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31話・加護(1)
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「?」
不思議な感覚にラキトは僅かに首をかしげた。
守護龍が空へ飛び立って、その後から体が火照っているような感覚がする。だが、それは熱から来るものではないことが本能的に理解できる。同時に反射的にありえないと否定する。
――だって、守護龍の加護をうけたなど、そんな馬鹿なことがあるはずがない。
ラキトは確かに上流貴族の出身ではあるし、遠い祖先に皇族に連なる系譜の者がいることも知っているが、ただそれだけだ。
守護龍に認められたなにをしたわけでもない。
まぁ、赫き竜と渡り合うための選別なのだろう。このときばかりはそう考えを片付けて、いつまでも空を見上げているステラの肩に手を置く。
びくりとらしくもなく肩を跳ねさせたステラが振り向いたのに微笑を浮べて、そっと手を引く。
ヒールの低い靴を選んだとはいえ、森の中は歩きにくいだろう。自然な仕草でエスコートするラキトに、またステラも身を任せる。
二人して皇宮から屋敷に戻った頃には日が傾いていた。
守護龍の力で常に陽光の光が差し込んでいる森の中では時間感覚がわかりにくいが、ずいぶんと話し込んでいたらしい。
飛び出してきたシェリアとリースに滞りなく終わったと伝えればあからさまにほっとした安堵の表情をみせた。
二人にとって、いや、ほとんどの人々にとって守護龍は確かに存在する唯一神でありながらも遠い世界の話であるのだ。その存在と対話をするというのだから、またされたほうが緊張しただろう。
まぁ、実際のところはあれなのだけれど。
とラキトは若干遠い目になりつつ、遅まきながらステラのドレスを褒めている弟子とその様子を見守っているステラの弟子を見守る。歓談は執事が夕食を知らせに来たことで場を移すことになった。
ステラは脱ぎたがったが、折角なのだからとシェリアが押し留め、ステラはドレスのまま晩餐だ。
その姿だけで屋敷が華やかになる。本当に、ずっとここにいてくれればいいのにという想いが隠し切れない。
「ラキト様、先生にいつ告白するんですか?」
だからだろう。想いを教えていないはずの弟子がこうやってからかってくるのも。
「近々予定している」
「嘘! あの奥手なラキト様が?!」
そんな素っ頓狂な声を上げられるようなことだろうか。
何事かと振り返ったステラとリースにひらりと手を振ってなんでもないと告げると、きらきらと年相応に目を輝かせる弟子の頭に軽い拳骨を一つ。
「いった」
「お前こそ、あのリースという少年と上手くやっているのか」
「なっ、なんでそこでリースがでてくるんですかっ」
途端に慌てだしたシェリアも大抵わかりやすい。
全くいらぬところまで似たもの師弟かと肩をすくめて、晩餐の会場へと足を踏み入れた。
初めての晩餐会、それも貴族階級のものとあって、ガッチガチに固まっていたリースだったが、ステラが寝込んでいた間に出された食事の際にマナーは気にしなくていいと告げられていたことを思い出して、そろっと視線をシェリアにすがるように向ければ呆れたようにため息を吐かれた。
「ラキト様、そこにマナーが何一つわからないやつがいますけど」
「ああ、構わない。自由に食べていい。ここは私の屋敷だからね、だれも文句はいわない」
「ありがとうございます……!」
「とはいってもあまりがっつかれるとステラの評判に関わるから、ほどほどになさい」
「は、はいっ」
基本的にステラが寝込んでいた際は、シェリアと二人で部屋で精霊術書を紐解いている間に食べていたので、マナーを気にしなくていいという言葉をすんなり受け入れられたリースだが、ここまで本格的な晩餐となるとさすがに物怖じしてしまう。
ラキトの釘をさす言葉と、視線がさらに怖い。
「おい、ラキト。そんな言い方をするな。教えていない私も悪いんだ。……リース、本当に気にしなくていい。ここのものは旨いから味わって食べるといい」
「はい……」
ステラにフォローされて、それでも自分からは手が出せなくて。
全員が食前の守護龍への祈りを捧げ、誰かしらが食べるのを真似しようと目を光らせていると意外にも真っ先にナイフとフォークをとったのはステラだった。
「本当に腹ペコだ。病人食は味がないし、薬はまずい」
そういってぱくぱくと食べだしたステラにつられるようにシェリアが手をつける。続いてラキトも。恐る恐るリースも手を伸ばした。
そうして、四人だけの晩餐会が始まった。
ステラが一見ぱくついているようにみえてその仕草が洗練されていることはリースにもなんとなくわかった。だから、ぎこちなくステラを真似ていく。
前菜のコリネスのサラダ、ルイギーンのスープ、焼きたてのパン、コルトリア皇統国ではポピュラーな魚、グリーネスの魚料理、口直しのクリューネのソルベときて、――当然ながら途中でデザートがでてきたことにリースは驚いたが、シェフがお口直しに、と言葉を添えてくれたのでなんとなく意味は理解した――メインの肉料理へとたどり着く。
