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はじめのふたり(1)
しおりを挟むそれから三日も経たず、待ちかねていた朗報が耳に入ってきた。
騎士団の資金が不正に抜き取られ、倉庫から武器がごっそりと盗み出されたらしい。そこには騎士たち個人の剣なども保管されており、物によってはとてつもない値がつくそうだ。
その容疑者として名が挙がっているのが、ネビル・ブレイドであった。
彼は事件当時のアリバイとして、メリーティアと会っていたと証言したらしい。だが犯行が起きた昨日は顔を合わせていない。おそらくネビルは、メリーティアならば自分をかばってくれると考えたのだろう。
ハイゼンベルグのタウンハウスにやってきた騎士から説明を受ける間、こみ上げる笑いを堪えるのが大変だった。浅はかなひとだ。以前もそうしてグウェンダルの剣を盗み出したのだろうと想像すると、嘲笑が怒りへと変わる。
メリーティアは参考人として騎士団の詰所へと招集されることになった。ドレスの隠しポケットにあるものを忍ばせて馬車に乗る。
ネビルはメリーティアが来るまで動かないと主張し、現場となった倉庫で抵抗を続けているそうだ。
現れたメリーティアを目にした途端、ぱあっと表情を明るくする。騎士たちに押さえつけられながら、彼女のほうへと這い寄った。
しかし間に突如グウェンダルが立ちはだかる。
騎士団内で起きた問題なのだ。グウェンダルも捜査に加わって当然であった。
「どけよホールトン! なんだよみんなしてっ、証拠もないのに仲間の僕を疑うのか!?」
「ネビル、何度も言うが騎士団の金庫を開けられるのは団長であるわしと会計係、そして副団長のおぬししかおらんのだ。会計係は昨日ずっとわしと皇宮に出向いておった。倉庫の鍵を持っているのもわしとおぬしのふたりだけだ」
老齢の騎士団長に諭されるが、ネビルは決して犯行を認めようとはしなかった。
「状況証拠しかないじゃないですか! それだけで犯人だと決めつけるのは遺憾ですよ! それに僕は昨日メリーティアと会っていたんだ! そうだろう、メリーティア!」
希望に満ちたまなざしで見つめられ、怯えたメリーティアは騎士たちの背に隠れた。
「そうだと言ってよメリーティア! お願いだ! 僕を愛しているんだろう!」
びくびくと怯えていたメリーティアは、突然「あ!」と何かに気づいたように声を上げると、倉庫の奥のほうへ走っていった。
「……おい、現場を荒らすな」
物を拾うような仕草をしたあと、メリーティアの腕をグウェンダルが強く引く。
彼女が何かを持っているのに気がついたグウェンダルは、その手を開かせた。
「――これは?」
「ここに落ちていたわ」
「……おかしいな。さっきはこんなもの落ちていなかったんだが」
「これは…………わたしがネビルにプレゼントしたカフリンクスだわ。オーダーメイドだから、世界にひとつだけしかないのに。あぁそんな……、それじゃあまさか本当にネビルが犯人なの……?」
グウェンダルはメリーティアの手からカフリンクスを取ると、ネビルの目の前に突きつけた。
「これはあなたのものか?」
「なんでこれがここに……? 僕は昨日カフリンクスをつけていなかったのに――――あ」
「昨日ここにいたことを自白したな。連れて行け」
グウェンダルの指示でネビルが騎士たちに引きずられていく。
彼はメリーティアに縋ろうとしたが、グウェンダルに阻まれて手が届くことはなかった。
「メリーティア! メリーティア! 全部君のためにしたことだ! 君の心を繋ぎとめておきたかったから! メリーティアを愛しているんだ! 僕が釈放されるまでどうか待っていてくれ……!」
しつこく食い下がるネビルに向けて、メリーティアはポケットからカフリンクスをもう一個取り出してみせた。口の片端を吊り上げて小馬鹿にしたように笑う。彼にあげたのと同じものがもう一セットあった。先ほど拾ったカフリンクスは倉庫に落ちていたものではなく、手の中に忍ばせていたのを拾ったように見せただけだ。
メリーティアに夢中になるあまり借金をし、盗みまで働いたのはネビルの自業自得だが、物的証拠は彼女がでっち上げたものであった。
そのことに気づいたネビルは、自分が弄ばれていたのもようやく悟ったようで、呆然とした様子でがっくりと項垂れる。
その後は抵抗することもなく、騎士たちに牢へと連行されるのだった。
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