39 / 40
39話・私と彼の決意の話(2)
しおりを挟む
ルウランは、私になにを見せたいのだろう。私があけることが出来なかった扉をすっと開けて、ルウランは私の手を繋いだまま、外へと足を踏み出した。
荘厳なお城の中を歩く。見るのは初めてではなかった。レイスのそばにいたときに、レイスにくっついて色々みた。でも、実際に自分の足で歩くのではあるでは違う圧迫感がある。
息苦しささえ感じる王宮を一歩一歩踏みしめて、歩く。ルウランにつながれた手がなければ、くずおれてしまっていたかもしれない。
それくらいの息苦しさがあった。不思議と、だれともすれ違わなかった。衛兵さんも、メイドさんも、誰もいない王宮は、しんと静かで、痛いほどだった。
静かに歩みを進めるルウランに、どこにいくのか、と問いかけは投げなかった。レイスのところにいくのだと漠然と分かっていた。
怖かった。湖の乙女の言葉が脳裏を渦巻いて、最悪を予想してしまうから。
会いたかった。寂しいと叫ぶ心が、レイスを求めていたから。
相反する心をもてあましながら、ともすれば止まってしまいそうな足を必死に進める。
そうして、廊下を渡って、螺旋階段を下りた、その先に。
重厚な扉に守られた、部屋があった。
「ここに入ることが出来るのは、認められた者のみなのです。貴方には資格がある。さぁ」
そう告げて、私の前から退いたルウランに、戸惑わなかったわけがないけれど。こくりとつばを飲み込んで、レイスの花の宝石を掴んでいた手を扉にかざす。触れなくていい、本能で理解していた。
ずず、と重い音を立てて開く扉。眩しい光が室内からこぼれる。階段を随分と下りたから、ここは地下のはずなのに、どこからか溢れる光が乱反射して。目を細めたのは一瞬だけ。
光の照り返しが落ち着いたそこは、神々しささえ感じる空間が広がっていた。突き抜けた天井は高く、一番上が見えないほど。繊細な細工が随所に施された、部屋そのものが芸術品のような空間。
円形の部屋の中央に長方形の台がある。溢れる清水が部屋の中を循環していた。そして、目の前にある、その長方形の台の上に、静かに、眠るように、レイスが横たわっていた。
「レイス!」
叫んで駆け出そうとした私の肩を掴んだのは、ルウランだった。
睨むように振り返っても、意にも介した様子がない。手を跳ね除けようとして、響いた声に驚いて視線を上げる。
「それが、例の女か」
視線を上げた先、二階部分に相当する場所に、立っていたのは、銀糸に紫の瞳。レイスそっくりの顔立ちからして、恐らく、リイネと思われる青年だった。
「リイネ……?」
「本当に僕たちの事を知っているのか」
小さな声で呟けば、片眉を上げてリイネがごちる。かつん、かつん、と高い音を響かせて階段を下りてきたリイネは私の正面に立った。ぐいっと顎を掴まれる。
「?!」
「ふん、中の下といったところか」
「リイネ、失礼ですよ!」
鋭い叱責にも揺らぐ様子を見せず、リイネはぱっと私から手を離した。思いっきり掴まれた、顎が痛い。目を白黒させていると、リイネはふんと鼻を鳴らして離れていく。
「お前、どうやってレイスをたぶらかした」
「リイネ!」
鋭い視線に責める声音。レイスと同じ顔をしているから、まるでレイス本人から責められているような錯覚を抱く。
胸の痛みは無視して、真っ直ぐに挑むようにリイネをみる。ルウランの叱責にもリイネの表情はかわらない。
それだけ、リイネがレイスを大事にしているのだとわかって、わかってしまったから、胸の痛みも忘れて私は小さく笑みをこぼした。
「なにがおかしい!」
いきり立つリイネに、小さな微笑をたたえたまま、私は首を横に振る。
「おかしくなんてないよ。ただ、嬉しいだけ。レイスが大事にされていることが、この上なく嬉しいの」
それは紛れもない本心だった。レイスが大事にされているということは、私にとってとてもとても、嬉しいことだった。
目を見開いたリイネが眉を寄せてそっぽを向く。
「さっさとやれ。いつまでもこいつに寝ていられると僕たちが困る」
「リイネ、説明がまだです。そう急かすものではありません」
「ふん」
なにを、やればいいのだろうか。三人が互いを大切に思っている事を、私は知っているから。それがレイスに害をなすとは思わない。むしろ、逆で。眠っているレイスを目覚めさせるために必要なのだろうと思えた。
今だって私から顔をそらしてレイスを見つめるリイネの表情には痛みが満ちていて、レイスをいかに心配しているのかがよく分かる。
「僕たちが困る」といいながら、その言葉にはどうしようもないほどのレイスへの心配が滲んでいたから、ああ、レイスは愛されているんだと実感できて。それがたまらなく嬉しかった。
だからこそ。私は私に出来る最大限をやりたいと強く思った。
「教えて、私にはなにができるの」
荘厳なお城の中を歩く。見るのは初めてではなかった。レイスのそばにいたときに、レイスにくっついて色々みた。でも、実際に自分の足で歩くのではあるでは違う圧迫感がある。
息苦しささえ感じる王宮を一歩一歩踏みしめて、歩く。ルウランにつながれた手がなければ、くずおれてしまっていたかもしれない。
それくらいの息苦しさがあった。不思議と、だれともすれ違わなかった。衛兵さんも、メイドさんも、誰もいない王宮は、しんと静かで、痛いほどだった。
静かに歩みを進めるルウランに、どこにいくのか、と問いかけは投げなかった。レイスのところにいくのだと漠然と分かっていた。
