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29話・ 私と彼の『想い』の話(1)
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それから、ルウランは毎日やってきた。
時には花を持って、時には綺麗な小石を持って、ささやかな幸せに満ちた自分の日々をレイスに語りかけた。
私はその様子を隣でずっと見ていたけれど、ルウランはとても不思議な子供で、時々その赤い瞳にうつらないはずの私をうつしている気がした。
なにもない空間にみえるはずの、本当は私がいる場所をじっと眺めて、にぱりと笑われると、自分が見えているのかと錯覚してしまう。
でもそのたびにすぐに慌てた様子で、おこらないでね、とったりしないよ、と話し出すから、それがまた不思議だった。
そんななんの変哲もない日々が続いて。
夜、いつもの習慣で眠るとき。ふと、脳裏に呼びかける声に気づいた。
(眠い……)
呼びかけられている、と気づいたのと、抗いがたい睡魔が襲ってきたのは同時だった。
寝る必要はなくても習慣で寝ていたけれど、その日だけは倒れるように眠りに付いた。
そして、目を覚ましたとき。レイスの花は完全に花開いていた。
ぱち、ぱちり。
瞬きを繰り返して、その変化をじぃっと見つめて。
遅れてやってきた喜びをかみ締める。やった、と素直に思った。
これでまた、レイスと話せる日が一歩近づいたと思った。
まるで子供の成長に一喜一憂する親のようだなぁと考えて、子供なんてもっていないのに、と現実との差異のおかしさに少し笑う。
それにしてもあの睡魔はなんだったのだろうと、首を傾げていると、毎朝の恒例食事をもってきたメイドさんを見て、違和感に襲われた。
人が、変わっている。
それも全員だ。なにかあったのだろうか。首をかしげても、答えは得られない。
ためしにメイドさんの前で手を振ってみても、やっぱりスルーされる。本当になにがあったのだろう。
広げられた料理や果物をつまむ気にもならず、なんとなく抱える違和感にもやもやして時間をすごしていると、扉をノックする音が響いた。
時間からして、恐らくルウランがきたのだろう。最近は母親と一緒ではなく、一人でくるようになっていた。しっかりした子だ。
ぱっと視線をゆっくり開かれる扉に向けて、私は唖然とすることになる。
五歳ほどの幼子だったルウランが。面差しはそのままに、十歳ほどに成長していた。おかっぱだった髪も背中まで伸びている。
え? ルウランの兄弟? とも思ったけれど、優しい微笑を浮べる表情は見慣れたもので、混乱した頭がこれはルウラン本人だ、と認識する。
一晩でなにがあったのだろう、言葉をなくしていると、ゆったりとした歩調で近づいてきたルウランがレイスの前に跪く。
ちらりと、視線が、私をむいた、気がした。
「ああ、花が満開になりましたね。ええ、私も嬉しいです。またあえた」
意味深長なその言葉の意図がわからない。
ますます混乱していると、混乱に拍車をかけるように、ぱあっと花が光り輝いた。びっくりして視線をルウランからようやく外して、レイスをみる。
花開いた淡い水色の花弁が光り輝いていた。そうして、神々しい輝きが収まったころには、そこに一人の子供がいた。
深い紫色の髪。それはルウランと同じ。
白い肌に、整った面差し。それもルウランと同じ。
硝子玉のような瞳の色は、見覚えのある蒼い色。それだけがルウランと違う。
なにも身に纏っていない、幼子の唐突すぎる出現に私は言葉を失ったけれど、ルウランは慌てることなく自分と瓜二つの幼子に手を伸ばした。
「お待ちしておりました、レイス様」
返事をしない幼子の手をとって、ルウランは恭しく口付けを送った。
その後、ルウランが呼び寄せたメイドさんに着替えさせられた子供は、着替えの最中も着替え終わってからもとても静かだった。
硝子玉の瞳は、ただ光を反射しているだけのようで、感情という感情がなかった。
それは表情も同じ。のっぺらぼうのような、表情のない顔色は、どこか私の知るレイスの面差しがあった分、酷い違和感を伴った。
レイスは、あれだけ、感情豊かだったのに。
この子供にはなにもない。なにも持ってないことを、目の当たりにさせられた。
それが痛々しくてぎゅっと唇をかみ締める。子供のなぜだか、酷く長い髪をルウランは楽しそうに三つ編みにしていた。そこだけは、メイドさんが編もうとしたのを断っていたのだ。
ベッドの上に大人しく座った子供の後ろに腰を下ろして、ルウランは鼻歌交じりに恐らく子供の身長より長い深い紫の髪を器用に編んでいる。
「私は早く貴方にお会いしたかった。この日をとても待ち望んでいたのですよ」
