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29話・守護龍(2)
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それはラキトの懸念でもあった。日ごとに持ち直しているが、いまだステラの生命力は万全とはいえない。それだけ、絞りきるように赫き竜の子に渡してしまったのだ。
守護龍の加護もちであり、ステラほどの清廉な気の持ち主の生命力を注がれたならば、通常ならばそれだけでどんな重症も癒えよう。
けれど、相手も竜だ。どれほどの傷なのかにもよるが、ステラが毒を受けていたことを考えれば、その可能性もあり、あまり明るい見込みは立てられなかった。
ギロリと睨みつけられたラキトはぴんと背筋を伸ばして「申し訳ありません」と頭を下げた。
目の前の守護龍がステラを溺愛しているのは皇帝にも秘密のことなのだ。叱責を受けるのはラキトのみだ。
一国の守護龍が一人の娘に入れ込んでいるなどと知れれば、たちまちステラは国を巡った権謀術数の餌食になる。
それは守護龍もラキトも本意ではない。
ようやく家からときはなたれたステラには自由が似合うと、それは守護龍を一人と数えてよいならば、二人の共通見解であった。
だからこそ、力のなさを不甲斐ないと詫びるラキトに否はない。
今回はラキトの判断ミスだ。ステラ個人を過信しすぎた。いや、信頼しすぎた。きちんとした兵を送り込むべきだったのだ。
……それが、たとえ、取り返しのつかない事態になろうとも。
それだけ、二人はステラが大事だった。だが、当の本人はそうではない。そうであってくれたならと二人を嘆かせるほどに、己に関して頓着しないのがステラという人間だ。
「お兄様、ラキトは間違ったことはしていません。あの場にもっとも近く力を持っていたのは私です。現場での判断ミスの責はどうか私に」
そういって頭をたれるステラを視界の隅に収めて、下げた頭はあげぬまま、変わらないなと苦く笑う。
自分を優先してくれたらいいのに。
我が身可愛さで、赫き竜から逃げて、傷など負わずにいてくれれば、いまだって怖かったと恐怖に泣いて縋ってくれればよかったのにと思ってしまう。
しばし沈黙が落ちる。ややおいて深いため息が吐き出された。
「よい、顔をあげよ。ステラ、主に非はない。ラキト、貴様を咎める気もまたない」
ステラへの言葉は本心であろうが、ラキトへの言葉は表面上のものであろう。
再びラキトの采配ミスでステラが怪我をするようなことがあれば、今度こそ目の前の守護龍は竜としてラキトへ牙を向こう。
「お心遣い、痛み入ります」
それでも態度は慇懃に。
さらに深く頭を下げたラキトに守護龍は浅く顎をひいただけだった。
「お兄様、此度の件、失態を犯した私にも引き続き同伴させてはもらえぬでしょうか」
ステラがここにきたのは、一重にその許可を得るためだった。
ラキトにいくら言い募っても却下されたそれを守護龍が許可するならば、さしものラキトもなにもいえまい。
だが、ステラの嘆願に守護龍は押し黙るのみ。
「お兄様」
けれど、守護龍はステラの懇願には滅法弱かった。
端で一応頷くなと視線で釘をさすラキトなど目にはいらぬとばかりにゆったりとした袖元に手を入れて丸い球を取り出す。
光などなくともひとりでに光り輝くそれは龍の力を凝縮したものだとステラにさえわかった。ラキトの息を呑む声がやけに大きく聞こえる。
「これを赫き竜に渡すがよい。そして、付け加えよ。次代を貴様が守護龍として担うならば、その子に我の加護を授けようと」
基本的に火水風土属性の竜たちは相性が一巡している。
火属性は水属性に強く、水属性は風属性に強く、風属性は土属性に強く、土属性は火属性に強く、といった具合だ。
それは精霊にも共通していることなのだが、今は割愛するとしてそこから切り離された存在である光属性というのはとても稀有だ。
相反する存在として互いの存在を相殺しあう闇属性があるとされるが、闇の竜は竜信仰の根付いているコルドアリア皇統国において災厄の象徴とされているため、光属性の竜はとても珍しい。
そしてまた、内に秘める力も莫大なものだ。
その力を凝縮したといって過言ではない光の球は金銭に変えることなど到底出来ない途方もない価値を誇る。
さしものステラも目を見張り言葉を失うが、守護龍はひょうひょうとしたものだ。
「いずれ説得に赴かねばならんと思っておったところだ。多少強引ではあるが、次期守護龍は確保せねばならんしな。あちらも我が加護を授けた子に手を出そうとした後ろ暗さはあろうよ」
ステラが説明していない、というより知らないことである「ステラを食わせろ」という旨も把握しているかのような物言いだ。
いや、把握しているのだろう、と冷静になった頭でラキトは考える。
こうやって赴いたのもステラの口頭での説明を聞いたのも、いわば儀礼的なものだ。そうせねば国という枠に縛られる守護龍は力を自由に振るえない。
守護龍なのだ、国全体を守護する龍。
竜から龍に至った高等なる存在。
