【完結】守護龍の寵愛、傭兵ステラの長い旅路〜次期守護龍候補の赫き竜〜

久遠れん

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22話・赫き竜(2)

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 大抵の場合ラキトからの連絡は彼の弟子であるシェリアを経由する。

 そのほうが魔術の造形に深くないステラの負担とならないからだ。投影魔術はかなりの魔力を消費する。

 そのほとんどをペンダントの向こう側の、恐らくは帝都にいる魔術師ラキトが担っているとはいえ、ゲートをつなぐのはステラには少し荷が重い。

 やや気だるい体を適当な木に預け問いかければ、ラキトはいつになく強張った表情で要件を告げた。

『今はどこにいますか?』

「西の街、オールラドンだ」

『……ギリギリ、ですか』

「なんだ、どうしたというんだ」

 苦い顔をするラキトにただ事ではないとさとったステラも厳しい表情で問い直す。

『赫き竜が暴れている、という情報があるのです』

「赫き竜といえば次代の守護龍と名高い竜じゃないか」

『はい、その赫き竜です。付近の農村は全滅、赫き竜が暴れている影響で気候にも悪影響がでているようです』

「それはエーデルで情報屋から私も聞いたな。理由が赫き竜だとは言わなかったが、最近の気候のずれはいずこかの竜の気がたっているからだと言っていた」

 その程度お前も把握しているだろうし、どの竜が原因かわかれば連絡する気でいたんだがな、とため息混じりにステラが呟けば、重々しい口調でラキトが言葉を続ける。

『早急に対策が必要です。帝都からも部隊を派遣しますが、なにしろ遠い』

「そこで、私か」

『その通りです。先遣隊として視察だけで構いません。見てきていただけませんか』

「構わん。赫き竜の住処は西の山脈だったな。ここからだと馬で走り続けて五日ほどか」

『くれぐれも、無理はしないでください』

「わかっているよ」

 それが通信の限界だった。再び揺らめく陽炎となったラキトが念を押すように『無理をしないでくださいね』と告げたのを最後に、ペンダントは何も映さなくなった。

「予定変更、だな」

 それも大幅に、と口の中で呟いて待ちぼうけを食らわせている弟子二人の元へ戻るのだった。

 シェリアとリースにわけは後で話すと告げ先に宿をとる。一泊もしないうちに発つ予定であるので部屋を取るのは金の無駄でしかなかったが、人に聞かれては困る話をしようと思えば仕方ない。

 宿の部屋で、帝都からの命で緊急の仕事が入ったことを告げれば、リースは酷く緊張した面持ちをしたが、シェリアは逆に険しい面持ちだった。

「先生、私もついていきます」
「危険だ」
「そのときのための私です!先生になにかあったらラキト様にあわせる顔がありません!」

 言い募るシェリアはこうなったら引くということを知らない。ため息一つ吐き出して、もう一人の弟子であるリースに告げる。

「お前は」
「お、俺もいきます!」

 とたんに渋い表情になるステラにリースは必死で言い募る。

「何の役にも立てないかもしれないけど! でも! 俺も行きます! 行かせてください!」

 ほとんど土下座をしそうな勢いのリースに説得の時間はそれだけ無駄だと判断し、ステラは立ち上がった。

「馬には乗れるか?」
「はい、村で乗っていましたから」
「農耕馬とは勝手が違うと思うがな」

 ぽつりと呟きながらくるりと踵を返す。

「いますぐ発つ。行くぞ」
「「はい!!」」

 元気な声が二つ返ってきたのを、ステラは軽く肩をすくめることで許容した。

 その後馴染みのキャラバンからいざというときのために取っておいた金貨で馬を三頭買い上げ、山岳へと最低限の休みだけで走り続けた。

 リースは早々に根をあげるかと思われたが、歯を食いしばってついてきた。その根性は賞賛してもいいだろう。

 馬が倒れる寸前まで酷使し、たどり着いた山岳の麓の村。そこは、一面の焼け野原だった。

「……ひでぇ」

 思わずといった様子でぽつりと呟くリースの隣で、馬上からくんと匂いを嗅ぐ。

「人の焼けた匂いがしない。一瞬で焼き尽くされたな。痛みも感じる暇はなかっただろう」

 それは、せめてもの救いかもしれない。

 そう胸のうちで呟いてつかの間の黙祷を捧げる。ステラに倣い、シェリアとリースもそうする。

 目を開いても光景は変わらない。なにも残っていない、消し炭としかいえない、村があったと知らなければその名残を探すことも難しい場所だ。

「ここからは徒歩だな」

 どこか適当な場所で馬を木につないで歩くというステラに二人が沈痛な面持ちで頷いた。

 山岳の麓ぎりぎりまで馬で進み、馬を木に繋ぐ。

 険しい山道をするすると登っていくステラにシェリアもリースも無言で付き従う。二人の脳裏をよぎるのは、村の惨状。死体すら残らず焼き尽くされた跡。

 それが竜の仕業だとステラは言う。恐ろしいと感じるのは人間の本能だ。帰りたいと思ってしまうのも致し方のないことだ。

 それでも二人はステラについていく。シェリアはステラによせる絶対の信頼があるから、リースは少しでも強くなりたいから。

 ステラが竜の元に行くと告げたときから、なにかがリースに呼びかけるのだ。早く、早く、と。それがなんなのかわからない。

 言葉にしがたい感覚のため、今は急ぐステラとシェリアには告げていないが、決して無視してはならないと思っている。

 だから必死にリースは食いついていく。先をすすむ二人のあとを荒い息で追いかける。

 山岳を上り始めて一時間ほど、ステラが横に手を出してしゃがみこんだ。

 先を歩くシェリアが倣いステラの隣にしゃがむ。リースはシェリアを挟んで隣に座り込み、ステラが鋭い眼差しで見つめる先を見て、息を呑んだ。

 そこにいたのは、竜だった。赤黒い、全身を鱗で覆われた巨大な竜だ。

 比較の対象が思い浮かばないほどに大きい。あの竜が降り立てば、リースの村など全て覆われてしまうのではないかというほどの巨大さ。

 圧倒されるリースの中で警戒心が鳴り響く。それでも動けない。呼吸が細く短くなる。あの圧倒的な存在の前でリースは自身が酷く矮小な存在に思えた。この世に存在する価値などあるのかと、自身に問いかけたくなるほどに。

「臆するな。前を見ろ。お前はそこに在るぞ」
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