【BL】今日も能天気な僕と逆行し続ける君

伊吹 ハナ

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4不適切行為は罰するべし

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「どうしたんだよ……お腹痛いのか? 熱でもあるのか?」

 そばに行って声かけるも、時成は中々顔を上げない。直前まで紙にメモをしていたのか文字が少しだけ見える。

【16時10分 バス×】

【16時20分 電車×】

【16時45分 商店街×】

 何のメモだろう。よく分からなかった。大して気にもせずに「もうHR終わったぞ~」と声をかけ肩を揺らす。暫くしてからのろのろと起き上がる時成。

 その目は、どんよりしているような。どうして、僕を見る目は揺れているのか。

「調子悪い? だったら、尚更早く帰ろうぜ?」
「……帰ろうとするのが、ダメなのか」
「なに?」
「悠生。お前は暫く……俺と一緒にいろ」

 手を掴まれて。真剣な目で言われて。よく分からなかったけど、今すぐに帰らなければならない理由もないし「わかったけど……」と時成の隣の席の椅子を引いて座る。

「この時間に、この場所にいなければいいんだ」
「時成? 何を一人でぶつぶつ言ってんの」
「ああ、こっちの話。それよりも、今のうちに今日の課題やっておかないか。最終下校の時間まで暫くあるから」
「いつにも増して勉強熱心だね? いいよ、付き合うよ」
「……さんきゅ」

 グラウンドではサッカー部の活気のある声。少し遠くにある音楽室からは吹奏楽部が演奏している。昼間から夕方に差し掛かる教室はオレンジ色に染まっていて、どこか異空間にも感じる。いつも騒がしい教室に、幼馴染と二人。……アニメやドラマだったら、何かが起こりそうな展開。ま、ありえないか。

「時成、彼女とかいないの? 女の子に呼び出されてしょっちゅう告白されてるのを見かけるけど」
「いや。付き合うとか、よく分からないし。好きでもないのに付き合うとか、相手に失礼だし。俺は今のままで充分と思っている……が、悠生はそうでもなさそうだな」
「そりゃあね。あんなにモテてるのに。そのモテ具合、半分僕にも寄越せっての。ったく、全然僕は告白の一つされやしない……」

 数学とかよく分からない。資料とノートを開いたはいいが全く解く気力も無くシャープペンシルを指で回しながら時成に尋ねてみる。僕とは違って黙々と解き始めている時成の横顔を見ながら、将来の彼女を想像する。

 時成の彼女はどんな子かな。時成が無口だから、賑やかな子が似合うかも。で、時成はクールだから可愛らしい子。守ってやりたくなるような子。彼女がピンチの時には、時成は絶対に助けに来てくれる救世主で──

 あ、そうなったら。時成の隣に僕は立たなくなるんだ。時成が将来結婚したら? 子供が増えたら? 幼馴染という枠は彼にとって優先順位は低くなり会わなくなる日があるのかもしれない。というか、むしろ自然消滅とか──

 そこまで考えて、いやいや早すぎ! まだ彼女も出来てないし! と頭をブンブン左右に激しく振る。無言で急に頭を振り出す僕に時成は少し目をやって、また課題を解いていく。

「悠生は、いないのか」
「ふぇ?」
「好きな人」
「……は⁉︎」
「何で驚くんだよ。 悠生が俺に聞いてきたことと同じ質問だろ」

 確かに、そうなんだけど。不意打ちみたいにパニックになってしまって心臓が急にドドドドッと脈立っていく。頬が熱い。なんで。なんでだ。好きな人……なんていなかったはずなのに。……この質問で急に意識し出してしまっていた。

 僕のわかりやすい奇行に時成も手を止めこちらを見る。数秒後ペンを置き「いそうだな」と前のめりになって聞いて来る。

 時成、こういう話興味ないと思っていたのに。クラスメイトが騒いでいても一人静かに勉強するか読書するかで。なのに、どうして今はこんなに食いついているの。

「そ、そんなに気になる……?」
「気になるから、質問した」

 こちらに顔を向けて来る時成の顔を、見れない。どうしちゃったんだ、僕。

「あ、あー! そういえば僕、今日家の用事あるんだった~! 早く帰らないと……」

 なんて苦し紛れにも程がある言葉を並べながら広げていた資料を片付けていれば手首を取られて「帰さない」と時成は言う。

 帰さない。
 帰さない?

