【完結】守護龍の寵愛、傭兵ステラの長い旅路〜次期守護龍候補の赫き竜〜

久遠れん

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36話・告白(1)

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「相変わらず、お前の屋敷の庭園は綺麗だな」

 軽装の上にケープを羽織ったステラをエスコートして、夜の庭園を回る。

 月と星明り以外にも、ここにはランプではなく魔法石が充填されたラキトの魔力を源に光源となっていた。

 仄かに明るく輝く庭園をきらきらとした瞳で見つめるステラ。

 亡き母が花が好きだったこともあり、ステラ自身も花が好きなのだ。それはカッツペラオに限った話ではない。

「向こうにはアルドリア国から輸入したアクサンドレもありますよ」

「みたいみたい」

 無邪気に子供のようにステラがはしゃぐのはラキトと「お兄様」の前だけだ。わかっているから笑みを深くして、ステラを案内する。

「大きな花だな」

「ええ、元々熱帯を中心に咲く花だそうで、魔力で補わなければすぐに枯れてしまうんですよ」

 だから一般流通はしないのだと告げるラキトの言葉にふんふんと頷いて、オレンジ色の花弁に手を伸ばす。

「つやつやしているな」

「それも特徴の一つですね。ああ、茎には棘がありますから、気をつけて」

「わかった」

 素直に頷いたステラがたがめすがめつ花を眺めるのをみつめながら、ラキトは微笑むばかりだ。

 しばらくして満足したのかくいっと袖が引かれる。それは幼い頃からのステラの癖だった。

「カッツペラオはあちらです」

 求められるままに足を進めて行けば、わぁ、と幼子のような声が上がる。

 ステラが寝ている間に念入りに魔力をこめた花々は月夜と魔力石に照らされて満開に咲き誇っていた。

「綺麗だ、すごく」

「そういっていただけると、私も嬉しいです」

 辺り一面を埋め尽くす桃色のカッツペオラの小ぶりな花弁に手を伸ばして嬉しそうにステラが笑う。

 花と戯れる姿は、傭兵などとは程遠い。深窓の令嬢のようであるのに。

 その細い体のどこにそれだけの力があるのかと疑うほどに、ステラは強いのだ。いや、強くなるしかなかった。

 父親には認知こそされたものの、最低限の教育しかほどこされず、腹違いの姉達の陰湿な嫌がらせを受けて。

 泣いていた子供は、もういない。

 ここにいるのは、守護龍を剣の師に強く立ち上がった一流の剣士だ。

 皇宮からのスカウトをラキトが笑顔で阻んだ数も数え切れない。とっくに両の手の数は超えている。

「ステラ、少しいいですか?」

「うん?」

 振り返ったステラの前に立ち、そっと首の後ろに腕を回す。

 されるがままなことに、信頼を感じて嬉しく思う。ステラは心から信じる相手以外に、こんなことを許さない。

「これを。前に渡したのは竜の子に使ってしまったそうですから」

 そういって、ステラの首に下げられたネックレスはステラの翡翠の瞳を取り出したかのような鮮やかなグリーンの色合いをしていた。

「これにも魔力が?」

「ええ。当然。今までのように使ってもらって大丈夫ですよ」

 なにかあればこれで連絡を、と。万一路銀が足りないときは売ってもいいと。そう言って、半ば無理やり持たせたのが、以前のイエロー・ダイヤだった。

 何気なくグリーン色の宝石を月にかざしたステラの目が見開かれる。

「中に、なにかはいってる……?」

「ええ、珍しいでしょう?水が中に閉じ込められているのです」

 ごく稀に。宝石の中に水を閉じ込めたものが発掘されることがある。

 馴染みの商人からその噂を仕入れ、わざわざその足で買い求めにでかけたのだ。

 月の光を受けてグリーン色の宝石の中で透明な水がきらきらと輝く。あまりに高価な一品に、顰められた眉は見ないふり。

「どうか受け取ってください。私の気持ちです」

「だが……」

 渋るステラの前に、さっと膝を折る。

 これまたステラが目を丸くしたのを気配で感じ取りながら、ラキトは膝を折って胸に手を当て、頭をたれる。

「我、ラキト・ルツ・ギルナンデスは、汝ステラ・カイリーンに婚約を求めます」


 息を呑む気配。けれど構うものか。決めていたのだ。次に彼女が屋敷に戻ってきたら、もう手放さないと。その思いは赫き竜の一件でいっそう深くなった。

 そっと手袋の嵌められていない、女性にしては硬い剣だこのある手をとる。

「答えを」

 縋るような声はだしたくなかった。

 それでもどこかそんなニュアンスを含んでしまった声音に、真摯な瞳を顔を上げてステラに向ければ、ステラは真っ赤な顔でしきりに瞬きを繰り返していた。

「ステラ」

 促すように名を呼べば、情けない声音が返ってくる。
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