【完結】守護龍の寵愛、傭兵ステラの長い旅路〜次期守護龍候補の赫き竜〜

久遠れん

文字の大きさ
30 / 38

30話・守護龍(3)

しおりを挟む
 震える声のステラの手を取って、守護龍が光の球を握らせる。それはステラの手に触れた途端とろけるようにさらなる光を放ってステラの中へと消えていった。

 恐らくはステラの一度は消えかけた命の灯火が再びあたりを照らし出すように輝きだすまでの守りの意味ももっているのだろう。

 慌てるステラをなだめるように守護龍はステラの頭をなでて、ことさら優しい声音で言う。

「赫き竜に伝えなさい。お前の加護の中に私の意思があると。そして彼の竜と……そうだな、手でも握るといい」

「手、ですか?」

「触れた場所から先ほどの光を通して私が彼の竜と対話を行おう。なに、説得してみせる。安心しているがいい」

「は、い」

 ステラとしてもそんな大役を任されるとは思ってもみなかったのだろう。

 目を白黒させてるステラを優しい眼差しでみつめて、人の形をとった守護龍はばっと手を開いた。

 それは、とあることの合図で。

 ああ、またやるのか、とラキトは思わず人を殺せそうな目で守護龍を睨み付けた。

「ありがとうございます、お兄様!」

 だがステラはためらわず両手を広げた守護龍の腕の中に飛び込んだ。

 ぎゅうぎゅうと抱きしめているのがちくしょう、うらやましい、とはラキトの心の中の念だ。

 こういうことをするから、本音としてはステラと守護龍を会わせたくないし、よほどのことがない限りこの森のある帝都から出ることのない守護龍と会わせないためにステラの放浪を許しているようなものだ。

