52 / 132
22-1.皇太子テオドール・ドラウスの求愛
しおりを挟む「俺にダンスレッスンやらせといて、一番もらってくのずるくね?」
「今日のジゼルは僕のパートナーだよキリアン。心配しないで、次はキリアンと踊ってあげるから」
「兄貴と踊りたいわけじゃねぇから!」
兄弟のやりとりにクスクス笑いながら、ジゼルはヴァルトロの誘いを受けた。
あんなに練習したのに、いざ本番がくると緊張してしまう。周囲で踊る人たちがとても上手に見えてきて、プレッシャーに感じた。ホールドを組む手が震えている。キリアンから教わったことを思い出しながら、習ったステップを頭の中で反芻した。
険しい顔で集中していると、不意に繋いだ手をぎゅっと握られる。ジゼルはそこでやっと、自分が足元ばかりを見つめていたことに気づき顔を上げた。
「ジゼル、緊張しなくて大丈夫だよ。楽しく踊ろう。それにキリアンが言っていたよ。ジゼルは呑み込みが早くて一生懸命だから、もう完璧に踊れるんだって」
「……キリアンが?」
キリアンのほうへ視線を向けると、ひらひらと手を振られる。裏でそんなふうに評価してくれていたことを知り、うれしくてたまらない気持ちになった。
「あ、ちょっと妬けるな。キリアンはもうジゼルからそんな笑顔を引き出せるようになったんだね」
「え?」
「今は僕のパートナーでしょう? 僕のことだけを見て」
ぐっと引き寄せられ、音楽に合わせてステップを踏みだす。ヴァルトロのリードは上手で、「キリアンのほうがダンスが上手」と言っていたのが謙遜だったのだと初めて知った。
やたらとヴァルトロとの距離が近くてどぎまぎしてしまう。さらにじっと見つめながら微笑みかけられて、ジゼルは思わず視線を逸らした。ヴァルトロの眼差しが、この頃とても熱っぽく感じるのはなぜだろう。繋いだ手が熱い。
「上手だよ、ジゼル」
ヴァルトロに甘い声で褒めそやされると、ジゼルは胸がドキドキと高鳴った。
白い頬を火照らせるジゼルを見下ろし、ヴァルトロは眩しそうに目を細める。彼女のその仕草はわざとではないにしても、ヴァルトロからしたら思わせぶりな態度だった。だがジゼルはヴィンセントのつがいだ。ヴァルトロが欲していい存在ではない。
そう考えれば考えるほど、かわいらしい反応を見せてくれるジゼルが憎らしくも思えてくる。
「――――はあ、君はなんて」
音楽の終わりが近づき、ヴァルトロの手に支えられ背中をぐっと逸らす。ヴァルトロの股の間に片足を割り込ませるかたちで腰を抱き寄せられ、蕩けた赤い瞳がジゼルだけを映していた。
「罪作りな子だろうね」
掠れた声で呟いたヴァルトロは、ジゼルがその言葉の意味を尋ねようとする前に曖昧に微笑んだ。まるでジゼルは理解しなくてもいいとでも言わんばかりに。
「ヴァルトロお兄様……?」
「とても上手に踊れていたよ、ジゼル。今日という日を彩る最高の思い出になった。ほら、俺の出番はまだかーってキリアンがうずうずしながら待ってるよ」
ヴァルトロにエスコートされながら、キリアンの元まで戻る。
次はキリアンに手を取られ、先ほどよりもテンポの速い曲にのって踊り出した。
「ちゃんと練習の成果が出てたじゃねぇか」
「キリアンのおかげよ。ヴァルトロお兄様のリードが上手だったのもあるけどね」
それを聞いたキリアンはムッとしたあとに、何か閃いたようで八重歯を覗かせていたずらっぽく笑った。キリアンはジゼルの腰を両手で掴み、ふわりと持ち上げる。
「きゃっ!」
「どうだ? 俺のほうが上手いだろ?」
そのままクルクルと回られて、ジゼルは笑い声を上げながら「やめてよ」と懇願した。
成長期のキリアンはヴィンセントやヴァルトロに比べると一見細身に見えるのに、ジゼルを持ち上げる腕は力強い。キリアンは少しいたずらすると満足したのか、ジゼルを下ろして自然な流れでステップに戻る。
「もう、キリアンってば何するのよ」
「おもしろかっただろ? ハハッ、それにしてもアンタ、前より肉がついたんじゃねぇか?」
「悪口かしら? ひどいわ」
「ちげーって。最初の骨と皮よりマシに……、おわっ」
そのとき、キリアンの背中にほかのペアの男性がぶつかった。バランスを崩したキリアンが、ジゼルもろとも倒れないように咄嗟に彼女の腰を抱き寄せて足を踏ん張る。
しばらくその体勢で固まっているため、ジゼルがそっと窺うようにキリアンを呼んだ。
「…………」
「キリアン大丈夫?」
キリアンの顔は、ジゼルの胸に埋まっていた。豊かな胸に埋もれたまま、キリアンはそのあまりの柔らかさに思考停止するしかない。
キリアンが微動だにしないものだから、呼吸ができているのか不安になったジゼルは、彼の頬を両手で包み込み無理矢理顔を上げさせた。キリアンの顔は真っ赤に茹で上がっている。
上目遣いに見上げるジゼルと目が合うと、キリアンはハッと我に返った。キリアンはジゼルの身体を軽く突き飛ばす。
「わ、わざとじゃない!」
そう叫んだキリアンは、びゅんっと風を切るような速さで会場を出て行ってしまった。
取り残されたジゼルの元に、ヴァルトロが近づいてくる。
「あれは思春期というんだよジゼル。ほっといたらいいからね」
「思春期、ですか」
「キリアンもまだまだお子ちゃまだなぁ」
微笑ましげに見送るヴァルトロに対して、ジゼルは首を傾げていた。
199
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】
日下奈緒
恋愛
王家に仕える騎士の妹・リリアーナは、冷徹と噂される第3皇子アシュレイに密かに想いを寄せていた。戦の前夜、命を懸けた一戦を前に、彼のもとを訪ね純潔を捧げる。勝利の凱旋後も、皇子は毎夜彼女を呼び続け、やがてリリアーナは身籠る。正妃に拒まれていた皇子は離縁を決意し、すべてを捨ててリリアーナを正式な妃として迎える——これは、禁じられた愛が真実の絆へと変わる、激甘ロマンス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる