【完結】守護龍の寵愛、傭兵ステラの長い旅路〜次期守護龍候補の赫き竜〜

久遠れん

文字の大きさ
24 / 38

24話・プレゼント

しおりを挟む
 どさりと倒れたステラの体をとっさに支えることはシェリアにもリースにも出来なかった。リースは目の前で展開された突然の事態に、シェリアはまさかの師の行動に。

 けれど硬直から立ち直るのはシェリアのほうが早かった。ステラが横向きに倒れたのでボウガンの矢がそれ以上食い込んでいないことを確認し、すばやく呪文を唱える。

 胸元のネックレスに手をかざして、今のシェリアには少しばかり荷の思いけれどこの状況では他に手はないと魔術を行使する。

「我ここに在り。だが、汝の元へ我が求める。ゲートオープン!」

 そうして空間が歪んだ。歪んだ空間の先はシェリアのもう一人の師であるラキトの下だ。

「リース、先生を担いで! 早く!」

 シェリアが下げているネックレスにもラキトの魔力がこめられている。それを総動員しても人が通れるだけのゲートを長時間開くのはシェリアにはまだ辛い。

 額に脂汗をかきながら叫ぶシェリアにすばやくリースはステラの傷に触らぬようにステラを担ぎ上げる。大剣をシェリアがもっていたことが幸いした。

「まて、人間」

 だが、それを止める絶対の声が発せられる。

 本当は無視して早くシェリアの言うとおりにしたいのに、リースの足が縫いとめられる。視線は否応なく止めた相手、赫き竜とステラが呼んでいた竜へと向かう。

 赫き竜はひたりと見定める視線を意識を失ったステラに向けて、リースやシェリアにもわかるようににたりと笑んだ。

「その人間の清涼な気。よい、よい。それを食らわば我が子はもっと回復するだろうて」
「そんな!」

 悲鳴を上げるシェリアに目を見開いて言葉もないリース。

 コルタリア皇統国では竜は絶対の存在だ。神といえる存在だ。だから、朝と寝る前には祈りを欠かさないし、竜への信仰もまた根深い。

 だが、そんな存在に、こんな理不尽を振りかけられたら、どうすればいいのだ。

 大人しくステラを渡せるわけがない、かといって竜の言葉を無視してこのまま動けるはずもない。

 成人したとはいえ子供が二人。なす術もなく佇んでいると、そこに割りいる凛とした声があった。

「それは成りません。彼女はこの国の貴重な人材、ここで死なせる訳にはいかぬのですよ」

 静かに、静寂に、けれど凛として。

 涼やかな声はそういった。弾かれたように顔を上げたリースの前ではゲートから一人の銀髪の男が出てきたところだった。

「無理をするなと、言ったのですけれどね」

 男はそういって苦笑するとリースの抱えるステラの傷のある頬を一撫でする。それだけで、頬の傷は癒えいまだボウガンの矢は刺さったままではあるものの、死人のように青白かった頬に赤みが差す。