国の端でおこったいざこざであろうと、そこに次期守護龍として名の挙がっている赫き竜と、なにより加護をさずけたステラがいるのならば把握しているのも道理である。
「お、にいさま……」
守護龍の加護もちであり、ステラほどの清廉な気の持ち主の生命力を注がれたならば、通常ならばそれだけでどんな重症も癒えよう。
けれど、相手も竜だ。どれほどの傷なのかにもよるが、ステラが毒を受けていたことを考えれば、その可能性もあり、あまり明るい見込みは立てられなかった。
ギロリと睨みつけられたラキトはぴんと背筋を伸ばして「申し訳ありません」と頭を下げた。
目の前の守護龍がステラを溺愛しているのは皇帝にも秘密のことなのだ。叱責を受けるのはラキトのみだ。
一国の守護龍が一人の娘に入れ込んでいるなどと知れれば、たちまちステラは国を巡った権謀術数の餌食になる。
それは守護龍もラキトも本意ではない。
ようやく家からときはなたれたステラには自由が似合うと、それは守護龍を一人と数えてよいならば、二人の共通見解であった。
だからこそ、力のなさを不甲斐ないと詫びるラキトに否はない。
今回はラキトの判断ミスだ。ステラ個人を過信しすぎた。いや、信頼しすぎた。きちんとした兵を送り込むべきだったのだ。
……それが、たとえ、取り返しのつかない事態になろうとも。
それだけ、二人はステラが大事だった。だが、当の本人はそうではない。そうであってくれたならと二人を嘆かせるほどに、己に関して頓着しないのがステラという人間だ。
「お兄様、ラキトは間違ったことはしていません。あの場にもっとも近く力を持っていたのは私です。現場での判断ミスの責はどうか私に」
そういって頭をたれるステラを視界の隅に収めて、下げた頭はあげぬまま、変わらないなと苦く笑う。
自分を優先してくれたらいいのに。
我が身可愛さで、赫き竜から逃げて、傷など負わずにいてくれれば、いまだって怖かったと恐怖に泣いて縋ってくれればよかったのにと思ってしまう。
しばし沈黙が落ちる。ややおいて深いため息が吐き出された。
「よい、顔をあげよ。ステラ、主に非はない。ラキト、貴様を咎める気もまたない」
ステラへの言葉は本心であろうが、ラキトへの言葉は表面上のものであろう。
再びラキトの采配ミスでステラが怪我をするようなことがあれば、今度こそ目の前の守護龍は竜としてラキトへ牙を向こう。
「お心遣い、痛み入ります」
それでも態度は慇懃に。
さらに深く頭を下げたラキトに守護龍は浅く顎をひいただけだった。
「お兄様、此度の件、失態を犯した私にも引き続き同伴させてはもらえぬでしょうか」
ステラがここにきたのは、一重にその許可を得るためだった。
ラキトにいくら言い募っても却下されたそれを守護龍が許可するならば、さしものラキトもなにもいえまい。
だが、ステラの嘆願に守護龍は押し黙るのみ。
「お兄様」
けれど、守護龍はステラの懇願には滅法弱かった。
端で一応頷くなと視線で釘をさすラキトなど目にはいらぬとばかりにゆったりとした袖元に手を入れて丸い球を取り出す。
光などなくともひとりでに光り輝くそれは龍の力を凝縮したものだとステラにさえわかった。ラキトの息を呑む声がやけに大きく聞こえる。
「これを赫き竜に渡すがよい。そして、付け加えよ。次代を貴様が守護龍として担うならば、その子に我の加護を授けようと」
基本的に火水風土属性の竜たちは相性が一巡している。
火属性は水属性に強く、水属性は風属性に強く、風属性は土属性に強く、土属性は火属性に強く、といった具合だ。
それは精霊にも共通していることなのだが、今は割愛するとしてそこから切り離された存在である光属性というのはとても稀有だ。
相反する存在として互いの存在を相殺しあう闇属性があるとされるが、闇の竜は竜信仰の根付いているコルドアリア皇統国において災厄の象徴とされているため、光属性の竜はとても珍しい。
そしてまた、内に秘める力も莫大なものだ。
その力を凝縮したといって過言ではない光の球は金銭に変えることなど到底出来ない途方もない価値を誇る。
さしものステラも目を見張り言葉を失うが、守護龍はひょうひょうとしたものだ。
「いずれ説得に赴かねばならんと思っておったところだ。多少強引ではあるが、次期守護龍は確保せねばならんしな。あちらも我が加護を授けた子に手を出そうとした後ろ暗さはあろうよ」
ステラが説明していない、というより知らないことである「ステラを食わせろ」という旨も把握しているかのような物言いだ。
いや、把握しているのだろう、と冷静になった頭でラキトは考える。
こうやって赴いたのもステラの口頭での説明を聞いたのも、いわば儀礼的なものだ。そうせねば国という枠に縛られる守護龍は力を自由に振るえない。
守護龍なのだ、国全体を守護する龍。
竜から龍に至った高等なる存在。
国の端でおこったいざこざであろうと、そこに次期守護龍として名の挙がっている赫き竜と、なにより加護をさずけたステラがいるのならば把握しているのも道理である。
「お、にいさま……」
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