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21話・帰郷と夢
「どの馬車に乗るんだい?」
「えっとね、途中の街で一度乗り換えるんだけど……」
中庭でクミナクと待ち合わせをして、早速馬車の集まる往来にやってきたライラとクミナクは目的のクルア街行きの馬車を探していた。
ほどなくして、馬車を見つけ、出発は一時間後ということで、時間を潰すために街中を散策しようとクミナクが提案した。
頷きかけたライラは「あ」と声を出して、慌ててバッグの中から本を三冊取り出す。
「これ、村に帰る前に返しておこうと思ってたの」
「なら、書店に行こう」
借りっぱなしのまま村にまで持って帰ってしまうのは流石に申し訳ない。
ライラの言葉にクミナクも頷いて、クミナクの先導で路地の先にある書店に向かう。
出迎えてくれたのは以前と変わらず老店主だ。柔和な笑みを浮べて、大変なことになっとるのぉと告げる様子から、学園の出来事は広まっていると見えた。
「お爺さんは相変わらず耳が早いですね」
「ほっほ、この年になるとな、無駄に人脈はできるものじゃ。街にはまだ広まっとらんよ」
だが、それも時間の問題だった。
学園の生徒が夏季休暇でもないのにいきなり帰宅したとあれば、そこからおのずと話は広がる。学園側がいくら緘口令を敷こうとも人の口に戸は立てられない。
そんな思考を振り払って、ライラは出来るだけ笑顔を意識して手にしていた本を三冊老店主に差し出す。
「おや、もういいのかね?」
「はい。とても興味深く拝読しました。また、機会があったらお願いします。貸して下さってありがとうございます」
丁寧に頭を下げるライラに、老店主は笑みを深くして皺だらけの手でライラの頭をなでる。
「またいつでもおいで。クミナクの坊やと一緒でも、一人でも。いつでも歓迎するぞい」
「はい」
「今日はなにか買っていくかね?」
「いえ、本を選んでいる時間があまりないので」
老店主の言葉にクミナクが首を横に振る。無駄に広い王都だ。馬車乗り場からここまで片道二十分を考えれば、クミナクの言葉は妥当だといえた。
「そうか。またまっとるよ」
ほっほ、と笑って本に囲まれた老店主はクミナクとライラを送り出した。
* * *
途中小腹が空いたときのために日持ちのするものや干した果物類を買って、馬車乗り場についたときには五分前だった。
「そういえば、クミナクは王都からでたことあるの?」
「ないよ」
「そっかぁ。初めてが私の村だと、外にちょっと偏見もっちゃうかもね」
それだけ辺境なのだと苦笑いまじりに告げて、ライラは荷物を預けて馬車に乗り込む。
乗り合い馬車なので他にもいる人たちの中から二人並んで座れるスペースを確保してクミナクを手招きする。
「こういった馬車は初めてだ」
「こういった?」
「家にあるのは、なんというか、その」
「ああ、なんとなくわかったからいいよ」
つまるところ、乗合馬車が初めてなのだ。
いつも自宅専用の馬車を使っていたことを言外に匂わせるクミナクにやっぱり住む世界が違うなぁと少し脱力して、ライラは背もたれに体を預けた。
「寝るのか?」
「うん……最近、ちょっと体がだるくて。ごめんね」
「いや、そういうことなら構わない。起こしたほうがいい時はあるか?」
「馬車が止まったりしたら、起こして」
「わかった」
クミナクが頷いたのを視界の端で確かめて、ライラは目を閉じた。
* * *
―――いたいいたいいたいいたい
―――くるしいくるしいくるしいくるしい
―――なんでなんでなんでなんで
―――どうしてこんなことをするの……?