「赫き竜よ、この代価はいずれ我らがきちんとした形で払いましょう。ですから、いま一時だけ、見逃してはもらえませんか。彼女の命を懸けた守護を寄り代に」

「……ふん、その瞳の奥、あのいけすかぬ守護龍がみておるな。我もやつに喧嘩を売るほど阿呆でもない。ゆけ、瞬きの間だけ待ってやろう」

 気に食わぬ、と隠しもしない声音で告げて赫き竜はまた子を守るように丸くなる。

「礼を述べます、誇り高き赫き竜」

 男は優美に一礼をしていまだゲートを維持したままのシェリアの頭をなでる。シェリアの表情が随分と和らいだ。魔力を譲渡されたのだ。

「彼女を預かりますよ」

「はい」

 壊れ物を扱う仕草でステラを抱き上げた男の視線は慈愛に満ちていて、男にとってステラが大事な存在なのだと知れた。

 だからこそ素直に渡したリースの前で、男は悠々とゲートを通っていく。シェリアに促されゲートをくぐる直前、ふと振り返った赫き竜は瞼を下ろしたままだった。


 * * *


 そのままステラは治療をということで別の部屋につれていかれた。

 きょろきょろとするリースの横で、知った場所なのか妙になれた様子のシェリアが盛大なため息をついていた。

「な、なぁ、シェリア、ここって……」

「ラキト様のお屋敷よ。あのゲートはラキト様の元へ直通でつなぐようになっているから」

 まぁ、ラキト様のほうが都合が悪かったらあかないんだけど。その点タイミングは無駄に良かったみたいね。とどうでもよさ気に付け加えられる。

 長い銀糸の髪に蒼い瞳を持ったあの男が、ステラの親友であり幼馴染であるという、シェリアの魔術の師であるというラキトなのだと遅まきながら理解して、同時にシェリアが立派過ぎる屋敷に慣れた様子なのも理解する。

 ここはおそらく、シェリアが修行時代を過ごした場所だろう。

 いやもうリースには立派過ぎて、高級すぎて一歩足を踏み出すのも恐ろしいような空間なのだが、シェリアは気にした様子もなく「あー、疲れた……」と呟いて伸びをしている。

「おい、師匠が大変なときに」

「大丈夫よ。ラキト様の手にかかれば、瀕死の状態でも持ち直すわ」

 その信頼に裏づけされた自信には思わずリースが頷き返してしまうほどのものがあった。

 だから、とシェリアは続ける。

「私達は下手なことはせずに、ラキト様を待つことしかできないのよ」

 その瞳によぎった寂しげな色に、気付いてしまったから。

 シェリアがステラを尊敬しているのは短い旅の間でも本当によく知っていたから。力になれないことが歯がゆいのだと、それは自分も同じだけれど。魔術を行使するものとしてシェリアのそれはリースより数段上なのだと理解して。

 何か出来ないかと思ってしまった。

 それで、思いついたのが、先日購入したイヤリングだ。

 結局渡せないままだったが、辛うじて血に汚れることを避けられた小包は肌身離さずもっていた。

 だから、それをずいとシェリアの胸元に押し付ける。少しでも気がそれればいいと思っての行動だった。

「なによ?」

「いいから、やる」

 短く言えば、シェリアは怪訝な顔をしたものの包みを開いて、目を丸く見開いた。そうしていると素直にかわいいんだけどなぁ、などとシェリアに聞かれればひっぱたかれそうなことを考えてしまったのは秘密だ。

 恐る恐る反応を横目でうかがうリースの前で、シャンデリアの灯りにイヤリングをかざしたシェリアは、はぁとため息をついた。

 そのなんともいえない、なにかいいたげなため息のつき方に、リースもむっとする。

「なんだよ、人が折角」

「アンタ本当に、なんなのかしらね。昔からこうなの?」

「……は?」

 リースの言葉を遮って呆れた声音で紡がれた言葉に、リースは眉を寄せる。

 そんなリースの前でイヤリングをゆらゆらと揺らしながら、シェリアはもう一度ため息を吐き出して。

「作った人、魔術師ね。魔力がこもってるわ。純度が高い。いざというときのために魔力を充電することも出来るでしょうね。こんなの、商業と職人の国ステランデディス中立国でも中々お目にかかれない一品よ。一体これいくらしたのよ。まさか盗んでないでしょうね?」

