【完結】幾月依玖(いくつきいく)の生き様-彼女の在り方、彼の愛し方-

久遠れん

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37話・私と彼の残酷な話

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「ねぇ、そういえば、どうしてレイスは私のことに気づいていたの?」

 レイスとルウランが帰るのを見送って心の中でさよならを告げて。私は湖の乙女のところにのこった。

 残り少ない時間を、傍で過ごしたいという思いはあったけれど。

 縋り付いてしまいたくない、という思いも同じくらいにあったから。

 最後を過ごす場所を、ここに定めた。

 ずっと疑問だった事を尋ねれば、彼女はからころとさもおかしげに笑った。

「気づかないはずがないわ。蕾だったころは、まだ精霊としての在り方に近かったのね。そして、貴方の今の状態は精霊に近ければ近いほど感じ取ることが出来る。貴方はレイスの魂をもっているのも同然なんだから」

「レイスの、魂?」

「そのネックレスよ」

 指差されて、驚いてネックレスを握り締める。花の宝石のネックレス。レイスからもらった大事なもの。

「それは、レイスの魂そのもの。自分と同じものが傍にあるのに、気づかないほどあの子は鈍くないわ」

 驚きに目を見張る私に、いとおしげに目を細めて、彼女は告げる。

「けれど、それも良し悪しね。人間として目覚めてからは、気づけなくなってしまった。傍にいる、と漠然と感じることはあるかもしれないけれど。そして、それを貴方がもっているということは」

 ――本来の持ち主、本来の時間のレイスは、死んでいるということね。

 明日は晴れね、そんなたわいない日常を離すかのような口ぶりで落とされた台詞に、私はただ、目を見開くことしか出来なかった。

「まって、それは、どういうこと?!」

「ああ、もう時間ね」

 体が透けている。伸ばした掌に感触がない。それでも、問いかけることは止められない。

「まって、ねぇ、どういう意味。教えて!」

 必死に手を伸ばしても、その手に触れるものはない。指先から空気に溶けていく。糸が解けるように、体が解けていく。

「さようなら、未来からの来訪者。ありがとう、私の子供を育んだ人」

「まって、ねぇ!」

「貴方の未来に幸おおからんことを、願っているわ」

 そんな風に、穏やかに、優しく、愛おしさをこめて微笑まれても。

 全然、嬉しくない!

 最後、必死にあげた声すら空気に溶けて、私は消えた。
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