とてもとても、嬉しそうに。
彼は『レイス』であるはずの『子供』に話しかける。
私の知らない、子供、に。
時には花を持って、時には綺麗な小石を持って、ささやかな幸せに満ちた自分の日々をレイスに語りかけた。
私はその様子を隣でずっと見ていたけれど、ルウランはとても不思議な子供で、時々その赤い瞳にうつらないはずの私をうつしている気がした。
なにもない空間にみえるはずの、本当は私がいる場所をじっと眺めて、にぱりと笑われると、自分が見えているのかと錯覚してしまう。
でもそのたびにすぐに慌てた様子で、おこらないでね、とったりしないよ、と話し出すから、それがまた不思議だった。
そんななんの変哲もない日々が続いて。
夜、いつもの習慣で眠るとき。ふと、脳裏に呼びかける声に気づいた。
(眠い……)
呼びかけられている、と気づいたのと、抗いがたい睡魔が襲ってきたのは同時だった。
寝る必要はなくても習慣で寝ていたけれど、その日だけは倒れるように眠りに付いた。
そして、目を覚ましたとき。レイスの花は完全に花開いていた。
ぱち、ぱちり。
瞬きを繰り返して、その変化をじぃっと見つめて。
遅れてやってきた喜びをかみ締める。やった、と素直に思った。
これでまた、レイスと話せる日が一歩近づいたと思った。
まるで子供の成長に一喜一憂する親のようだなぁと考えて、子供なんてもっていないのに、と現実との差異のおかしさに少し笑う。
それにしてもあの睡魔はなんだったのだろうと、首を傾げていると、毎朝の恒例食事をもってきたメイドさんを見て、違和感に襲われた。
人が、変わっている。
それも全員だ。なにかあったのだろうか。首をかしげても、答えは得られない。
ためしにメイドさんの前で手を振ってみても、やっぱりスルーされる。本当になにがあったのだろう。
広げられた料理や果物をつまむ気にもならず、なんとなく抱える違和感にもやもやして時間をすごしていると、扉をノックする音が響いた。
時間からして、恐らくルウランがきたのだろう。最近は母親と一緒ではなく、一人でくるようになっていた。しっかりした子だ。
ぱっと視線をゆっくり開かれる扉に向けて、私は唖然とすることになる。
五歳ほどの幼子だったルウランが。面差しはそのままに、十歳ほどに成長していた。おかっぱだった髪も背中まで伸びている。
え? ルウランの兄弟? とも思ったけれど、優しい微笑を浮べる表情は見慣れたもので、混乱した頭がこれはルウラン本人だ、と認識する。
一晩でなにがあったのだろう、言葉をなくしていると、ゆったりとした歩調で近づいてきたルウランがレイスの前に跪く。
ちらりと、視線が、私をむいた、気がした。
「ああ、花が満開になりましたね。ええ、私も嬉しいです。またあえた」
意味深長なその言葉の意図がわからない。
ますます混乱していると、混乱に拍車をかけるように、ぱあっと花が光り輝いた。びっくりして視線をルウランからようやく外して、レイスをみる。
花開いた淡い水色の花弁が光り輝いていた。そうして、神々しい輝きが収まったころには、そこに一人の子供がいた。
深い紫色の髪。それはルウランと同じ。
白い肌に、整った面差し。それもルウランと同じ。
硝子玉のような瞳の色は、見覚えのある蒼い色。それだけがルウランと違う。
なにも身に纏っていない、幼子の唐突すぎる出現に私は言葉を失ったけれど、ルウランは慌てることなく自分と瓜二つの幼子に手を伸ばした。
「お待ちしておりました、レイス様」
返事をしない幼子の手をとって、ルウランは恭しく口付けを送った。
その後、ルウランが呼び寄せたメイドさんに着替えさせられた子供は、着替えの最中も着替え終わってからもとても静かだった。
硝子玉の瞳は、ただ光を反射しているだけのようで、感情という感情がなかった。
それは表情も同じ。のっぺらぼうのような、表情のない顔色は、どこか私の知るレイスの面差しがあった分、酷い違和感を伴った。
レイスは、あれだけ、感情豊かだったのに。
この子供にはなにもない。なにも持ってないことを、目の当たりにさせられた。
それが痛々しくてぎゅっと唇をかみ締める。子供のなぜだか、酷く長い髪をルウランは楽しそうに三つ編みにしていた。そこだけは、メイドさんが編もうとしたのを断っていたのだ。
ベッドの上に大人しく座った子供の後ろに腰を下ろして、ルウランは鼻歌交じりに恐らく子供の身長より長い深い紫の髪を器用に編んでいる。
「私は早く貴方にお会いしたかった。この日をとても待ち望んでいたのですよ」
とてもとても、嬉しそうに。
彼は『レイス』であるはずの『子供』に話しかける。
私の知らない、子供、に。
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