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第10話・優しい嘘
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「話をしよう。私たちは手を組めるかもしれない」
ナイフを仕舞いこみ、そう告げて、カークはベッドからどいた。
手を伸ばされたけれど、カークの手を掴むことなく体を起こすと、カークは肩を竦めてソファへと移動する。
わたしもドレスの皺を伸ばして、髪を手櫛で整えてからカークの対面のソファに座った。
「目が赤いね。冷やすものをもってこさせようか?」
「いいです。それより、わたしも話がしたいです」
首を横に振る。カークは一つため息を吐き出して、そうだな、と膝の上で両手を組んだ。
「私には「俺」だったときの記憶がある。この世界をゲームとしてプレイした頃の記憶だ」
「わたしもです」
カークの言葉に頷くと、カークも一つ頷いた。
「私たちの共通点だ。それで、まぁ、君を見ていたらかなりわかりやすかったんだが、君はクーが好きで、幸せにしたいと思っているんだね?」
「はい」
真剣な面持ちで頷くと、カークがよかった、と微笑む。
「俺との目的は共通だろう。クーがどうなるか、知っている?」
「海底洞窟で、亡くなると」
「そう。だから、私はそれを阻止したい。君はどうかな?」
「わたしもです! クーが死ぬなんて、絶対にいや……!」
ぎゅっと膝の上で手を握りこんで、前のめりになる。わたしの態度にカークは穏やかに笑った。
「そうだね、その通りだ。私だってクーが死ぬ未来なんて受け入れられない。なら、私たちは共犯者になれる」
「共犯者……?」
「クーを死なせないという、共通の目的を持った共犯者だ」
人差し指をたててついっと空中でカークが指を動かす。
「ゲームにない行動をとることで起こり得るイレギュラー、まぁ、私たちの存在自体がイレギュラーだが、それにも二人で力を合わせれば対処できるだろう」
「力を……あわせる……」
「おや、嫌かな? 私たちはよき隣人だと思っていたんだが」
小声で呟いたわたしに、カークが首を傾げる。わたしは「だって」と口ごもった。
「わたしのこと、きらいでしょう……?」
「嫌いなものか。むしろ好きだよ」
「だって、わたしは」
ライラの、居場所を。あなたが好きな女の子の存在を。奪ったのだ。
ぐっと唇を噛みしめる。言葉にはできなかった。
わたしが俯くと、カークは浅くため息を吐き出して、それからゆっくりと喋りだした。
「考えたことはないかい? もし、自分の立ち位置に別の「誰か」がいたら、と」
「そ、れは」
「ライラがそのまま在ることが一番だと私だって思っている。でも、ライラの居場所に収まったのが、君でよかったとも思っている」
「どうして……?」
どうしてそんな、優しい言葉が吐けるのか。
わたしだったら、もし、クーの居場所を見ず知らずの誰かに奪われたら、そんなことは言えない。
「どうしようもない人間が居座るよりは、よほどいい。君は分別を弁えているし、利口で行儀もいい。ライラの評判を落としてはいない。何より」
カークが立ち上がる気配がして。少しして私の頬に手が当てられた。
そっと視線を上げると、優しい顔でカークが笑っている。
「君の中に、ライラはまだいるのだと確信が持てた。それだけでいい」
「っ」
「私は生まれた時から「俺」だったから、わからない感覚だが……君たちはきっと共存しているんだろう」
そうだろう、ライラ。
囁くように歌うように告げられて、わたしは言葉に詰まった。
ああ、その通りだ。わたしの胸の中に確かに「ライラ」という子供はいて、わたしと一緒に世界を見ている。
「ありが、とう」
「うん?」
「ありがとう、ございます。わたしを、みとめてくれて」
拒絶されるのは怖い。否定されるのだって怖い。
怖いものは、たくさんある。
でも、こうやって。肯定してくれる人がいるなら。きっと、わたしは。
「がんばります、わたし、ライラとして!」
生きていけると、思ったのだ。
* * *
バタバタと屋敷が騒がしい。カークと見つめあったまま、なんとなく外の喧騒を耳に入れていると、ばたん、と勢いよく部屋のドアが開かれた。
「兄上、ライラの元に行くなら僕も……?!」
ドアに視線を動かすと、慌てているセイラと息を飲んだクーが目に入る。
にやりと笑うと、眼光鋭くしたクーが大股で近づいてきて、わたしをカークからべりっと剝がした。
「あ、兄上だろうと渡しません……!」
そういってカークを威嚇するクーに、カークがぽかんとした顔をして。一拍置いて盛大に笑いだした。
「兄上!」
「あっはっはっは!! 悪い悪い、とる気はなかったんだ、クー。ちょっと話をしていただけだよ」
あのクーがカークに食って掛かっている。
いつもカークの傍にいて、カークの言うとおりにしているクーが。わたしのために。
感動で胸がいっぱいだ。わたしがにこにこと笑っていると、クーが勢いよくわたしを抱きしめる。
心地いい感覚に目を閉じそうになって、続いたクーの言葉に頭を抱えた。
「ライラを泣かせるなら兄上だろうと許しません!」
あ、涙のあと。残っていたのか。あちゃー。
これ、カークはどう言い訳するんだろう。ことによってはお父様まで出てきかねない。
カークを伺っていると、カークはうーんと首を傾げてから。
「かわいい子ほど虐めたくなるものだよね!」
そんな風に笑顔で言い切った。
意外とSだ、この人……!