「ばっ、馬鹿いえ! ちゃんと買ったさ! 師匠に貰った小遣いで釣りがきたぞ!」

「あー、じゃあ職人は無自覚で商人も知らなかったのね。アンタ剣といい精霊の化石といい本当にヒキがいいわねぇ」

 探しても中々見つからないわ、こんなの。

 と、これまた呆れたようにため息を吐くが、そのため息の中にやりきれない、というような雰囲気を悟ってしまってリースは些か居心地が悪い。

 そりゃあそんなに価値のあるものだと思わず、ただ、シェリアのしているネックレスに似ているな、揃えたら綺麗だろうな、とそれだけで買ったのだ。

 そこまで言われるほどのものだとは思いもしないし、正当な値段で買ったとは言いにくくなった。とはいえ、いまさらどうしていいかもわからない。

 ラキトという男が皇宮仕えなのは聞いている。だからここはきっと帝都だ。いまさら西の端まで返しにはいけないし。

 そんなリースの心境を思ってか、己の中で整理がついたのか、シェリアはイヤリングを握り締めて、肩をすくめる。

「ありがたく戴くわ。魔術師にとってこの上ない贈り物よ」

「お、おう」

「あと、センスも中々ね。純粋に気に入ったわ。ありがと」

 褒められているのだろう、これは。だって礼もいわれているし。

 シェリアからの礼という慣れないものに思わず顔を紅くしたリースをシェリアは怪訝な表情で見つめていたが、軽く首を傾げるだけで、すぐにイヤリングを両耳につけた。

「どう?」

「に、にあってる」

 どもってしまったのは仕方がないと言い訳をしたかった。

 だが、シェリアは常ならつっかかるリースの様子にも気にした風はなかった。それだけシェリアも疲れているのかもしれない。

「お二人とも、お部屋の準備が出来ました」

「あら、久しぶりね。クイナ」

「はい、お久しぶりですシェリアお嬢様」

「お嬢様?!」

 お着せの上品なメイド服を身に纏ったメイドの案内にも驚いたがシェリアがお嬢様と呼ばれていることにも驚いた。

 思わず声を上げたリースに、シェリアは肩をすくめてリースの知らない事実を告げたのだ。

「私、養子なのよ。名目上はね」

「え? え?」

「だから、私は養子なの。ラキト様の」

 とはいっても本当に名目上のものだから、ファミリーネームは違うけど。とこともなげにつげるシェリアに住んでる世界が違う、とくらりと眩暈がしたリースだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

【完結】『推しの騎士団長様が婚約破棄されたそうなので、私が拾ってみた。』

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【完結まで執筆済み】筋肉が語る男、冷徹と噂される騎士団長レオン・バルクハルト。 ――そんな彼が、ある日突然、婚約破棄されたという噂が城下に広まった。 「……えっ、それってめっちゃ美味しい展開じゃない!?」 破天荒で豪快な令嬢、ミレイア・グランシェリは思った。 重度の“筋肉フェチ”で料理上手、○○なのに自由すぎる彼女が取った行動は──まさかの自ら押しかけ!? 騎士団で巻き起こる爆笑と騒動、そして、不器用なふたりの距離は少しずつ近づいていく。 これは、筋肉を愛し、胃袋を掴み、心まで溶かす姉御ヒロインが、 推しの騎士団長を全力で幸せにするまでの、ときめきと笑いと“ざまぁ”の物語。

婚約破棄された宰相です。 正直、婚約者も宰相も辞めたかったので丁度よかったです

鍛高譚
恋愛
内容紹介 「婚約破棄だ! そして宰相もクビだ!」 王宮の舞踏会で突然そう宣言したのは、女性問題を繰り返す問題王太子ユリウス。 婚約者であり王国宰相でもあるレティシアは、静かに答えた。 「かしこまりました」 ――正直、本当に辞めたかったので。 これまで王太子の女性問題の後始末、慰謝料交渉、教会対応、社交界の火消し…… すべて押し付けられていたレティシアは、婚約も宰相職もあっさり辞任。 そしてその瞬間―― 王宮が止まった。 料理人が動かない。 書類が処理されない。 伝令がいない。 ついにはトイレの汚物回収まで止まり、王宮は大混乱。 さらに王太子の新たな女性問題が発覚し、教会は激怒。 噂は王都中に広がり、王宮は完全に統治不能に。 そしてついに―― 教会・貴族・王家が下した決断は、 「王太子廃嫡」 そして。 「レティシア、女王即位」 婚約破棄して宰相をクビにした結果、 王宮を止めてしまった元王太子の末路とは――? これは、婚約破棄された宰相が女王になるまでの 完全自業自得ざまぁ物語。

処理中です...