「なにを当たり前のことを言っているんです、当然でしょう」
「当たり前でもつらいものはつらい。ああ、これ旨いな。どこの肉だ?」
不思議な感覚にラキトは僅かに首をかしげた。
守護龍が空へ飛び立って、その後から体が火照っているような感覚がする。だが、それは熱から来るものではないことが本能的に理解できる。同時に反射的にありえないと否定する。
――だって、守護龍の加護をうけたなど、そんな馬鹿なことがあるはずがない。
ラキトは確かに上流貴族の出身ではあるし、遠い祖先に皇族に連なる系譜の者がいることも知っているが、ただそれだけだ。
守護龍に認められたなにをしたわけでもない。
まぁ、赫き竜と渡り合うための選別なのだろう。このときばかりはそう考えを片付けて、いつまでも空を見上げているステラの肩に手を置く。
びくりとらしくもなく肩を跳ねさせたステラが振り向いたのに微笑を浮べて、そっと手を引く。
ヒールの低い靴を選んだとはいえ、森の中は歩きにくいだろう。自然な仕草でエスコートするラキトに、またステラも身を任せる。
二人して皇宮から屋敷に戻った頃には日が傾いていた。
守護龍の力で常に陽光の光が差し込んでいる森の中では時間感覚がわかりにくいが、ずいぶんと話し込んでいたらしい。
飛び出してきたシェリアとリースに滞りなく終わったと伝えればあからさまにほっとした安堵の表情をみせた。
二人にとって、いや、ほとんどの人々にとって守護龍は確かに存在する唯一神でありながらも遠い世界の話であるのだ。その存在と対話をするというのだから、またされたほうが緊張しただろう。
まぁ、実際のところはあれなのだけれど。
とラキトは若干遠い目になりつつ、遅まきながらステラのドレスを褒めている弟子とその様子を見守っているステラの弟子を見守る。歓談は執事が夕食を知らせに来たことで場を移すことになった。
ステラは脱ぎたがったが、折角なのだからとシェリアが押し留め、ステラはドレスのまま晩餐だ。
その姿だけで屋敷が華やかになる。本当に、ずっとここにいてくれればいいのにという想いが隠し切れない。
「ラキト様、先生にいつ告白するんですか?」
だからだろう。想いを教えていないはずの弟子がこうやってからかってくるのも。
「近々予定している」
「嘘! あの奥手なラキト様が?!」
そんな素っ頓狂な声を上げられるようなことだろうか。
何事かと振り返ったステラとリースにひらりと手を振ってなんでもないと告げると、きらきらと年相応に目を輝かせる弟子の頭に軽い拳骨を一つ。
「いった」
「お前こそ、あのリースという少年と上手くやっているのか」
「なっ、なんでそこでリースがでてくるんですかっ」
途端に慌てだしたシェリアも大抵わかりやすい。
全くいらぬところまで似たもの師弟かと肩をすくめて、晩餐の会場へと足を踏み入れた。
初めての晩餐会、それも貴族階級のものとあって、ガッチガチに固まっていたリースだったが、ステラが寝込んでいた間に出された食事の際にマナーは気にしなくていいと告げられていたことを思い出して、そろっと視線をシェリアにすがるように向ければ呆れたようにため息を吐かれた。
「ラキト様、そこにマナーが何一つわからないやつがいますけど」
「ああ、構わない。自由に食べていい。ここは私の屋敷だからね、だれも文句はいわない」
「ありがとうございます……!」
「とはいってもあまりがっつかれるとステラの評判に関わるから、ほどほどになさい」
「は、はいっ」
基本的にステラが寝込んでいた際は、シェリアと二人で部屋で精霊術書を紐解いている間に食べていたので、マナーを気にしなくていいという言葉をすんなり受け入れられたリースだが、ここまで本格的な晩餐となるとさすがに物怖じしてしまう。
ラキトの釘をさす言葉と、視線がさらに怖い。
「おい、ラキト。そんな言い方をするな。教えていない私も悪いんだ。……リース、本当に気にしなくていい。ここのものは旨いから味わって食べるといい」
「はい……」
ステラにフォローされて、それでも自分からは手が出せなくて。
全員が食前の守護龍への祈りを捧げ、誰かしらが食べるのを真似しようと目を光らせていると意外にも真っ先にナイフとフォークをとったのはステラだった。
「本当に腹ペコだ。病人食は味がないし、薬はまずい」
そういってぱくぱくと食べだしたステラにつられるようにシェリアが手をつける。続いてラキトも。恐る恐るリースも手を伸ばした。
そうして、四人だけの晩餐会が始まった。
ステラが一見ぱくついているようにみえてその仕草が洗練されていることはリースにもなんとなくわかった。だから、ぎこちなくステラを真似ていく。
前菜のコリネスのサラダ、ルイギーンのスープ、焼きたてのパン、コルトリア皇統国ではポピュラーな魚、グリーネスの魚料理、口直しのクリューネのソルベときて、――当然ながら途中でデザートがでてきたことにリースは驚いたが、シェフがお口直しに、と言葉を添えてくれたのでなんとなく意味は理解した――メインの肉料理へとたどり着く。
「なにを当たり前のことを言っているんです、当然でしょう」
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