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しおりを挟む「言われてみれば確かに、いくら皇帝の命令だろうと古竜が従ってんのは変だよな」
「それに夏の長期休暇のときに公爵夫人に聞いてみたの」
「アンタ意外と大胆だな。だからあんとき殴られそうになってたのか? ははっ」
自分がジゼルを庇った際の出来事を思い出し、そんな背景があったのかとキリアンは愉快げに笑っていた。
「怒るってことは図星ってことでしょう?」
「でも父上に弱みなんてあるか? ほかの古竜でも、父上のほうが長生きしてるから敵わないくらいバカみてーに強ぇし、人とか物への執着もないから脅しも通用しないだろ。爵位奪うって言われようが絶対はいどーぞって差し出すぞ。俺や兄貴を人質に取られたとしてもたぶん見捨てる――――あ」
キリアンは突然フリーズすると、ジゼルのことをじっと見つめだした。
その不躾な視線に居た堪れなくなり、ジゼルは困り顔で眉を下げる。
「どうしたの?」
「唯一の例外いたわ。アンタだ」
「私? でも、ずっと前から皇帝陛下の命令に従っているんでしょう?」
「じゃあ違うか。アンタ以外で父上の大事なもんとか、ちっとも浮かばねぇ。竜らしくキラキラしたもん集めるのは好きみたいだけどな。今もたぶんどっかに財宝隠してるぜ。今度俺たちで宝探ししてみるか」
「ふふ、公爵さまに怒られちゃうよ」
「アンタがいっしょなら絶対怒られないって。俺の見立てだと、ティティオール大森林のどこかに隠してありそうなんだよなー。竜が宝集めてるとこ、ドラゴンレアっていうって知ってた?」
随分と長生きをしているヴィンセントのドラゴンレアには、一体どんなお宝が隠されているのか。ジゼルも少し興味がわいた。
「あ、そうだ。見てみろよ。あれからちょっとツノ伸びたんだぜ」
頭上を見せてくるキリアンだが、そこには何も見当たらなかった。しかし少しして、にょきっと黒いツノが現れる。5センチほどのそれに、ジゼルはぱちぱちと目を瞬かせた。
「キリアン、消せるようになったんだ。それにちょっと伸びてるわ!」
「おまえは背がちっせぇから、俺の頭の上なんか見えないもんな。随分前に消せるようになってたっつーの。ま、そもそも髪の毛で隠れてたんだけどさ」
「じゃあ私の背のことは関係ないじゃない!」
「ハハッ、チービ。この調子なら、ツノも身長も父上くらい立派になりそうだろ?」
成長期に栄養状態がよくなかったジゼルは、平均身長よりも小さめのまま成長が止まってしまった。
それとは反対に、成長期のキリアンはぐんぐんと背が伸びていっている。将来的にはキリアンの言うとおりになりそうだった。
キリアンとジゼルが軽口を交わしていると、会場内に音楽が鳴り響く。楽団の演奏する生の音は耳心地がよく、ジゼルは瞼を閉じて聞き入った。
「お、母さんが皇帝に言いつけに行ったから、前倒しにしてダンスタイムが始まったみたいだな。父上も踊らざるを得ないと考えたんだろうけど、んなわけねーのにな」
ダンスに誘ってほしいネイアがまとわりついてくるのを、ヴィンセントは心底嫌そうな顔で無視している。基本的に無表情なことが多いヴィンセントから、あれだけの表情を引き出せることも一種の才能だ。キリアンはつい感心してしまう。
キリアンはネイアのことが苦手ではあっても、かわいがってもらった記憶もあるため、どうしても嫌いにはなれなかった。それでもあれだけしつこくされればヴィンセントがうっとうしく思うのも当然だ、とネイアを擁護する気にはなれない。
「――キリアン、ジゼル」
女生徒や友人らから名残惜しげな視線を送られながら、ヴァルトロが戻ってきた。
「父上は?」
「あそこ」
ヴァルトロはキリアンの指差す先を見て、「あー……」と言葉を濁した。それから見なかったふりをして、ジゼルに向かって手のひらを差し出す。
「ジゼル、僕と踊ってくれる?」
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