声なき声が訴えかける。最初は起きたら覚えていない夢だった。なのに繰り返し繰り返し見るにつれて、どんどん声ははっきりとしていって。
訴える声音は切実で、痛いと苦しいとなんでどうしてと、疑問を投げかけるそれが辛くて。
逃げ出したいのに、見えない蔦が足に絡まっているように動けない。
真っ暗な、夜より暗い闇の中、ただただ、声なき声の叫びを聞き続けるしか、ライラにはできない。
それが、歯がゆくもあり。
同時に――
「えっとね、途中の街で一度乗り換えるんだけど……」
中庭でクミナクと待ち合わせをして、早速馬車の集まる往来にやってきたライラとクミナクは目的のクルア街行きの馬車を探していた。
ほどなくして、馬車を見つけ、出発は一時間後ということで、時間を潰すために街中を散策しようとクミナクが提案した。
頷きかけたライラは「あ」と声を出して、慌ててバッグの中から本を三冊取り出す。
「これ、村に帰る前に返しておこうと思ってたの」
「なら、書店に行こう」
借りっぱなしのまま村にまで持って帰ってしまうのは流石に申し訳ない。
ライラの言葉にクミナクも頷いて、クミナクの先導で路地の先にある書店に向かう。
出迎えてくれたのは以前と変わらず老店主だ。柔和な笑みを浮べて、大変なことになっとるのぉと告げる様子から、学園の出来事は広まっていると見えた。
「お爺さんは相変わらず耳が早いですね」
「ほっほ、この年になるとな、無駄に人脈はできるものじゃ。街にはまだ広まっとらんよ」
だが、それも時間の問題だった。
学園の生徒が夏季休暇でもないのにいきなり帰宅したとあれば、そこからおのずと話は広がる。学園側がいくら緘口令を敷こうとも人の口に戸は立てられない。
そんな思考を振り払って、ライラは出来るだけ笑顔を意識して手にしていた本を三冊老店主に差し出す。
「おや、もういいのかね?」
「はい。とても興味深く拝読しました。また、機会があったらお願いします。貸して下さってありがとうございます」
丁寧に頭を下げるライラに、老店主は笑みを深くして皺だらけの手でライラの頭をなでる。
「またいつでもおいで。クミナクの坊やと一緒でも、一人でも。いつでも歓迎するぞい」
「はい」
「今日はなにか買っていくかね?」
「いえ、本を選んでいる時間があまりないので」
老店主の言葉にクミナクが首を横に振る。無駄に広い王都だ。馬車乗り場からここまで片道二十分を考えれば、クミナクの言葉は妥当だといえた。
「そうか。またまっとるよ」
ほっほ、と笑って本に囲まれた老店主はクミナクとライラを送り出した。
* * *
途中小腹が空いたときのために日持ちのするものや干した果物類を買って、馬車乗り場についたときには五分前だった。
「そういえば、クミナクは王都からでたことあるの?」
「ないよ」
「そっかぁ。初めてが私の村だと、外にちょっと偏見もっちゃうかもね」
それだけ辺境なのだと苦笑いまじりに告げて、ライラは荷物を預けて馬車に乗り込む。
乗り合い馬車なので他にもいる人たちの中から二人並んで座れるスペースを確保してクミナクを手招きする。
「こういった馬車は初めてだ」
「こういった?」
「家にあるのは、なんというか、その」
「ああ、なんとなくわかったからいいよ」
つまるところ、乗合馬車が初めてなのだ。
いつも自宅専用の馬車を使っていたことを言外に匂わせるクミナクにやっぱり住む世界が違うなぁと少し脱力して、ライラは背もたれに体を預けた。
「寝るのか?」
「うん……最近、ちょっと体がだるくて。ごめんね」
「いや、そういうことなら構わない。起こしたほうがいい時はあるか?」
「馬車が止まったりしたら、起こして」
「わかった」
クミナクが頷いたのを視界の端で確かめて、ライラは目を閉じた。
* * *
―――いたいいたいいたいいたい
―――くるしいくるしいくるしいくるしい
―――なんでなんでなんでなんで
―――どうしてこんなことをするの……?
声なき声が訴えかける。最初は起きたら覚えていない夢だった。なのに繰り返し繰り返し見るにつれて、どんどん声ははっきりとしていって。
訴える声音は切実で、痛いと苦しいとなんでどうしてと、疑問を投げかけるそれが辛くて。
逃げ出したいのに、見えない蔦が足に絡まっているように動けない。
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それが、歯がゆくもあり。
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