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三人目が迎えた結末(2)
しおりを挟む「御冗談ですよね」
「え……?」
「皇子ではないあなたには何の価値もないわ」
「だ、だって、俺のこと愛してるって……」
「あなたが皇子だったからに決まっているでしょう?」
メリーティアはヨハンセンを鼻で笑い飛ばす。
それから高みの玉座へと視線を流した。
ケイリクスは息子に対しての冷淡な態度とは打って変わって、こちらを楽しげに眺めている。メリーティアと目が合うと、相変わらずうっとりととろけるような表情で微笑んだ。
メリーティアはケイリクスが称賛するその美貌を輝かせ、彼の瞳を熱っぽく見つめた。
「好みで言うなら、権力をお持ちで、年上で、うんと甘やかしてくれるような方が好きですわ」
一言ひとことゆっくりと紡がれるそれを、ケイリクスは頬杖をついて味わうように聞き入った。
明確に秋波を送られているのに少しも嫌な気がしない。むしろやっと我がもとへ自らやってくるつもりなのだと理解すると、たまらず笑みがこぼれた。
一方でヨハンセンはまだ事態を呑み込めていないようで、呆然としている。
メリーティアがあんなに好きだと言っていたのは、ヨハンセンの〝地位〟に対してだったのだと思うとむなしい気持ちがこみ上げた。彼女だけを求めていた自分とは根本から違ったのだ。彼女のためにすべてを失ったのに、こんな仕打ちはあんまりだった。
涙が溢れて頬を伝っていく。メリーティアの本性を知ったあとでも、霞んだ視界に映る彼女は美しかった。未だに彼女を愛している自分がひどく惨めだ。
「メリーティア……やだよぉ……やだぁ……捨てないでくれよぉ……」
涙でぐちゃぐちゃになった顔も、垂れた鼻水も、拘束されているため拭うこともできない。父親にも見捨てられ、愛した人には見向きもされず、心がひび割れていく。
ヨハンセンがすべてを諦めて目を閉じようとしたとき、部屋の外がにわかに騒がしくなったかと思いきや、扉が壊れそうなほどの勢いで開けられた。
「は、母上ぇ……!」
玉座の間に飛び込んできたのは、皇后だった。すでに見捨てられていると思っていたのに、まさか皇后が助けにきてくれるとは思わずヨハンセンはつい涙ぐむ。すべてに見放されたと諦めていたヨハンセンにとって、ここにきて皇后の存在は一筋の希望となった。
しかし皇后はヨハンセンを一瞥もすることなくメリーティアをにらみつけ、それから皇帝の前へ進み出る。
「そなたの謁見を許した覚えはないが?」
ケイリクスの絶対零度のまなざしを真正面から受け止めて、皇后は果敢に声を上げた。
「陛下、これはあんまりですわ! ヨハンセンはそこの女に惑わされたのです! 人間ではなく魔性なのです! 罰すべきはメリーティア・ハイゼンベルグであり、ヨハンセンではございません!」
「彼女はヨハンセンの部屋にいただけだ。ヨハンセンが彼女に物理的に拘束されていたわけでもない。領主として、皇子としての責任を放棄したのもすべてヨハンセン自身の判断だ。よって、罰を下されるべきはヨハンセンである」
「陛下は私情でその女をかばっておられる! 息子にその女を取られたのがそんなに悔しいのですか! 血を分けた息子よりもその女が大事ですか! あなたに人の心はないのですか……!」
皇后が金切り声でまくしたてると、ケイリクスは片眉を跳ね上げて目を眇めた。
あまりに的外れなことを得意げに言われ、大声で笑ってしまいそうだ。ふたりの関係に愛が伴っていなければ悔しさなどない。もしメリーティアが本気でヨハンセンを愛せば、ケイリクスはたちまち息子を殺していただろう。これまでグウェンダルの命を虎視眈々と狙っていたように。
蝶が無数に咲いた中から適当に花の蜜を吸うように、自由にひらひらと飛んでいる分にはかまわない。けれどたった一輪だけを選んで蜜を吸うというなら、途端にその花も蝶の羽もズタズタにしたくなる。それがケイリクスという男であった。
そして、逆にこれまで一度でもケイリクスが人の心とやらを持っていると感じたことがあったのかと問いたい。血を分けた息子と言っても所詮は自分ではない他人だ。どうでもいい。
メリーティアに恋をした瞬間から、ケイリクスの世界は自分と彼女だけで回っている。それまでは自分ひとりが世界だった。
「陛下! ヨハンセンへの罰は撤回してくださいませ! 皇籍から抜かれるほどの過ちを犯したとは言えません! 笑っておられないでその女にも罰をお与えください!」
「ヨハンセンはアシム王国の王太子を怒らせた。アシム王国は珍しい香辛料や良質な絹などが特産で我が帝国には欠かせない大事な貿易相手だ。そしてかの国から大型船と石油を仕入れようというこのときに、ヨハンセンがしでかしてくれたおかげで関税が倍になってしまった。今後、半永久的にだ。それをそなたは大した過ちではないと申すのか?」
「……っヨハンセンだけが罰されることが納得いきませんわ! その女にも罰をお与えください! さすればヨハンセンの罪も軽くなりましょう!」
「罪もないのに罰を与えろと? ――あぁでも、美しさが罪と言うなら、メリーティアはこの世で最も重い刑に処されるであろうな」
ケイリクスは場違いにくつくつと笑った。
メリーティアほどの美女に惑わされたのだから、ヨハンセンも本望だろう。
「――グウェンダル、ヨハンセンを城から放り出せ」
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