call back your power ~物語の心 色鉛筆の手触り~ (短編集・画集)  【完結】

青空 蒼空

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言葉は風に 想いは心に

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 「じゃあ これとこれ 頼むよ」
 「・・・わかりました・・・」

 「助かるよ 君は 本当に優秀だ 君に敵う者は誰もいない それじゃあ」
 そんな お世辞を述べ 僕の肩を叩き 男は その場を離れる

 本当は 断りたかった・・・
 この案件は きっと失敗する
 やっても無駄だと 分かっている

 だが そのことを話したところで 僕の話を聞き入れては くれないだろう 
 きっと・・・

 いつの頃からか 自分の意見を 言わなくなった

 僕は どうも 人とは考え方が違うようだ
 だから いつも 周りと違う意見を言うことで 孤立してきた

 ある 出来事が 頭を過る・・・

 『それは 止めた方がいい リスクもでかくなる』
 『君は 真面目過ぎる 神経質なんだよ』

 周りで 聞いている人たちは 僕たちの話を聞いて 笑っていた
 みんな 僕のことを そのように思っているのだろう

 僕の言った通り その案件は 失敗して大きな損失を被った

 『僕の言った通りに なっただろ?』
 ほら 見ろよ という気持ちで言った

 『お前 そんなこと 言っていたか?』
 みんな その時の出来事を忘れていた

 真剣に発言しても 考えすぎ 神経質と一蹴される
 だが 大概が 僕の予測は 当たっている

 僕は 預言者でも超能力者でもない
 当たり前のことを 言っている
 ただ 周りが いい加減なだけ

 真面目な僕は 馬鹿を見る ということなのだろう

 僕が もっと自信を持って 周りから言われる言葉を気にせずに 
 発言すればいいのかもしれないけれど 
 『そんな先のこと考えていたら 何もできないよ』と言われるのが嫌で 
 自分の意見を話すことを やめた

 社会生活を送っていく上で 人との関りは 避けることができない
 働かなきゃ 生きてはいけない

 だから 傷つくのが嫌な僕は 言われたことだけを するようになった
 失敗すると わかっていても・・・

  「誤った情報 偏りのある知識 無知であるが故の差別 不公平な世の中
  それらを終わらせるべく 真実を見つけるために 動いている人々がいる
  まだまだ 人に対する批判が厳しい中・・・」

 仕事が終わる夕暮れ時 都会の大きな交差点を渡った先に新聞社がある
 そのビルの前で お坊さんが一人 通行人に向かって 話をしていた

  「少しずつ 世の中が変わろうとしている
  しかし 進むべき方向に気付いているのに 
  保身や目先の利益に囚われ 努力を怠るものもいる・・・」 
 
 左肩から右脇にかけて 斜めに金色の格子模様の袈裟けさを着用し 
 その下に黒の法衣を身にまとっている
 時折 右手に持つ錫杖しゃくじょうを シャリン!シャリン!
 と鳴らして・・・

 一点を見つめて話す お坊さんの頭は 夕焼けの光に照らされて 
 オレンジ色に光っていた
 
  「今まで築き上げてきたものを手放すことは 勇気がいることだ 
  自分の気持ちが わからないものも たくさんいる・・・」

 お坊さんの存在など いないかのように 誰も立ち止まることなく 
 通り過ぎていく 
 人々から無視され・・・いや 存在すら認められずにいるのに 話し続ける・・・

 静かに語られる お坊さんの声は 大きな声ではないのに 僕の耳に不思議と届く

  「人は皆 自分では気づかなくても 
  心のどこかで 情熱を隠し持っている 
  そして 人生というものを 自分の意志で選択して
  生きていきたいと思っているもの」
 
 お坊さんに近づき 僕は そっと立ち止まり 耳を傾ける
  
  「焦ることはない 時間をかけて ゆっくりと 世の中のしがらみに縛られず 
  自分は本当は どうしたいのか 考えていけばよい」

 シャリン!シャリン! と錫杖を鳴らした

  「やがて 本当に大切なものに気付く時が来る 
  その時に 自分の方向性が見えてくる 
  そこからがスタートだ」

 僕は 黙ったまま お坊さんを見つめていた

  「誰も聞いてくれなくても 言葉を発しなさい」

 一点を見つめていた お坊さんの視線が 僕に注がれる

  「あなたの言葉が 誰かの助けになることもある」

 シャリン!シャリン!

  「わたくしのように・・・」

 シャリン!シャリン!

 500円玉を お坊さんの前に置いてある器に投げ入れた
 お坊さんの お経が始まる

 耳心地の良い声を聞きながら 僕はその場を去った・・・




(了)



        ※お坊さんの話
            【そんな君を占ってみた 仁王さん (作)青空 蒼空】より
               


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