ナイフを仕舞いこみ、そう告げて、カークはベッドからどいた。
手を伸ばされたけれど、カークの手を掴むことなく体を起こすと、カークは肩を竦めてソファへと移動する。
わたしもドレスの皺を伸ばして、髪を手櫛で整えてからカークの対面のソファに座った。
「目が赤いね。冷やすものをもってこさせようか?」
「いいです。それより、わたしも話がしたいです」
首を横に振る。カークは一つため息を吐き出して、そうだな、と膝の上で両手を組んだ。
「私には「俺」だったときの記憶がある。この世界をゲームとしてプレイした頃の記憶だ」
「わたしもです」
カークの言葉に頷くと、カークも一つ頷いた。
「私たちの共通点だ。それで、まぁ、君を見ていたらかなりわかりやすかったんだが、君はクーが好きで、幸せにしたいと思っているんだね?」
「はい」
真剣な面持ちで頷くと、カークがよかった、と微笑む。
「俺との目的は共通だろう。クーがどうなるか、知っている?」
「海底洞窟で、亡くなると」
「そう。だから、私はそれを阻止したい。君はどうかな?」
「わたしもです! クーが死ぬなんて、絶対にいや……!」
ぎゅっと膝の上で手を握りこんで、前のめりになる。わたしの態度にカークは穏やかに笑った。
「そうだね、その通りだ。私だってクーが死ぬ未来なんて受け入れられない。なら、私たちは共犯者になれる」
「共犯者……?」
「クーを死なせないという、共通の目的を持った共犯者だ」
人差し指をたててついっと空中でカークが指を動かす。
「ゲームにない行動をとることで起こり得るイレギュラー、まぁ、私たちの存在自体がイレギュラーだが、それにも二人で力を合わせれば対処できるだろう」
「力を……あわせる……」
「おや、嫌かな? 私たちはよき隣人だと思っていたんだが」
小声で呟いたわたしに、カークが首を傾げる。わたしは「だって」と口ごもった。
「わたしのこと、きらいでしょう……?」
「嫌いなものか。むしろ好きだよ」
「だって、わたしは」
ライラの、居場所を。あなたが好きな女の子の存在を。奪ったのだ。
ぐっと唇を噛みしめる。言葉にはできなかった。
わたしが俯くと、カークは浅くため息を吐き出して、それからゆっくりと喋りだした。
「考えたことはないかい? もし、自分の立ち位置に別の「誰か」がいたら、と」
「そ、れは」
「ライラがそのまま在ることが一番だと私だって思っている。でも、ライラの居場所に収まったのが、君でよかったとも思っている」
「どうして……?」
どうしてそんな、優しい言葉が吐けるのか。
わたしだったら、もし、クーの居場所を見ず知らずの誰かに奪われたら、そんなことは言えない。
「どうしようもない人間が居座るよりは、よほどいい。君は分別を弁えているし、利口で行儀もいい。ライラの評判を落としてはいない。何より」
カークが立ち上がる気配がして。少しして私の頬に手が当てられた。
そっと視線を上げると、優しい顔でカークが笑っている。
「君の中に、ライラはまだいるのだと確信が持てた。それだけでいい」
「っ」
「私は生まれた時から「俺」だったから、わからない感覚だが……君たちはきっと共存しているんだろう」
そうだろう、ライラ。
囁くように歌うように告げられて、わたしは言葉に詰まった。
ああ、その通りだ。わたしの胸の中に確かに「ライラ」という子供はいて、わたしと一緒に世界を見ている。
「ありが、とう」
「うん?」
「ありがとう、ございます。わたしを、みとめてくれて」
拒絶されるのは怖い。否定されるのだって怖い。
怖いものは、たくさんある。
でも、こうやって。肯定してくれる人がいるなら。きっと、わたしは。
「がんばります、わたし、ライラとして!」
生きていけると、思ったのだ。
* * *
バタバタと屋敷が騒がしい。カークと見つめあったまま、なんとなく外の喧騒を耳に入れていると、ばたん、と勢いよく部屋のドアが開かれた。
「兄上、ライラの元に行くなら僕も……?!」
ドアに視線を動かすと、慌てているセイラと息を飲んだクーが目に入る。
にやりと笑うと、眼光鋭くしたクーが大股で近づいてきて、わたしをカークからべりっと剝がした。
「あ、兄上だろうと渡しません……!」
そういってカークを威嚇するクーに、カークがぽかんとした顔をして。一拍置いて盛大に笑いだした。
「兄上!」
「あっはっはっは!! 悪い悪い、とる気はなかったんだ、クー。ちょっと話をしていただけだよ」
あのクーがカークに食って掛かっている。
いつもカークの傍にいて、カークの言うとおりにしているクーが。わたしのために。
感動で胸がいっぱいだ。わたしがにこにこと笑っていると、クーが勢いよくわたしを抱きしめる。
心地いい感覚に目を閉じそうになって、続いたクーの言葉に頭を抱えた。
「ライラを泣かせるなら兄上だろうと許しません!」
あ、涙のあと。残っていたのか。あちゃー。
これ、カークはどう言い訳するんだろう。ことによってはお父様まで出てきかねない。
カークを伺っていると、カークはうーんと首を傾げてから。
「かわいい子ほど虐めたくなるものだよね!」
そんな風に笑顔で言い切った。
意外とSだ、この人……!
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