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35話・お誘い
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予想通り混乱に陥った帝都を騎士たちが走り回る中、のんびりとした空気に包まれた一角があった。
当然ながら、事態を全て正しく把握しているラキトの屋敷だ。
「本当に無事に帰ってきてくださってよかったですー!」
「本当に本当に心配したんですよ!!」
弟子二人に泣きつかれて困り顔のステラにこれで少しは懲りればいいんですけどねぇと、ステラが無茶をしたという報告をシェリアから聞くたびに胃痛をこらえていたラキトが見守る、なんとも平和な光景だ。
「ああ、もう。悪かった、悪かったから。もうこんな無茶はしない。約束する」
泣く子には勝てないということか。
滅多に己の意見を曲げないステラの弱りきった言葉に、シェリアはきらりと目を輝かせ、リースは疑う眼差しを向けた。
普段の行いがわかるというものだ。
「約束ですよ! 破ったら先生が嫌いだって言ってた成獣したカスグニーの生肉、一頭分ですからね!!」
「そ、それは勘弁してくれないか」
「約束を破らなければいいんです!」
我が弟子ながら強かなことだ。
思わず感心したラキトが拍手をしかけたのをぐっとこらえる。つーんとそっぽを向いているシェリアは聞く耳を持たないだろう。
情けない顔をしているステラは珍しくそれはリースも同感であったらしい。
「ていうか、師匠アレ嫌いなんですね」
「当たり前だ。あんなまずいもの誰が食えるか」
きりっとした表情で答えることではないのだけれど。
はぁ、と間抜けな声を出すリースにくすりと微笑んでラキトは告げた。
「ステラは一応上流階級出身ですからね。舌は肥えているんですよ」
「あー……だろうな、とは思っていました……」
なにがどうして貴族出身のステラが傭兵などしているのかわからないが、この屋敷での日々で薄々感づいていたリースが遠い目をして頷く。
「あー、疲れた。もういい、私は休むっ」
シェリアのご機嫌取りに失敗したらしいステラが不貞腐れた様子でずんずんと大またに宛がわれた室内へ引っ込むのを見送ってラキトはこっそりとシェリアに囁いた。
「加減はいりませんからね」
「もちろんです!」
そんな師弟を、これまた遠い目でリースが見つめていた。
* * *
夕食の晩餐会もすっぽかしたらしいステラは部屋で爆睡しているとのことだった。
それだけ疲れたのだろう。メッセンジャー、伝言役とはいっても実際はその身のうちに守護龍の一部を宿らせていたのだ。
どれだけ守護龍がステラを可愛がり負担にならないようにしたところで、どうやっても疲れはたまる。
リースもシェリアも寝静まった深夜に起きてきたステラにあわせてラキトは食事を取った。起きてこないなら抜いてしまおうと思っていたのだ。
まだ眠そうに瞼をこすりながら深夜に食べるにしては確りとした量を丁寧な所作で口に運んでいくステラを穏やかな眼差しで見つめる。
二人きり、使用人も外に出ていて、食事は冷めることをシェフが渋ったが、あらかじめすべてテーブルに載せてある。
気取らないことが好きなステラにはこれくらいがちょうどいい。
ラキトと二人きりという安心感があるからこそステラも大口を開けて、欠伸などかましているのだ。その信頼感がまた心地よかった。
「ステラ、眠いなら無理にとは言いませんが、よければ腹ごなしに庭園を散歩でもしませんか?」
「うん? ……うん、別に構わないが。今は何が咲いている?」
「貴方が好きな桃色のカッツペオラが満開ですよ」
「それは楽しみだ」
とたんにこにことしながら食事を食べるスピードが上がったので本当に楽しみなのだろう。
ラキトは僅かに目を伏せる。桃色のカッツペオラは小ぶりの花だ。街でも花屋で売っているようなもので、さほど手入れも難しくはない。
それをステラが特に好むのは、彼女の母親がカッツペオラを殊更に好んでいたからだ。
亡き母親の面影を追い求めている自覚はステラ自身にはないのだろうが、こうやってステラ自身が本当に好きなものがないと思う瞬間がどうしようもなく寂しい。