 そうでなければとっくに娶っている、とはラキトの心の中での叫びである。

 とはいえ、本当に心の中だけだ。口に出すにはまだラキトも命が惜しいし、なによりステラとそういう関係になりきれていない。

 そろそろ踏み出さねばと国の一大事も脇において真剣に思案するラキトの横にステラが戻ってきた。抱擁は終わったらしい。

 とたんにラキトも内心を綺麗に押し隠して箱につめ、きりっとした表情を浮かべる。

「お手を煩わせ申し訳ございません。このご恩は必ずや」

「よい。我はこの国の守護龍よ。この国のものが犯した罪は我が罪悪の一部と心得ておる。発端が人にあるというならば、我が加担したも同然のこと」

「そのようなことは!」

「よいのだ、ステラ。守護龍とはそういうものなのだ」

 思わず声を荒げたステラに慈愛の眼差しを送り、守護龍は空を仰ぐ。

「我も守護龍となって長い。そろそろ次のものに席を渡さねば、国が淀んでしまおう。その淀みがほころびとなり、此度零れ落ちたのだろう」

 竜が守護龍となるのは数千年を生きる長い時の中で竜たちにとってほんの一瞬、瞬きのような時間。

 数百年が限度とされている。それ以上一つの属性の竜が守護龍として君臨し続けると、気が淀むというのだ。

 気が淀めば風も腐り、大地は腐臭に溢れ、人間は人としての側を失うと伝えられる。

 ――少し我侭がすぎたかもしれんな。

 そんな言葉を内心に秘めて、守護龍は幼い頃から見守ってきた人間の子の成長を思う。

 上流貴族の父が戯れにメイドに手を出して生まれた子、それがステラだ。生まれのために、三人いる正妻の娘達からはいじめをうけ、よく泣いていた。

 気まぐれに散歩に出かけた先で、泣きじゃくる幼子を見つけて手を取ったのが始まりだった。

 その後は、その身に宿る清廉な気に引かれ、泣きながらも真っ直ぐに誰も恨まぬ気質を好んだ。生きる術が欲しいというから乞われるままに剣を教えた。

 守護龍となるより昔、戯れに旅の剣士に教わった剣術を指南すれば、幼子は面白いほどすぐに吸収していった。

 果てはいまでは負けはないといわれる最強の傭兵だ。

 城に召抱えられれば偶然を装って会う事も今よりはできようとも思うが、そこはステラの幼馴染という魔術師の邪魔が入る。

 だが、それ以上に、ステラは自由を好んだ。父がその女癖の悪さから家を破滅に導いたとき、差し出されたラキトの手を振り払って、外の世界へと飛び出した。

 それからは、世界を見て回るといいながら世界中を放浪して回っている。路銀を稼ぐ手段として、傭兵をやりながら。

 全くもって、逞しく育ったと思う。あのなにかにつけては泣いていた幼子が。

 竜の中でも気性が荒いとされる赫き竜を前に一歩も引かなかったというのだから驚きだ。

 自身の存在のために、一般人より、それこそ皇族より竜が身近な存在であろうとも、あれを相手に引かぬ度胸はさすが自身が見初めた子供と誇りに思えた。

 だからこそ、加護を与えているのだ。それに相応しいと一個の竜としてみとめたがために。守護龍など関係なく、加護を与えた。

 それはいずれ、ステラの子にも及ぶであろうと想像に難くなかった。

 ステラをどこぞの男にやるのは業腹ではあったが、その男が常に食えない表情でひょうひょうとしながら、その実ステラのこととなれば国など投げ捨てる覚悟と決意を抱いていることを知っている。

 だから許せる。お前なら、と。それでも今一歩踏み出さぬから、情けないとあてつけを行うのだ。

「さあ、いくがよい。赫き竜のもとまでは、魔術師、お前が門を開けるであろう」

「はい」

 従順に頷いた瞳に燃える敵愾心すら心地いい。満足げに笑って、その身を本来の姿へと変える。

「さあ、ゆけ」

 一言告げて空へ舞い上がる。見上げる愛しい子。

 そなたらに幸多からんことを。
 いや、目が笑っていない。本気だ、ものすごく本気だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです

珠宮さくら
ファンタジー
前世の祖母にように花に囲まれた生活を送りたかったが、その時は母にお金にもならないことはするなと言われながら成長したことで、母の言う通りにお金になる仕事に就くために大学で勉強していたが、彼女の側には常に花があった。 老後は、祖母のように暮らせたらと思っていたが、そんな日常が一変する。別の世界に子爵家の長女フィオレンティーナ・アルタヴィッラとして生まれ変わっても、前世の祖母のようになりたいという強い憧れがあったせいか、前世のことを忘れることなく転生した。前世をよく覚えている分、新しい人生を悔いなく過ごそうとする思いが、フィオレンティーナには強かった。 そのせいで、貴族らしくないことばかりをして、家族や婚約者に物凄く嫌われてしまうが、思わぬ方面には物凄く好かれていたようだ。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮
恋愛
出会いは、ブライトン公爵邸で行われたガーデンパーティ。それまで婚約者候補の顔合わせのパーティに、一度も顔を出さなかったエレアーナが出席したのが始まりで。 彼女のあまりの美しさに、王太子レオンハルトと宰相の一人息子ケインバッハが声をかけるも、恋愛に興味がないエレアーナの対応はとてもあっさりしていて。 優しくて清廉潔白でちょっと意地悪なところもあるレオンハルトと、真面目で正義感に溢れるロマンチストのケインバッハは、彼女の心を射止めるべく、正々堂々と頑張っていくのだが・・・。 王太子妃の座を狙う政敵が、エレアーナを狙って罠を仕掛ける。 忍びよる魔の手から、エレアーナを無事、守ることは出来るのか? 彼女の心を射止めるのは、レオンハルトか、それともケインバッハか? お話は、のんびりゆったりペースで進みます。

婚約破棄されて去ったら、私がいなくても世界は回り始めました

鷹 綾
恋愛
「君との婚約は破棄する。聖女フロンこそが、真に王国を導く存在だ」 王太子アントナン・ドームにそう告げられ、 公爵令嬢エミー・マイセンは、王都を去った。 彼女が担ってきたのは、判断、調整、責任―― 国が回るために必要なすべて。 だが、それは「有能」ではなく、「依存」だった。 隣国へ渡ったエミーは、 一人で背負わない仕組みを選び、 名前が残らない判断の在り方を築いていく。 一方、彼女を失った王都は混乱し、 やがて気づく―― 必要だったのは彼女ではなく、 彼女が手放そうとしていた“仕組み”だったのだと。 偽聖女フロンの化けの皮が剥がれ、 王太子アントナンは、 「決めた後に立ち続ける重さ」と向き合い始める。 だが、もうエミーは戻らない。 これは、 捨てられた令嬢が復讐する物語ではない。 溺愛で救われる物語でもない。 「いなくても回る世界」を完成させた女性と、  彼女を必要としなくなった国の、  静かで誇り高い別れの物語。 英雄が消えても、世界は続いていく―― アルファポリス女子読者向け 〈静かな婚約破棄ざまぁ〉×〈大人の再生譚〉。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

処理中です...