと濡れている除菌シートを手の甲に優しく乗せられる
「痛い」
「ほっといても痛いだろ
大丈夫だ、結構上手だから」
「…」
消毒は沁みたが嫌ではなかった
軟膏を塗ったらガーゼを当てて包帯を巻かれる
手当てをされた
夜子は多分嬉しかった
記憶の中に残り続けるだろうと漠然と思ったくらいには
「ほら、この方が治りも早いって」
「…眠い」
「おう、おやすみ
俺は最終バスの時間まで本読んどくよ」
「…ん」
こんなに生徒一人一人に世話を焼かなきゃ行けないなんて
絶対に教師にはなりたくないな
まぁなりたくてもなれないけど
そんなことを緩く考えて体勢を治して目を閉じた
『これは眠れそうだ』
夜この前の席で静かに読書をしている担任にありがとう位は言っておこうかと、そう思ったところで意識が途切れた
一体いつから眠れなくなったのかは分からない
ずっと眠たいけど、何故か眠れない
寝るには薬を飲むか、人が居るところでないといけない
だから学生時代、教室で眠っていた夜子は教師から嫌われていた
『別に授業がつまらないとかじゃないのにな
あぁ、いやつまらないけど
そんな理由で眠ってる訳じゃないのに』
そんなことを思っても、わざわざ説明するなんて面倒は御免だった
そんな夜子の様子に気がついたのは担任だった
「なぁ、夜凪…
もしかして、家で眠れてないんじゃないか?」
「……別に」
若くてかっこよくて“良い”教師だった
けどだからといって夜子が優先したいのは自分の悩みとか愚痴とかそんなのよりも睡眠だった
夜子はただ眠りたい
ゆっくりと、良い夢を見ながら心地よい温かさに包まれて眠りたい
「夜凪」
「……なに」
「話すだけ話してみてほしい」
嫌だよ
だって眠たいもん
でもきっと今を逃したら話を聞いてもらうことは出来ないんじゃないか
そんなことをふと思う
「…………不眠症で、1人の時は、眠れない」
「1人の時は?
人が居たら眠れるのか?」
「うん
昔からそう
家で寝たことはほとんどない」
「……そうだったのか
夜凪が特別不良だとかやる気がないだとかそういうのではなく、何か問題を抱えて居るのなら怒るとかそういうのは違うんじゃないかと思ったんだ」
「…別に、いいよ
先生、俺は嫌われたって何したって
それに思うことは無いから」
「そうは言ってもなぁ」
はは、と笑う
夜子があまりにも無感情だから
担任は笑うしか無かった
「ならせんせ、仕事が終わったらこの空き教室に居てよ
俺、最終バスまではここで本読んだり時々は廊下を走る運動部の足音とかでうとうとできるんだ」
「…分かった
そうすれば少しは授業中の居眠りも無くなるか」
「さぁ」
願いが聞き入れられたと分かれば夜子は早々に本を開いて担任の声に生返事を返した
ただ、担任の方では夜子のこの願いはたった一つの何にも変え難い願いなのだと気がついていた
「じゃあ、また後で戻ってくるから」
「…」
誠実な教師だと、夜子も知っていた
彼が立ち去った後に数回クラスメイトが教室に用事を済ませに来たり、談話しに来たりと行き来があったが
ほんの少し眠れるだけで
決してゆっくりは出来なかった
眠気はあるのに一向に眠れずイライラが募る
貧乏ゆすり、歯ぎしり
手の甲を爪でガリガリと削る
そんなことをしているから普段誰からも話しかけられず友達もできないのだろうが
眠れないことが何よりの苦痛だった
そうこうしているうちに手の甲の薄い皮膚や爪から血が滲む
睡眠不足の夜子の痛覚はやたら鈍く
痛みによってそれらの行為を辞めることは無かった
「っと、おい」
慌てたようにぐい、と腕を掴まれる
「あ」
「なにしてる」
「別に」
いらだちを隠そうともしない声色でそう言った
「ほら、来たから」
「…」
「あ、でも寝る前に少し待ってくれ」
「何」
「ほらいいから
手出せ」
「…」
帰り支度まで済ませてきたらしく、黒い無骨なリュックを机の横に置いて小さな救急セットを取り出した
「最近の男にしちゃマメだろ」
「最近、ね。」
余計なことを言われるのだろうと構えていたために拍子抜けして肩の力が抜ける
かさぶたの剥がれた傷口からポトポトと血が滴っているのに気づいてようやく痛みやヒリヒリとした感覚がやってきた
「俺はまだ若いぞ
おー、結構深いな
手持ちで手当できるかな」
手当用の除菌シート、絆創膏、ガーゼ、テープに包帯
それがきちんとまとめられた小箱
ひんやりと濡れている除菌シートを手の甲に優しく乗せられる
「痛い」
「ほっといても痛いだろ
大丈夫だ、結構上手だから」
「…」
消毒は沁みたが嫌ではなかった
軟膏を塗ったらガーゼを当てて包帯を巻かれる
手当てをされた
夜子は多分嬉しかった
記憶の中に残り続けるだろうと漠然と思ったくらいには
「ほら、この方が治りも早いって」
「…眠い」
「おう、おやすみ
俺は最終バスの時間まで本読んどくよ」
「…ん」
こんなに生徒一人一人に世話を焼かなきゃ行けないなんて
絶対に教師にはなりたくないな
まぁなりたくてもなれないけど
そんなことを緩く考えて体勢を治して目を閉じた
『これは眠れそうだ』
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