ステラのがらんどうの心をみせられているようで。
だからこそ、そんなステラの心の一部になりたいと願うのだ。
当然ながら、事態を全て正しく把握しているラキトの屋敷だ。
「本当に無事に帰ってきてくださってよかったですー!」
「本当に本当に心配したんですよ!!」
弟子二人に泣きつかれて困り顔のステラにこれで少しは懲りればいいんですけどねぇと、ステラが無茶をしたという報告をシェリアから聞くたびに胃痛をこらえていたラキトが見守る、なんとも平和な光景だ。
「ああ、もう。悪かった、悪かったから。もうこんな無茶はしない。約束する」
泣く子には勝てないということか。
滅多に己の意見を曲げないステラの弱りきった言葉に、シェリアはきらりと目を輝かせ、リースは疑う眼差しを向けた。
普段の行いがわかるというものだ。
「約束ですよ! 破ったら先生が嫌いだって言ってた成獣したカスグニーの生肉、一頭分ですからね!!」
「そ、それは勘弁してくれないか」
「約束を破らなければいいんです!」
我が弟子ながら強かなことだ。
思わず感心したラキトが拍手をしかけたのをぐっとこらえる。つーんとそっぽを向いているシェリアは聞く耳を持たないだろう。
情けない顔をしているステラは珍しくそれはリースも同感であったらしい。
「ていうか、師匠アレ嫌いなんですね」
「当たり前だ。あんなまずいもの誰が食えるか」
きりっとした表情で答えることではないのだけれど。
はぁ、と間抜けな声を出すリースにくすりと微笑んでラキトは告げた。
「ステラは一応上流階級出身ですからね。舌は肥えているんですよ」
「あー……だろうな、とは思っていました……」
なにがどうして貴族出身のステラが傭兵などしているのかわからないが、この屋敷での日々で薄々感づいていたリースが遠い目をして頷く。
「あー、疲れた。もういい、私は休むっ」
シェリアのご機嫌取りに失敗したらしいステラが不貞腐れた様子でずんずんと大またに宛がわれた室内へ引っ込むのを見送ってラキトはこっそりとシェリアに囁いた。
「加減はいりませんからね」
「もちろんです!」
そんな師弟を、これまた遠い目でリースが見つめていた。
* * *
夕食の晩餐会もすっぽかしたらしいステラは部屋で爆睡しているとのことだった。
それだけ疲れたのだろう。メッセンジャー、伝言役とはいっても実際はその身のうちに守護龍の一部を宿らせていたのだ。
どれだけ守護龍がステラを可愛がり負担にならないようにしたところで、どうやっても疲れはたまる。
リースもシェリアも寝静まった深夜に起きてきたステラにあわせてラキトは食事を取った。起きてこないなら抜いてしまおうと思っていたのだ。
まだ眠そうに瞼をこすりながら深夜に食べるにしては確りとした量を丁寧な所作で口に運んでいくステラを穏やかな眼差しで見つめる。
二人きり、使用人も外に出ていて、食事は冷めることをシェフが渋ったが、あらかじめすべてテーブルに載せてある。
気取らないことが好きなステラにはこれくらいがちょうどいい。
ラキトと二人きりという安心感があるからこそステラも大口を開けて、欠伸などかましているのだ。その信頼感がまた心地よかった。
「ステラ、眠いなら無理にとは言いませんが、よければ腹ごなしに庭園を散歩でもしませんか?」
「うん? ……うん、別に構わないが。今は何が咲いている?」
「貴方が好きな桃色のカッツペオラが満開ですよ」
「それは楽しみだ」
とたんにこにことしながら食事を食べるスピードが上がったので本当に楽しみなのだろう。
ラキトは僅かに目を伏せる。桃色のカッツペオラは小ぶりの花だ。街でも花屋で売っているようなもので、さほど手入れも難しくはない。
それをステラが特に好むのは、彼女の母親がカッツペオラを殊更に好んでいたからだ。
亡き母親の面影を追い求めている自覚はステラ自身にはないのだろうが、こうやってステラ自身が本当に好きなものがないと思う瞬間がどうしようもなく寂しい。
ステラのがらんどうの心をみせられているようで。
だからこそ、そんなステラの心の一部になりたいと願うのだ。
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