【完結】守護龍の寵愛、傭兵ステラの長い旅路〜次期守護龍候補の赫き竜〜

久遠れん

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32話・加護(2)

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 その間もこんな軽口を叩き合っていたのだが、ステラのほうが肉料理までの攻略に本気を出していた。

 本当に病人食は口に合わなかったらしい。そしてようやっと返答したかと思えばこの台詞だ。いまさらすぎる感が結構あった。

「養殖のラグンラビットにございます」

 ステラの問いに答えたのは壁際に控えていたシェフだ。その言葉にほうと感心したようにステラが頷く。

「養殖は天然物とは違って味が落ちると聞いていたが、さすがラキトが召抱えるだけはある。いい腕だな」

「お褒め頂き光栄にございます」

 シェフ帽をとってぺこりとお辞儀をするシェフにそんな違いがあるのかと緊張しつつソースのたっぷりとかかった肉をほおばったリースは、頬が落ちるかというくらいの旨さに思わず声を上げていた。

「うっめー!」

「ちょっとアンタ、さすがにそれはないわ」

 本当に思わず声を上げてしまったリースは咎めるシェリアの声にはっとして体を小さくしたが、ステラもラキトもくすくすと小さく笑うだけだ。それがまたいたたまれない。

「最高のお言葉、ありがとうございます」

 さらにはシェフからそんな追撃も加わって、さらに小さくなりながら、美味しすぎる料理を平らげていくのだった。

 その後もイリネのチーズに希少なフラット果実と本物のフルコースを体験することとなる。

 皿が出される前にシェフが簡単に説明をしてくれるので、原材料はわかるのだが、美味しいけれど肩がこりそうだというのがリースの素直な本音だった。

 マナーを気にしなくていい今はいいが、これでマナーが云々かんぬんいわれてしまえば、味などきっとわからないだろうと思う。

 一通りの食事が終わり、デザートが各自の前に配られた。コルトリア皇統国守護龍の好物だとまことしやかにささやかれているザッハトルテが本日のデザートだった。

 ペース配分など当然わからないリースは大分おなか一杯だったが、鼻腔をくすぐる香りにはやはり食欲をそそられる。

 そそくさとデザートに手をつけようとしたところで、なごやかな歓談の中すすんでいた話題をステラが、ところで、とさえぎった。

「ラキト、出発はいつになる?」

「明朝にでも。急いだほうがいい案件なのは事実です」

「そうだな。シェリア、リース、お前達は引き続き留守番だ」

 二人のやり取りに思わずシェリアもリースも手が止まる。驚きに目を見張る二人に、上品な仕草でケーキを口に運びながら、ステラが「なんだ」と問いかける。

「せ、先生! まさか、またあの竜のところにいくんですか?!」

「反対です! 危険すぎます!」

 悲鳴のような声を上げたシェリアと止めるようにがたりと立ち上がったリース。当然の反応ともいえた。

 二人は目の前でシェリアがボウガンの矢に貫かれ、崩れ落ち、命を懸けて竜の子に生命力を渡したというのに、さらに食われかけたところを目にしているのだ。

 だが、弟子二人の様子にもステラは頓着せず、ぱくりとケーキを口の中に入れて租借すると、「手は打ってある」と告げるだけだ。

 沈黙が落ちる空間で、咳払いをしたのはラキトだった。自然とリースとシェリアの視線がラキトに集まる。

「今回は私がゲートを直接山脈の麓に開きます。そこからは私とステラ二人でいきます」

「そんな!」

「ラキト様!!」

 再びあがったリースとステラの悲鳴にもラキトは落ち着き払ったままだ。いっそ憎らしいほどに。

「守護龍の助けを得ました。あちらも守護龍を敵に回すほど愚かではないでしょう」

 もしそうだとしたら、すでに私達はここにはいません。

 そう紡がれては、二人は押し黙るしかない。竜には竜の生き方がある。守護龍は人間側に極力あわせてくれるが、それでも元は竜だ。

 不安はないとは言い切れない。なによりステラはいまだ万全ではない。

「出発を遅らせることは……?」

 せめて、とシェリアが口にしたことはステラによって切り捨てられた。

「できんな。すでにあれから八日が経過している。これ以上放置すればまたどこかの村が焼け落ちる」

 すでに焼け落ちている可能性は、あえて口にせずとも伝わったのだろう。押し黙るシェリアとリースに、ようやくステラは小さく微笑んだ。

「案ずるな。ラキトのいったように守護龍の手助けを得れた。今度は大丈夫だ」

 ステラの大丈夫という言葉を二人は疑ったことがない。それはステラに確かな腕前があるからだ。

 それでもあれだけの圧倒的な存在を前に、不安になるなというのは無理がある。押し黙る二人に、ラキトが一言付け加える。

「守護龍は国に縛られる代わりに、守護する国の中ならば絶対の力を発揮します。さらには元々が守護龍のほうが赫き竜より上位種なのです。心配は要りません」

 大人二人にこうやって念を押されては、もうシェリアもリースもなにも言えない。

 ただ、不安げにゆれる瞳で最愛の師であり尊敬する師をみつめるしかないのだった。
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