怖かった。湖の乙女の言葉が脳裏を渦巻いて、最悪を予想してしまうから。
会いたかった。寂しいと叫ぶ心が、レイスを求めていたから。
相反する心をもてあましながら、ともすれば止まってしまいそうな足を必死に進める。
そうして、廊下を渡って、螺旋階段を下りた、その先に。
重厚な扉に守られた、部屋があった。
「ここに入ることが出来るのは、認められた者のみなのです。貴方には資格がある。さぁ」
そう告げて、私の前から退いたルウランに、戸惑わなかったわけがないけれど。こくりとつばを飲み込んで、レイスの花の宝石を掴んでいた手を扉にかざす。触れなくていい、本能で理解していた。
ずず、と重い音を立てて開く扉。眩しい光が室内からこぼれる。階段を随分と下りたから、ここは地下のはずなのに、どこからか溢れる光が乱反射して。目を細めたのは一瞬だけ。
光の照り返しが落ち着いたそこは、神々しささえ感じる空間が広がっていた。突き抜けた天井は高く、一番上が見えないほど。繊細な細工が随所に施された、部屋そのものが芸術品のような空間。
円形の部屋の中央に長方形の台がある。溢れる清水が部屋の中を循環していた。そして、目の前にある、その長方形の台の上に、静かに、眠るように、レイスが横たわっていた。
「レイス!」
叫んで駆け出そうとした私の肩を掴んだのは、ルウランだった。
睨むように振り返っても、意にも介した様子がない。手を跳ね除けようとして、響いた声に驚いて視線を上げる。
「それが、例の女か」
視線を上げた先、二階部分に相当する場所に、立っていたのは、銀糸に紫の瞳。レイスそっくりの顔立ちからして、恐らく、リイネと思われる青年だった。
「リイネ……?」
「本当に僕たちの事を知っているのか」
小さな声で呟けば、片眉を上げてリイネがごちる。かつん、かつん、と高い音を響かせて階段を下りてきたリイネは私の正面に立った。ぐいっと顎を掴まれる。
「?!」
「ふん、中の下といったところか」
「リイネ、失礼ですよ!」
鋭い叱責にも揺らぐ様子を見せず、リイネはぱっと私から手を離した。思いっきり掴まれた、顎が痛い。目を白黒させていると、リイネはふんと鼻を鳴らして離れていく。
「お前、どうやってレイスをたぶらかした」
「リイネ!」
鋭い視線に責める声音。レイスと同じ顔をしているから、まるでレイス本人から責められているような錯覚を抱く。
胸の痛みは無視して、真っ直ぐに挑むようにリイネをみる。ルウランの叱責にもリイネの表情はかわらない。
それだけ、リイネがレイスを大事にしているのだとわかって、わかってしまったから、胸の痛みも忘れて私は小さく笑みをこぼした。
「なにがおかしい!」
いきり立つリイネに、小さな微笑をたたえたまま、私は首を横に振る。
「おかしくなんてないよ。ただ、嬉しいだけ。レイスが大事にされていることが、この上なく嬉しいの」
それは紛れもない本心だった。レイスが大事にされているということは、私にとってとてもとても、嬉しいことだった。
目を見開いたリイネが眉を寄せてそっぽを向く。
「さっさとやれ。いつまでもこいつに寝ていられると僕たちが困る」
「リイネ、説明がまだです。そう急かすものではありません」
「ふん」
なにを、やればいいのだろうか。三人が互いを大切に思っている事を、私は知っているから。それがレイスに害をなすとは思わない。むしろ、逆で。眠っているレイスを目覚めさせるために必要なのだろうと思えた。
今だって私から顔をそらしてレイスを見つめるリイネの表情には痛みが満ちていて、レイスをいかに心配しているのかがよく分かる。
「僕たちが困る」といいながら、その言葉にはどうしようもないほどのレイスへの心配が滲んでいたから、ああ、レイスは愛されているんだと実感できて。それがたまらなく嬉しかった。
だからこそ。私は私に出来る最大限をやりたいと強く思った。
「教えて、私にはなにができるの」
0
あなたにおすすめの小説
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。
和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。
黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。
私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと!
薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。
そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。
目指すは平和で平凡なハッピーライフ!
連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。
この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。
*他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない
紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。
完結済み。全19話。
毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる