幼なじみ公爵の伝わらない溺愛

柴田

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「おかえりなさい、ヘンリー」
「ただいま。死刑の執行を見届けてきたよ」

 出迎えたダリアの腰を抱いて、ヘンリーは庭園のガゼボへと誘導した。日も高いうちに執行された刑は、まだ続いている。それだけハイデル公爵を支持した貴族家がいたということだ。ヘンリーはハイデル公爵の首が落ちるところだけを見ると、すぐに邸宅へ帰ってきた。
 ガゼボのベンチに隣り合って腰かけ、ヘンリーはダリアの髪をそっと撫でる。

「本当に君は見に来なくてよかったの?」
「ええ。おとうさ……ハイデル公爵にはいろいろと恨みがあるけれど、やっぱりほんの少しは情があったから、あの人が死んで喜ぶ……なんてことはきっとできないと思ったの」

 沈んだ声で話すダリアは、決して悲しんでいるようには見えなかったが、本人の言葉どおりハイデル公爵の死を喜ぶことも難しいようだ。

 ハイデル公爵家での教育は、厳しいという言葉では片づけられないほどつらい日々の連続だった。ハイデル公爵や公爵家の人々には冷たくされ、寂しい思いもたくさんした。努力は見てくれないくせに、結果にはひどくこだわって、ダリアが期待に応えられないと叱責された。そして本物の娘が帰ってきた途端、不要とみなされ捨てられたのだ。

 思い返してみれば、いい思い出なんて一つもない。贅沢な生活はさせてもらったけれど、豪華な食事でも、高価な宝石や美しいドレスでも、寂しさを埋めることなんてできやしなかった。
 ハイデル公爵が悪い人間だとわかっているのに、彼の娘になろうとがんばってしまったのは――あの孤児院で、「私の娘になってくれ」と言われた瞬間に感じたうれしさのせいだろう。ダリアは家族というものに、微かな憧れを抱いていた。

 だから、断頭台でハイデル公爵の首が落ちるところを見てしまったら、悲しみのほうが胸に強く残ってしまいそうで、今朝はヘンリーに着いて行かなかったのだ。

「ダリアは優しいんだね」
「あんな男に情があるなんて愚かだ、って笑っていいわよ」
「笑わないよ」
「でもね、もうハイデル公爵がいないんだって思うと、ホッとしてるの」
「もう誰も君を傷つける人はいないよ」
「そうね」
「でも、ここから出て行ったらだめだよ。ずっと僕のそばにいて」

 遠い目をして空を見上げるダリアを見ていると、ヘンリーは不安感に襲われた。
 ダリアはこれまで、外を出歩いたらハイデル公爵家の手の者に殺されると思っていたから、ヘンリーのもとにいたにすぎない。脅威がなくなったとなると、イングリッド公爵邸を出て行ってしまいそうな気がしてヘンリーは怖くなった。

 突然抱き締められて瞬いたダリアは、ふふ、と笑い声をこぼす。

「あんたが私を捨てない限り、ここにいるわ」
「永遠に離さないよ」

 ヘンリーがダリアを捨てるはずも、逃がすはずもないというのに。愛されることに随分と慣れてきたようにも感じていたけれど、まだまだ信用が足りないようだ。ヘンリーはさらにダリアへ愛情を注ごうと心に決める。
 いつかこの愛に気づいてくれますようにと願いを込めて、ダリアの手のひらにキスをした。

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