だから人間が好き

韋虹姫 響華

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第三章 〜ちょっと変わったお客さん〜

撮影開始

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 普段は黒フードで素顔をほとんど見せない。バイト先のメイド服はウィッグでサイドテールを付けているため、印象が違って見えていた。
 それが今、いつものショートボブの髪型でギャルソンヌルックのメイド姿に身を包み、メイドカチューシャ……ではなくヘッドドレスを頭に挿している。これぞ本場のメイドだということが、ひと目でわかる出で立ちを見せている。
 肩から膝下に掛けて伸びる白エプロン、ふくらはぎから足首までの肌を露出させるスカート、手にかけられている白布、その三拍子も事乍ことながらのご主人の冷ややかな目。正にクール系メイドがそこには立っていた。

「…………。」
「あ、あの……。わたくしのは……、バ、バニーでしょうか?」
「違う、違うよ!ソレイユちゃんのは、フレンチスタイルっていうメイドなんだ!このメイド服はね───」

 呆れた。この男、生粋きっすいの日本人にして生粋のメイドオタクだ。それも、かなり高等かつ博識なまでに知識を持ち合わせている。
 ソレイユ、神木原かみきばら 麗由りゆは自前のメイド服で撮影を終えた後に、この格好に着替えさせられたわけだ。そんでもって、フレンチメイドと言うだけあってか露出が高い。お団子ヘアーにしていた髪はポニーテールに結び直され、メイドのフリフリ感のあるシュシュで留られいる。首にもシュシュを巻き、胸元は谷間が見える位置までが開けている。
 コルセットのような腹部の布構造により、普段メイド服で隠されていた胸元はそのサイズを強調されているものとなっていた。隠れ巨乳とは言ったものだと、カメラマンはカメラを構えながらソレイユを褒め殺して、シャッターを切っていく。
 恥ずかしそうに顔を赤らめながら、撮られているソレイユが気にしているのは脚元の方だ。本人がバニーメイドと間違えるのも無理はない。ガーター付き網タイツにこれでもかというほど、丈の短いミニスカート。これは猫の吾輩でも分かる、エロに極振りされているメイド服だ。

「ソレイユちゃん、脚元隠さないよ!ほら、もっと笑って!胸のライン強調するために胸を張って!!」
「は、はいっ!!」

 ルビー色の髪の毛と見分けがつかないくらいに赤面し、ソワソワしながらも写真写りを気にした指示を聞き入れてポーズを取ってみせる。それを見た吾輩は、ご主人とおんなじことを心で呟いた。

『『ダメだこの人、生真面目過ぎる』』

 そのソレイユを見る呆れ切った目が、ご主人のクール系メイドを引き立たせたのか、撮影に混ざるように言ってご主人とソレイユのツーショット撮影が始まる。

 次にメイド服を着替えて、向かったのは上階に備えられているプールサイドであった。プールサイドでメイドと言えば、それはもう趣味趣向の世界ではないのか。吾輩もそう思った。
 だが、この男は本物のメイドオタクだ。カチューシャとヘッドドレスを間違えるだけでも、口煩く訂正するほどの知識人なのだ。我々の斜め上なんて、平気でいくというものだ。

「今度は……ワタシ……」
「いいよいいよ、レヴィアたん♪控えめな胸が魅惑差を引き立ててるね!!」
「『たん』は辞めろ……、こう?」
「おほぉぉぉぉ!!いいねぇその画伯ぅ♪」

 もう見ていられない。
 ご主人に着せたのは水着メイド。みんなも知ってのとおり、これは完全なコスプレの領域となる。現実にメイド服をモチーフにした正統な水着などは、文化として存在していない。
 しかし、昨今はミリタリーデザインの水着だって当たり前に出回っている時代、メイドデザインの水着が一般で取り扱われていてもおかしくはない時代である。
 カメラマンの自己満足でしかないのが、ひしひしと伝わってくるシャッター音。ご主人のスレンダーボディが、余すことなく見せつけられたビキニスタイルの水着、ホワイトプリムを付けスカートをパレオにすることで、メイドのエプロン姿を彷彿とさせる。
 オマケにヴィッグでツインテールメイドになった、ツンデレクールメイドの誕生である。棒アイスを咥えて上目遣い。蔑んだように睨みつけることを、要求してシャッターを切る男。これは主従関係はどうなってんだと、吾輩からして見れば疑問が耐えないのだが。

 対してソレイユはというと、チャイナ調のメイド服になっていた。お団子ツインに中華系特有の服のデザイン、フリルとスカートで隠れた絶対領域にソレイユは一安心の様子。

「ソレイユちゃん、トレーを持って片脚は太ももに当たるくらいに上げる!!いいねいいね、そしてウィンク貰っちゃおうか!はぁい♪」
「こうですね。はい、もっと行きましょう!!」

 露出が少ないだけで、こんなにノリノリに慣れるものかね普通。
 ソレイユはカメラマンの要求をそつなくこなし、ご主人とのツーショットも綺麗に決めてみせた。

 本当に恐ろしかったのはこの後であった。吾輩は欠伸が止まらなくなり、途中で帰ってしまったのでその始終を知らないのだが、ご主人が帰ってきたのが日付けを跨いで太陽が顔を出していたことから察するに、相当のものだったのであろう。
 帰ってきてすぐに、キャットフードも出すことなく泥のように寝たご主人を見たのは、これが初めてのことであった。
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