「……なんで?」
「悠生にそんな用事は無いし……俺が、ただそばにいたいだけ」
「……どうしてそばにいたいの?」

 じ、と見つめられる。ドラマとか漫画で見たことあるようなフラグが立っている気がする。いやいやまさか、時成にそんなチャンスが巡っても僕には到底無いだろう。だから、違う。今胸がドキドキと煩くなる必要はない。なのに、真っ直ぐ見つめて来る時成をまたも見れなくなり目を彷徨わす。

「悠生」

 掴まれた手首を軽く引っ張られる。バランスを崩し時成の胸に飛び込んでしまえば抱き止められる。え、何これ。僕、時成の腕の中にいる。脳内は既にハテナマークでいっぱいだ。

 顎に手を添えられ、目が合って。時成の切れ長の目。綺麗──と思っていれば顔がアップになった。次には唇に何かが触れてる感覚。

 え。あれ。僕、まさかキスしてる?
 幼馴染とキスしてる?

「……のわあああああッ!」

 思い切り飛び退く。またもバランス崩して、後頭部を床に打ち付けそうになり──咄嗟に動いた時成の手によって防がれた。ありがとうって伝えるべき? でも、今すごい体制。教室の床に寝そべった僕の上に、時成がのしかかっている状態。近距離でお互い見つめ合う。

「……」
「……ゆうき」
「……っ」

 何か言わなきゃ。なんか、変な雰囲気だ。早く笑って何もなかったように振るわなきゃいけないのに、僕は固まって、何も言えなくて。時成に見つめられ、名前を呼ばれ、頬に手を添えられて……今度はしっかり、事故でもないキスを受け入れてしまった。

 好きな人、ではないはずなのに。
 どうしてこんなに胸が震えるんだろう。どうしてこんなにも、顔が熱くなっていくのだろう。時成は、どうして僕なんかと。

 唇が離れて、もう一度見つめ合う。いつもは淡々としてる彼の、熱が籠っている瞳。もしかして時成は。……何かの冗談だと思い込もうとするも、目は口ほどに物を言うという言葉があるとしたら、今まさにその状況で。手をキュッと握られる。……このまま、なし崩しに、なんて。

「時成……? 僕のこと好きな感じ?」
「……正直、分からない」
「分からないんか~い!」

 一気に肩の力が抜けた。なんだ。やっぱり僕の勘違いだ。その真剣な眼差し、ドキドキするからやめてほしい。「重たい~、早く退いて~」と胸を押し返すも、時成は未だこちらを見つめている。分からない、と言っている割には、その目はどこか熱を持っていて。

「分からない、んだけど」
「うん?」
「……大事にしたいとは、思う」

 仰向けになっている僕の胸に、時成の頭が預けられる。そして、両腕が腰に回って強く強く抱きしめられる。……好きとかそういう以前に、時成は随分傷心している感じなのだろうか。

「……どうしたの時ちゃん、幼稚園児の頃みたいに戻っちゃった感じ?」
「……」
「小さい頃は、僕よりも体小さくて泣き虫でさ? よく時ちゃんって呼んでたよね。大きくなってから時成になったけど」

 目の前の頭を撫でてみる。途端に肩が震えて、ぐずる声が聞こえてきて苦笑する。なんだ? 最近一緒に帰ることがなくて寂しかったのか? だって放課後は大体告白タイムになっていたし、邪魔しちゃ悪いなと一人で帰ってたよ。

 キスすることと、大事にしたいというものがどういうことかイマイチ分からないけれど。今はもう僕よりも大きくなってしまった幼馴染を慰めたくてひたすら頭を撫でていく。

「泣くなよ~。まだまだ甘えただな~? 時ちゃん」
「……悠生」
「うん?」
「俺には……悠生がいないと駄目なんだ。だから……」
「……だから?」
「……」
「ときなり? ときちゃん? ……寝てる」

 そっと顔を覗き込む。目の下の隈が酷い。寝不足なのだろうか。何か、辛いことがあるのだろうか。僕に、話していないこと? 必要ないわけではなさそうだ。だって今、強い力で抱きしめられている。……身動きが取れない。でも、嫌な気分ではない。

「暫く好きにさせておくか……」

 背中を撫でながら、僕もうとうとし出して目を閉じる。





 ぐぽっ、ぐぽっ、ぐぽっ。

 ……なんか、嫌な音が耳に入って来る。顎が辛い。それから、喉奥を何かで強く突かれて咳き込む。も、吐き出さない苦しみに意識が段々と覚醒し出して目を開ける。でも、何も見えない。

 目の前で誰かが屈んで腰を動かしている。僕の頭は、屈んでる人の両手で固定されて、動かさない。……その人の勃起したモノが口の中に入れて腰を振られていることに気付くまで、約10秒。

