【完結】幾月依玖(いくつきいく)の生き様-彼女の在り方、彼の愛し方-

久遠れん

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27話・私と彼の『精霊』と『人』の話

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「精霊はね、人とは違う摂理で生きる生き物。精霊は人に寄り添えるし、その逆も同じ。でも同じ時間は生きられないの」

 それは、雫とか土とかがはこばれるのを待つ間の雑談だった。

「でも時折、精霊は人との間に子を成す。彼らはどうしようもなく短命で、私はそれがたまらなく悲しくて、人との間に子をなすその意味がわからなかった。でも、いまなら分かるわ。愛しいのよ。どうしようもなくね。人も、その間に生まれてくる子も。あってみたいと願ってしまうのね」

 意味がよくわからなくて首をかしげた私に、彼女は悪戯気にわらった。きらきらと好奇心に輝く瞳が、とてもよく似ていて、胸が痛かった。

「だから、狭間に生まれるあの子たちも、自然と人を愛すようになるわ。精霊と人の狭間の者。だけど、彼らはどうしようもなく、人よりなのよね」

 その意味も、昔はわからなかったのだけれど。

 ふう、と息を吐き出して。憂うように視線を落として。

 小さく、彼女は自信がなさそうに、呟いた。

 その姿は、純粋に意外だと思った。そして、そんな表情をして欲しくないと思った。

 彼女にはいつだって目をキラキラさせて、輝いていて欲しかった。

「私は、子を愛せるかしら」

 大丈夫、とその手を握ることしか、私には出来なかった。


 * * *


 私は、たとえるなら、なんというか。浮幽霊のような状態らしかった。

 どういう原理か全く分からないけれど、私はお腹もすかなければ、睡眠も必要ない。

 ついでに、誰の目にも映らない。例外は湖の乙女と名乗ったあの人だけ。

 足元だって意識してないとふわふわと浮かんでしまう。ちなみに服装はなぜかふわふわの蒼いドレス。謎過ぎる。

 薬も飲まなくて大丈夫。それはとても不思議な心地だった。

 もう十年以上薬と友達の状態だったから、薬を飲まなくても普通にしていられるのは、違和感を伴った。

 それから、湖の乙女から預けられたレイス……になるはずの水の花の蕾を大事に抱きかかえて立派な、それはそれは立派な白亜の城に戻った王様にも私の姿は見えていなかったし、私がレイスのそばにいても、だれもなにもいわなかった。

 王様が急遽しつらえさせた一室、立派過ぎる部屋に、レイスは置かれていた。

 赤い玉座を連想させる立派な布の上になぜか一定の距離をもって浮遊して浮かんでいる水の蕾。

 私が話しかけても当然返事はないし、それはほかの世話係の人たちも同じ。

 むしろ、世話係の人たちのほうが困惑していた。そりゃそうだろう。なにしろ、王様明らかに浮かれていたし、一国の王様が自分の息子だ! っていきなりわけのわからないもの持って帰ってきたら当惑して当然だ。

 それでもきちんと仕事をこなすあたり、さすがである。

 王様は毎日朝、昼、晩、とレイスの様子を見に来た。色々話しかけていたけど、蕾はなんの反応も返さない。

 この世界での当たり前がわからないから、なんともいえないけど、でもまぁ、王様は毎日楽しそうだ。

 それいいのか、王様。と、思わなくもない。

「ねぇ、レイス。早くお話したいなぁ」

 この夢(夢じゃない可能性のほうが高いけれど、夢じゃないならなんてよべばいいのかわからない)が目覚める気配もなく、早一ヶ月、私は蕾のそばで過ごしていた。

 毎日なんでもないことを話しかけて、ときどき現代のことを話題にもして。たぶん寝ていると思う私自身の体がどうなっているのか、大分心配だけど、まぁ、心配しても仕方がないと一週間目にはわりきった。

「ねぇ、レイス。貴方はどんな風に成長するのかな」

 この蕾の状態から、どうやって私の知っている姿になるのだろう。楽しみだね、とつん、と蕾をつついたら、ぱぁっとつぼみが光った。

 驚いて目を見開いた私の前で、少しだけ蕾が花開いた。それは、満開というにはたりないけれど。それでも、進歩に思えた。

「王様がよろこぶね」

 にこにこと、それを笑って見守れるくらいには、心の余裕もあった。

 案の定、夜様子を見に来た王様はレイスの変化に大喜びして、宴会だー! と騒いで側近らしき人に窘められていた。

 念のため、明日は湖の乙女のところに行く、といっているのを聞いて、レイスもつれていくのかな、なら私も久々に会いたいな、なんて思った。


 * * *


「あら、あらあらあら。成長したのね。思ったより早いわ。貴方がいてくれるからかしら」

 翌日、有限実行。と、レイスを懐に入れて王様は彼女の元へやってきた。

 王様同様喜びをあらわにした彼女の言葉に私が首を傾げる。

 むしろ、私の存在ってものすごいイレギュラーな気がするけどなぁ。

 そもそも、レイスが生まれて成長するのに私は関わらないはずだし……だよね? え? じゃないと私が出会ったレイスはなんなのって話になるし……あれ? もしかしてタイムパラドックス的な? なにかが? 起きてる?

 首を傾げ続ける私を見て、彼女がからころと笑う。鈴の音色のような笑い声は聞いていて心地いい。

「今後はどうしたらいいだろうか」

「そうねぇ。花が開いたら、人の子に会わせて見て。この子の本質は水だから、相手を映して成長するはずよ」

「人の子……同年齢がいいだろうか」

「そのあたりは貴方に任せるわ。私は子育ての経験がないもの」

 けろりとした表情で母親らしくないことを言うあたり、やはり感性が違うのだろう。

 ちょっと眉を顰めた私を見て、彼女は罰が悪そうに眉を寄せて笑った。

「それに、その子には最高の守り神がついているから。私は下手にかかわらないほうがいいわ」

 でないと、その子は『人』ではなくなってしまう。

 その言葉にはっとした。私のであったレイスはどこからどうみても、人間で。人間らしくて。人間としか思えなかったけれど。

 それが人に囲まれて育った結果だったなら。彼女の元で育つと、私の知るレイスにならないのかもしれない。……私、は。レイスの過去をしらないから。推測しか、できないけれど。

「その子はいずれ『人』として生きていくことを望むでしょう。そのためにも、私のそばにあまりいないほうがいいわ。……寂しいけれどね」

 どうしてそう断言できるのかは、少し、わからなかったけれど。
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