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第一章 〜想いに隠していた事実〜
兄を奪った犯人を許さない
しおりを挟むご主人との散歩から数日が経過した、日向ぼっこには最高な昼下がり。吾輩はいつも寝床にしている滑り台のある、古びた遊具まみれの公園に来ていた。
いつものように陽の光を浴びて寝そべる、この何物にも代えがたい至福のひとときを満喫していると、話し声が聞こえてきた。それも男女の声だ。なにやら、女性の方は今にも泣き出しそうな声をしている。
「ごめんねユウくん。でもあたし、最近またお兄ちゃんの夢を観るようになったの」
「大丈夫だ。分かったから、落ち着くまでここで一休みしよう。あの事件から、4年は経とうとしている。でも、瀬奈には昨日のように思い出されるんだよな。今日も俺が傍についているから」
「う、うん……ありがとう」
おいおい勘弁してくれよ。ここは吾輩の昼寝をする楽園なんだぞ?それなのに、染み染みしたカップルの休憩所にされちまった。
いや待てよ?あの顔どこかで見たことがあるな。それもついこの間だ。しかし、何処で見かけたのだろうか───。
「あっ、この前の猫ちゃん」
「ほんとだ。飼い主が居ても猫は単独行動するって言うけど、本当なんだな」
その言葉でピンと来た。
そうだ、この間ご主人が視線を向けていたカップルじゃないか。何か言っていた気がするな、でも思い出せないからいいか。
なんだかんだ話し込んでいる会話を盗み聞きする、いや猫になんか構わずに語っているだけだから盗み聞きしている訳ではないのだが。ユウくんと呼ばれている彼氏の方は、親父が警察官らしい。彼女の方は瀬奈と呼ばれている、四年前に帰宅した際に唯一の肉親であった兄が遺体で見つかったみたいだ。
他殺ではあったが、凶器の特定が出来ないだかってことで捜査は難航して、現在も事件は進展を見せない形で未解決のままのようだ。以来、瀬奈は悪夢に苦しむようになったらしく、度々こうして起きている間も精神的に辛くなる事が多いという。
「この前もね、ユウくんが来てくれるって電話くれた日。またアレを見たの。お兄ちゃんが殺されたショックじゃなくて、別の夢……」
「暗くて姿が見えない、よく分からない人に首を絞められる夢の話かい?俺の紹介した医者の処方してくれた睡眠薬はちゃんと飲んでいる?あれ以上にキツい薬は副作用が瀬奈に襲いかかってしまう」
「その日も飲んだんだよ?そしたら、寝に落ちた途端にアレが始まって……。夢の中で抵抗しているのか、首には痣が着くくらいにあたし触っちゃってたんだよね……」
これは相当に重症のようだ。
吾輩みたいな猫には、人間のそういったセンチメンタルな部分は理解出来ない。よく見ると、確かに瀬奈という女性の首には首を絞められたであろう痣が、消えかかってはいるが残っている。
しかし妙だ。自分で夢の中で抵抗していて着いた痣にしては、広がり方が違うのではないか?おっといかんいかん、ご主人の家が探偵事務所であるせいだろうか。変に人間観察のレベルが高い言い方をしてしまったな。吾輩はこのカップルに興味はないので、昼寝が満足に出来ないのならそろそろ別の場所へ移動するとしようかな。
『───あの人、臭う───』
ふと、ご主人の言葉が頭の中を過ぎった。同時にあの言葉を放った時に見ていた方向を、フラッシュバックさせて頭を自然と向けてしまっていた。
「ん?なんだ、あの猫。俺の顔に何かついているのか?」
「猫ちゃん可愛い。ユウくん、きっとここは猫ちゃんのお昼寝の場所なんだよ。あたしならもう大丈夫だから、どこかお店に寄ろう?」
分かる女の子だ。おかげでこっちは移動しなくて済みそうだ。
ユウは何度か瀬奈に気をかけつつ、彼女に肩を貸して背中を擦りながらゆっくりと公園を後にした。
ようやく、独壇場になった。夕陽になるまでには、まだ少し時間があるので昼寝をしようと定位置に戻る。横になっていると、突如として陽の光が遮られる。片目を開けて、何事を起きたのかを確認する。やはりそうでしたかと思い、「ニャァ」と声を上げる。
「ファシィ、あの人達……追うよ……」
最悪だ。でも、ご主人の願いを聞かないとご飯しか食べられなくなる。
おやつがなくなるだけだろって?おいおいふざけるなよ!チュールってのはな、猫にとって本食みたいなもんなんだよ。ご飯なんかよりも、何倍も美味しいご馳走なんだ。
それを取り上げられることが、人間で例えるところの何なのかは分からない。だが、ご主人からチュールを貰えなくなるのは死活問題だ。こうなれば、思い出してしまった吾輩自身にも責任があるとして、ご主人とともに臭う彼を調べてみることにしよう。
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