「ん、ぶぅ……っ!」

 慌てて手で相手の体を押し退けようとするも力が上手く入らない。なりふり構わず足を暴れさせようとして──下半身には時成が覆い被さって眠っているままだと思い出す。時成、時成! 起きて! 身動きが取れない! 必死に時成に起きるよう声を上げるも、口の中には汚いモノが常にぶち込まれていて言葉にならない。

 苦しみに視界が滲みながら見上げる。あまり接点の無い教師だった。見回りに来たついでに、手を出しているという感じか。なんで、教師というものが。

「校内でイチャつくなど不適切行為である! 体で罰しておかないと!」
「んぐぅっ、ご、ぼぼ……ッ!」

 この行為の方がよっぽど不適切だ。なんとか止めるよう目で訴えても教師の目は血走っていて理性がない。止まらない行為に恐ろしくなり碌に抵抗も出来ず、ただただ口を乱暴に扱われる。気の遠くなるような時間強いられた後、最奥に突っ込まれてビュルルッと精液が飛び出していく。喉奥を刺激され苦しみに咳き込むも中々解放してくれず、口の中に精液は溜まる一方で、次に思い切り咳き込んだ時に鼻から溢れ出した。

「……、カハァッ! げほ、ごほ、ゴホッ!」

 鼻が痛い。上手く呼吸が出来ない。苦しい。「時ちゃん」と必死に体を揺すっても時成は起きない。こんな状況なのにぐっすりだ。大きな体にのしかかられて、時成が足枷になっているだなんて。

 また頭を掴まれる。嫌だと首を横に振ればパン! と平手打ちされる。

「も、もうやめてくださ……っ」
「生徒指導~!」

 また、ぶち込まれる。夕方から夜になるまで。何度も口に出され、何度も顔にかけられて。教師が立ち去る時は顔面白濁塗れで、早く綺麗にしたいのに気が遠くなって意識を飛ばしてしまった。





「……ぅき、悠生!」

 肩を激しく揺すられる。顎が筋肉痛になっている痛みに顔を顰めればパリ、と何かが剥がれ落ちる。あのまま固まってしまった精液だと思い出した。

 目を開けられない。瞼の上にも精液はかかってしまったらしい。そっと生温かいタオルで拭い取られる感覚。気持ちいい。瞼の精液がなくなりやっと目を開ければ、泣きそうな顔の時成がいた。

「時ちゃん」
「悠生、俺、……どうして」
「遅いよ……」

 時成はきっと疲れていた。だから気絶するように寝落ちしてあんな行為が遭ったにも関わらずこんこんと眠り続けていた。頭ではわかっている。時成に手を出されなくて良かった。でも別の感情も湧き出て来る。どうして僕だけだったの。どうして、あんなに助け求めてたのに目を覚まさなかったの。

 時成は悪くない。でも、感情がわっと一気に溢れ出す。

「遅いよ時ちゃん! ぼ、ぼく本当に恐ろしくて……でも時ちゃんが体の上に乗っかっていたから身動き取れなくて……っ」
「……」
「た……助けて、欲しかった……っ」

 ぽろぽろ。涙が溢れ出る。負の感情しかぶつけられない自分自身に腹が立つ。でも、そうでもしないと自我が保てそうにない。同じ男に、陵辱された。体が大きくない僕を狙った行為だった。腕の力では逃げ出せないのを利用されていた。あの時、時成が途中で起きたら何かが変わっていたかもしれない。絶望というものを、ここまで感じ取らずに済んだかもしれない。

「……ごめん」
「……」
「ごめん、悠生。俺はまた……」

 また? 僕はこんなことされたの初めてなはずなのに。まるで何回も遭っているように呟く。

 頬に、またぬるま湯の温度のタオルを当てられる。白濁塗れの顔を綺麗にしてくれようとしている。……時成に見られたくなかった。時成に、させたくなかった。どうしてこんな気持ちになるのかも分からないまま。到底見せられるものではないと胸を突き飛ばす。

「もう、いい」
「悠生」
「お前なんか嫌い」

 思ってもない言葉が勝手に溢れ出す。固まった時成の隙をついて教室から飛び出す。校門を飛び出し、道路に飛び出し、目の前に現れた大型トラックを最後に目にして──



 

 目を覚ますと、帰りのHRは終わったのか教室には誰もいなかった……いや、一人だけ残っている。僕と同じように、時成も机にうつ伏せで眠っていたようだった。

「……時成?」

 いつもなら気にせず置いていくのだけれど。
 なんだか頼りない背中に、思わず声をかけてしまうのだった。
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