幼なじみ公爵の伝わらない溺愛

６ー１．僕は君のオモチャになってもかまわない

　――――翌日、ニーナはデイヴィッドのもとを訪れた。

　シルフストン男爵家に行ってみたところ出掛けていると言われたため、デイヴィッドがよく出入りしているカジノにいるかもしれない、と来てみれば予想が当たった。デイヴィッドはなまめかしい装いの女性を侍らせ、ポーカーに興じている。
　いつもなら、デイヴィッドに近づく女性は娼婦であろうと掴みかかって喧嘩していたけれど、今はそんな気も起きなかった。

「デイヴィッド」
「あ？　ニーナじゃねぇか。ちょうどいい、金くれよ。次は勝てそうなんだ！」
「デイヴィッド」
「なんだよ？」

　もう一度名前を呼ぶと、ようやく目が合う。

「デイヴィッド、私のこと愛してる……？」
「あー……はいはい。愛してるよ。好きじゃなきゃ、命懸けで野盗から助けたりしないって」
「じゃあ、私といっしょに逃げてくれる……？」
「はあ？　意味わかんねー。お前が俺のこと次のハイデル公爵にしてくれるってんなら、どんな願いでも叶えてやるよ。――で、金は？」

　デイヴィッドに侍る女性たちが、クスクスと笑う。その声がひどく耳障りだった。


　しつこく金をねだるデイヴィッドに、身に着けていたダイヤモンドのピアスをあげて、ニーナはカジノから出た。家には帰りたくない。結婚の話がどこまで進んでいるのかも、いつコリン侯爵のもとに連れて行かれるかもわからなかった。
　ハイデル公爵家の馬車に乗りたくない気持ちから、脚が動かない。

「――ニーナ」

　名を呼ばれ顔を上げると、そこにいたのはヘンリーだった。たまたま通りかかったのか、イングリッド公爵家の馬車から顔を覗かせている。

「どうしたの？　浮かない顔だね。僕が必要？」

　馬車から降りたヘンリーが歩み寄ってきた途端、ニーナはわんわんと泣いてしまった。
　ハイデル公爵から、ヘンリーと会うなと言われたことを忘れたわけではない。しかし今のニーナには、どうしてもヘンリーが必要だった。このやるせなさや、言葉にできない激情を、とてもではないが自分の身の内に抱えてなどいられない。ヘンリーにぶつけて楽になりたかった。

　エスコートされ、イングリッド公爵家の馬車に乗り込む。
　ニーナとヘンリーを乗せた馬車はゆっくりと走りだした。そしてもう一台、イングリッド公爵家の紋章が刻まれた馬車がついてくる。

「あっちの馬車には誰が乗っているの？　ヘンリーのお父さまとお母さま？」
「いや、特別なお客さまだよ」

　馬車の窓には分厚い生地のカーテンがかけられているのか、人影すら見えない。ニーナはそれきり興味をなくし、ただ無言でヘンリーの肩に頭を預けて瞼を閉ざした。