意味のないスピンオフな話

韋虹姫 響華

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クロスオーバーな話〜意味ない × Beymind篇〜

Beyondな侍女はマブダチであります 〜その1〜

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 フィオが空けた大穴は、告げられたとおりに張本人が消えてからも塞がるまでに時間がかかっていた。

 そんなある時、噂観測課のもとにまたしても妙な依頼が飛び込んでいた。それは、超常的な力を使う人間を見たというものであった。
 これに対応するべく、向かったのは神木原 総司茅野 芳佳の両名であった。芳佳は目撃例の多発した公園へ向かい、怪異の痕跡がデータ的に残っていないかを確認出来るゴーグルを生成して、周囲を探索することにした。

「参ったわね……総司さん、これは厄介よ」
「その様子だと怪異ではないのか?」

 これまでも痕跡を上手く誤魔化すことの出来る怪異は居た。だが、その場合に微かに残る怪異の波動すらも残されていないのは、今回が初めてのことだ。

 お手上げにさっそくなりかけていたその時、巡回していた婦警に捕えられ職務質問を受けている人の声が聞こえた。それは、とても現代に生きる人間の使う言葉ではない言い回しをしていた。

「だぁから!それがしは怪しい者ではないであります!」
「え、でも刀持ってるよね?銃刀法違反に当たりますよ?」
「ぐぬぬ……。さっきも申したように、某は代行人を請け負う何でも屋であります!最近この辺に妙な力を使う不審な人物を見かけるとお聞きし、馳せ参じたであります!」
「もう埒が明かないわね。はい」
「え?えぇぇ!!??逮捕でありますかぁぁぁ!!??お助けぇぇぇ、彫卦ぼるけ殿ぉぉぉ!!!!」

 連れて行かれる女性は、格好と口調からして侍女まかたちであった。両脇を婦警二人に抱え込まれ、パトカーに押し込まれる寸前に総司と目が合う。すると、視線を少し落としてから総司の腰元を指さした。
 そう、同じく総司も腰に刀を下げているのだ。あれを銃刀法違反と言わずして、なんと言うのかと婦警に詰め寄る侍女。「ずるいであります!」と嘆きながら、連行されていく侍女を見送り調査を再開する総司と茅野。

 突然に爆発音と悲鳴が交錯する。公園周辺はパニックになり、売り場のコーナーには煙が立ち込めていた。混乱する民衆の避難誘導に専念する茅野。その場は彼女に任せて、火の元へと向かう総司。
 爆発の起きた中心地には、ノースリーブの男が立っていた。驚愕すべきは、その男の腕だ。金属をかき集めて作った巨腕で、屋台のガスタンクを粉砕して爆発を引き起こしたのだ。

「何者だ貴様?怪異使いでは……ないな?」
「ピンポーン、正解♪早速、この世界で試し運転の出来るカモが来たって訳だ!!ヒャハハハハッ!!」
「ッ!?こいつ、例の錬金術師が作った穴から入ってきたのか?」


キチリッ、シャァァ───、スパンッ!!


「何!?」
「んな金属使ってて、このBeymindビィマインドが攻略できっかよ!」

 総司の神業とも言える抜刀術。しかし、その軌道は中心を逸れ不発になった。まるで、磁力が反発し合うように総司の攻撃は当たらない。
 それなのに、相手の放つ攻撃は防がなければ直撃する。いきなり苦戦を強いられる総司は、力の働く先を捻じ曲げている感覚を覚えたことで敵の能力は力の湾曲だと、直感を頼りにして後退りながらのクナイ投げを仕掛ける。
 狙いどおり、クナイは巨腕に触れることなく起動が逸れる。その先には、水道栓がある。見事水道栓に刺さり水が噴き出す。ノースリーブの男に一気に水が降りかかる。

「何?力を湾曲させる能力ではない?」
「残念♪そんじゃ、傷ついてもらいましょうかね?♪」

 男の両目が光り出すと、総司の刀が独りでに暴れだした。矛先は持ち主である総司に向いて、容赦なく襲いかかる。
 まさか、自らの怪異に攻撃を受けることがあろうとは思ってもいない総司。そこへ避難誘導を終えた茅野が合流する。茅野は即座にパソコンを開き入力を始める。
 パソコンも金属を使用している物質。男が視線を向けると、パソコンは茅野の手元を離れ独りでに入力を完了させる。総司のために作ろうとしていた、サポートの人型ポリゴンが出現して茅野に襲いかかる。

「ちょっと!?私は敵じゃないわよ?敵はあっちあっち!」

 もちろん、そんなこと言っても聞き入れてくれるはずもない。茅野はポリゴンに捕えられ、地面に叩き付けられる。召喚されたポリゴンは全部で四体。残りの三体は総司を取り押さえに向かった。
 ただでさえ、自分の刀が放つ剣技を躱すので手がいっぱいの総司。無力化されるまでにそんなに時間はかからなかった。両サイドから腕を背面に引っ張り挙げられ、打首が出来る体勢に固定されてしまった。そして、ポリゴンの一体が総司の刀を持ち、トドメを刺しに向かう。

 Beymind能力者の男は遠くで、腕を組んで見守るなか総司の首に刀が当てられる。そのまま大きく振りかぶって首を跳ね斬る。

「通りすがりの斬り捨て……御免であります…………」


チャキリッ...。


 静かに納刀する音だけが支配する空の禅。同時に、ポリゴンが四体。茅野を取り押さえていたポリゴンも含め一斉に爆散する。

「女子ども泣かすだけに留まらず、この世に生きる正道をも消し去ろうとは迷惑千万であります!」
「お前……」
「さっきの侍女さん」

 オレンジの法被、ピンクに近い薄茶色の髪の毛、青いマフラー。そして何より、刀の持ち手の下にある鵐目しとどめに付いたサングラスをかけた雪ダルマ。
 再び総司達の前に現れた彼女は、いきなり我流の舞を披露して歌舞伎花吹雪の如く雪が吹き荒れる。その季節とは関係なく、気候が変わるなかで茅野の言葉に訂正を申し出る彼女の名は────。

「否!某は侍女まかだちではないであります!某はマブダチであります!!あ~いやぁ決まったぁ~~でありますっ!!」
「「「────────。」」」

 吹き荒れる雪が吹雪となるのは、シラケたこの空気感がもたらしているのかというほど、その場にいた全員が凍りついていた。しかし、本人はしてやったり顔で自己紹介を続ける。

「某、姓はひいらぎ名は威雪いすずと申すであります。貴殿ら、悪名高い〔びいまいんどほるだー〕を倒すべく西へ東へ流れ流れ───、馳せ参じたであります!」
「ねぇ?この空気、まだ続くの?」
「暫しお付き合いをであります……」

 絶体絶命のピンチを救ってくれたのは有難いが、威雪の独特な間に耐えきれない茅野。それは、能力者の男も同じであった。男は能力を使い、威雪の持つ刀を引き抜き総司と同じように持ち主へけしかけた。

「甘いであります。貴殿程度の腕で某の愛刀《雪比良汰ゆきひらた》を扱えるとは思えないであります」
「はっ!それだけ斬れ味がいいってのか?面白ぇ、そんじゃお前の首で試してやるぜ!!」

 剣筋を見切るは刹那。同じ刀を扱う総司には、見えていた故に戦慄が走った。
 なんと、威雪は人差し指と中指の二本で向かってきた《雪比良汰》を白刃取りしていたのだ。そして、みるみると《雪比良汰》が凍りついていく。

「しかと目に焼きつけるであります!某のびぃまいんど『冰界裂制ひょうかいれっせい』であります!!」

 威雪の両眼がスカイブルーに輝き、辺り一帯に猛吹雪が発生する。しかし、茅野と総司はその強風は感じるものの実際の冷気は感じられない。
 それもそのはず。この威雪が放った冷気、いや冰気ひょうきは相手の持つ磁力を操る能力を凍結させるものであった。これによって、総司の刀と茅野のパソコンが手元に戻った。
 もちろん、威雪の手元にも《雪比良汰》は戻ってくる。その場で一回転し、前傾姿勢────座頭の構えを取り、指を一本ずつ目貫めぬきに力を込めていく。瞬間、男の頭上まで一気に接近し抜刀。

「速いッ!?」
「ぐぉ!?こ、こりゃあ何がどうなってんだ?金属の硬化が安定しねぇ?」
「無駄であります。某の冰気に捕らえられた貴殿は、もう蜘蛛の糸にかかった害虫も同然であります」

 吹雪から声がする。目の前にいる威雪は殺気の籠った視線をぶつけるのみで、口を一切開いていない。男は恐怖した。Beymind能力者となって、自分が人よりも強い超人になれたと喜んでいたのが嘘のように───。上には上がいるもんだと、思い知らされていた。
 刀の一振を避けるべく、後退るとすぐに剣圧が追撃してきて足元が地面から浮き上がる。地面を抉りながら、屋台のオープンカーの方まで吹き飛んで行った男。それを見て、茅野と総司が声を上げる。

「斬り返せるか、《雪比良汰》?この公園のものを壊すのは、某のぽりしぃに関わるでありますよ……」

 そう言うと、威雪の身体はまるで電源起きれたらオモチャのようにだらんとして、前のめりに倒れかかる。かと思えば、風となってその場から消えて吹き飛ばされた男よりも先に回り込んでいた。
 瞬きも息継ぎもなしに、先程寸分もたがわぬ剣圧を繰り出して衝撃を相殺する。その中心に居た男の身体が空高く浮き上がる。しかし、その吹き飛ばしが威雪の張った冰界の外側までに及んでしまった。

「チィ!?うぐっ、!?血が固まる……」
「ま、待つであります!」

 待てと言われて待つ者は居ない。男は空中に磁力の反発を発生させ、その場から高速で離脱してしまった。

 取り逃してしまったと、《雪比良汰》を納刀する威雪。その動作に伴って、周囲の情景に色が戻ってくる。

「今のってもしかして、この辺を氷漬けにして戦いの被害から守って居たの?」
「お?貴殿、目の付け所が鋭いであります!某のびぃまいんど能力もそうですが、能力者同士の戦闘は周りへの衝撃は尋常ではないであります!某もここへ来る途中、何度もものを壊しては補導というものを受けたであります!」

 なんとも間抜けな話である。
 威雪はすでにこの世界に来てから、数回程は器物破損の疑いで連行されていたりしていたのだ。さっきの連行もどうやって抜け出してきたのかと、総司に問われると雪で自分の分身を作ってパトカーから抜け出して、此処へやって来たのだとドヤ顔で答えた。
 どおりで何度も警察に捕まりはするが、その罪状がはっきりとするまでに出没している訳だと、茅野は呆れ顔で見つめていた。

 すると、威雪は何かを思い出したように顔色を変えて総司の手を取った。

「そうであります!貴殿らに協力をお願い申したいであります!某のマブダチ彫卦殿を探してほしいであります!何やら、蜂を操ることの出来る者と戦っているらしいのでありますが、これがどうしてかびぃまいんど能力では倒せないと言っていたであります!」

 必死に説明するなか、見せてくるスマホの画面はバッテリーマークにバツが付いている。そう、充電切れになってしまい彫卦と連絡が取れなくなって困っていたのである。
 それを今になって思い出した威雪に、総司と茅野はピンチを救ってもらったお礼も兼ねて、協力することにしたのであった。
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