35 / 59
バシリー伯爵邸の仮面舞踏会(3) ※
しおりを挟む「彼女は先約があるんだ」
「申し訳ございません。体調が優れないように見えたので、声をおかけしてしまいました」
「いいんだよ。そなたもほかのレディと楽しむといい」
「いえ、私はもう帰ります」
グウェンダルは硬い声で答えると、メリーティアを一瞥してから踵を返した。声をかけてくる女性たちに対しては完全に無視を決め込んでいる。
メリーティアはその背をしばらく見つめていた。
「遅くなってすまなかったね。さあ、行こうか」
ケイリクスにエスコートされて歩き出す。しかしメリーティアは足に力が入らずふらついてしまい、しまいには立っていることも難しくなった。
「バシリー伯爵め。今夜は香を焚くなと言っておいたのに。今夜だけはふつうの舞踏会にせよという命令も忘れているようだし……あの色ボケ耄碌爺め」
悪態をついたケイリクスはメリーティアを軽々と横抱きにする。
「まったく、これでは踊れそうにないな。メリーティアにも悪いことをした。わざわざ舞踏会で会おうとしたのも、そなたと踊りたかったからだというのに。そなたが出席したデビュタントボールのときからずっと、それが余の密かな夢になっているんだよ」
ただメリーティアを前後不覚にして手籠めにするつもりでこのような舞踏会に招待したのだと思っていたが、ケイリクスの考えは違ったようだ。心から口惜しそうにしている。
「つらいか?」
そっと抱き締めて労しげに問われ、メリーティアは頷いた。ケイリクスの首に両腕を回し抱き着くと、彼の耳に吐息まじりに囁く。
「陛下の手で楽にしてくださいませんか」
どれだけ身体がつらかろうが、本当はケイリクスになど頼りたくはない。しかし彼はメリーティアから求められることを望んでいる。そしてメリーティアは、彼を自身にさらにずぶずぶに嵌まらせたかった。そのほうが地獄に堕としたときにより絶望させることができるからだ。
案の定、ケイリクスはうれしそうに目を細めた。
「そなたのために離宮を用意したんだ。このまま連れ去っても?」
「もちろんですわ」
ケイリクスはメリーティアは抱き上げたままバシリー伯爵邸を出る。皇家の紋章のない馬車が待機しており、ふたりが乗り込むとすぐに走りだした。
隣に座ったケイリクスの肩にしなだれかかる。身体が火照っていて息が苦しかった。香だけなら気分が少し高揚する程度だったが、どうやらあのシャンパンがまずかったようだ。バシリー伯爵邸から皇宮までは一時間弱かかる。
着くまでに状態が落ち着いてくれるといいのだが、望みは薄そうだ。
それなら逆にこの状況を利用すればいい。素面であれば、ケイリクスを自ら誘うなど正気の沙汰ではないと尻込みしてしまいそうだが、今ならヨハンセンにしたように演技ができそうだ。
メリーティアはケイリクスの太腿に手を乗せると、膝の上に置いてある彼の指を絡めとった。彼の手を自身の脚へ誘導していく。スリットの隙間から素肌に触れさせると、ケイリクスの指先がぴくっと跳ねた。
「……陛下、もう我慢できないの。お願いです。触ってください」
「馬車の中で――とは、大胆だな」
「淫らなわたしはお嫌いですか?」
「いいや。すごく興奮する」
近づく顔を避けることはせず、口づけを受け入れる。口内に入り込んでくる舌を噛み切りたい気持ちを抑えつけ、メリーティアからも絡めた。
焦らすように内腿をすべる手が、際どいところに差しかかる。そこがしとどに濡れていることに気がつくと、ケイリクスは恍惚と熱い息をこぼした。下着の隙間から忍び込んだ指があわいを撫で、くちくちと水音を鳴らす。
「すごいな。ぐっしょり濡れてる」
「ぁ……んんっ」
「中もとろとろだ。これを我慢していたのはつらかったね」
蜜壺に指が二本挿れられ、メリーティアは震えあがった。快感と不快感が一気に押し寄せ、瞳が潤む。ケイリクスの指なんかで気持ちよくなりたくないのに、どこもかしこも敏感になっていて、襞を擦られるだけで上擦った声が漏れた。
だが悪いことばかりでもない。媚薬のせいで濡れているにもかかわらず、勝手に勘違いして興奮してくれるのでお手軽だ。
前回は、ケイリクスのことを憎悪しているのに、感じてしまう自分の身体が気持ち悪くてたまらなかった。防御反応で濡れていたのかもしれないが、そこがぬかるんでいることを指摘されるたびに心が死んでいったのだ。
今はまだ指だけだが、これからケイリクス自身を受け入れなければならないだろう。一度限りではなく、あの離宮で、彼を殺すその日まで。
それならいっそ、毎日媚薬でおかしくなっていたいとすら思ってしまう。
「……考え事かい? 集中できていないね」
「あぁっ……! そこ、触ったら……ん、んッ」
中に指を挿れたまま陰核をこねられ、メリーティアは仰け反って足先をぴくぴくと震わせる。
「イったね。少しは楽になったかな? うん? はは、まだまだ足りないようだ」
激しくするわけでもなくあくまでも力加減は優しいまま、気持ちいい場所を的確に刺激して追い詰めてくる。手淫しながら、ケイリクスはメリーティアの顔をじいっと見下ろしていた。
時折キスをされ、首筋や胸元にいくつか痕をつけられる。
「感じている顔も美しいな。頬が薔薇色に火照ってきれいだ。そんなに無防備に唇を半開きにしていると食べてしまうぞ……?」
再び口内に侵入した舌に粘膜をまさぐられる。ケイリクスの息遣いもメリーティアと同じように荒くなっていた。
35
あなたにおすすめの小説
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし
さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。
だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。
魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。
変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。
二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。
銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。
しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。
しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる