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第一章 引き寄せ合うチカラ
9 近づく心(2)
しおりを挟む夕食を終えて、しばし団らんの時を過ごした後、ユイはラウルの寝室に招かれる。
ついに訪れた正式なお呼ばれ第二回目。今回はもちろん寝室に監視の目はない。気が気ではないダンも、無闇にボスのプライベートを覗き見る事はできない。
今頃はやや離れた自室で、ムダに神経をすり減らしている事だろう。
「フォルディス様の用意してくださるワインはどれも美味しくって、つい飲み過ぎちゃ~う」
「味覚の好みが合って嬉しいよ」
今日も好物のワインを手に二人とも上機嫌だ。
「おまえは国に、恋人などはいないのか?」
「え?恋人ですか?いませんよ~、そんな人」
――いたらこんな事してる訳ないでしょうがっ!ちょいちょい変な事聞くよね、フォルディス様って――
「そうか」
「そんな事聞いて、もしいたらどうしたんですか?」
「殺しに行く。そしておまえを奪う」真顔でラウルが答える。
「またまたそんな過激発言~!」
ユイの冷やかしをサラリと受け流してラウルが言い添えた。「ただし、ユイの気持ちが私にあると確信できたらの話だ」
「私の気持ちがフォルディス様に…そうじゃなければ?」
「そうでなければ、…」ラウルが黙り込んだ。
じっとユイを見つめていたが、やがてはっきりと断言する。
「いや。それはあり得ない」
「なぜですか?」
「おまえがここに留まっている時点で、心は私に向いているという事だから」
「でもそれはそういう依頼だから…」
「断る事はできるのだ。そうしないのは、おまえが私に興味があるから。違うか?」
「その通りですけど…」
「私は二重契約は好まない」
「つまり二股はナシって事ですね」
「その通り」ラウルは軽く肩を竦めて答えた。
「なら、フォルディス様だってダメですよ?他にいい人がいたりしたら、私…っ」
やはりユイの中ではブロンド美女の影が消えない。存在すらしないそんな女に、ユイは未だに嫉妬する。
「そんなものはいない。おまえは、何かに怯えているように見える。私の能力すらも恐れないおまえが。…一体、何を恐れている?」
「恐れ、かぁ。恐れ多いと思ってますよ、実際」
こんなコメントにラウルが首をひねる。「意味がよく分からないのだが…」
グラスをテーブルに置いて、ユイは大きく息を吸い込んだ。
「私なんて、まだまだ小娘で世間知らずですし!フォルディス様みたいな完璧で素敵な大人の男性に、どうして気に入られたのかなぁ、とか?不安なワケです」
「それは恐れる事なのか?」
「う~ん、きっと日本独特の考え方かもしれませんね。自分では釣り合わない、自分にはもったいない、とか」
再びラウルが首を傾げる。やはりそんな心境は理解できない。文化の違いだけではなく、そもそも住む世界が違うせいだ。
「ねえフォルディス様、本当のところを教えてください。私に興味を持ったのは、ただの気まぐれでしょう?日本人が新鮮だったとか!夜のお相手だって…その、」
遊びなどと考えたくはない。だがどう考えても自分が選ばれるはずがないとユイは思ってしまう。
言っていて虚しくなる。言葉は途切れた。
「なぜそんなに自分を卑下する?おまえはとても魅力的だ。多少幼いところもあるが、これからいくらでも成長できる」
――…それってもしかして、その成長を待つって意味で契約期間を定めずにいる?私が望み通りに成長したら合格とか?――
こう考えればしっくりくる。だがラウルの胸の内を暴いたところでどうなるものでもない。自分は契約の段階で選択肢を与えられた。無理やりにさせられている訳ではないのだ。
――選ぶ権利はどちらにもある、って事よね――
ユイがこう結論に至った時、ラウルが言った。
「無理強いはしない。雇用する側とされる側というのは形式上の話。私達は対等だ。私を受け入れられなくなった時は、遠慮せずに言ってくれ」
「フォルディス様こそ…」
「もちろん。始めからそういう契約だろう?」
「あははっ、そうでした」
――ま、いいや。飽きられるまではここで楽しもうっと!――
そうは言え、飽きられるのだけは絶対に避けたい負けず嫌いのユイ。
「この依頼、私にとっては最高なんですよね~。お気に召されるよう頑張っちゃいますよ?私!」
「ああ。望むところだ。それで、どの辺りが最高なのだ?差し支えなければ教えてくれ」
「だってそうでしょ。まずはコルト。堂々と持ってられるし使えるし?返していただいて本当に感謝してます。周りはマフィアだらけで人殺してもお咎めないし…って、ゴメンなさい」調子に乗ったユイは謝って俯く。
「構わない。その通りだ。実際私も何度も殺している。だが、おまえはマフィアの片棒は担ぎたくないと言ったのではなかったか」
マフィアの殺人とは訳が違う、そう言いかけて寸前で留まる。
「…そりゃ、好んで犯罪を犯したくはないので?」
「…」
――人を殺している時点で、すでに犯罪を犯しているだろうが?――
ラウルには意味が分からない。
二人の決定的な違いは正義感の有無だ。ユイはそれの元で動いているが、ラウルにはない。そもそもマフィアに正義感を求めてはいけない。
それ以前にこの二人の考え方には大きな違いが存在する。これを乗り越えなければ、二人が結ばれる事はないだろう。
「それに、居心地がいいんです、ここ。ウチの実家もヤクザだったし。似た者同士っていうのかしら?何だか懐かしくて…実家は大嫌いだったのに!不思議です」
「嫌いだったのか?」
「はい。特に父親が」
反発心から正義を貫いているユイなのだ。
「私は父を尊敬していた。亡くなった今でも憧れの存在だ」ラウルが表情を少し緩めた。
「ステキです。そんなふうに思えたらって何度思ったか…。本来親って尊敬の対象であるべきですものね」
「きっとおまえの父親も、おまえを愛していたよ」
「そうでしょうか?散々酷い目に遭わされましたけどね~!」
「どうであれ、私はおまえの両親に感謝している。ユイ・アサギリが生まれたのは彼等のお陰なのだから」
「フォルディス様…。そんなふうに言っていただけて、嬉しいですっ」
ラウルは優しく微笑んでユイをベッドに引き入れた。
「あっ、フォルディス様?ごめんなさい、今夜は…」
「…ああ、あの日か。分かっている」
ラウルの返答に安堵するも、ユイは首を傾げる。
――分かってる?何で今日生理が来た事知ってるの?――
再契約後最初の夜だというのに、このような状況になってしまったユイ。部屋に呼ばれた時点で打ち明ける事もできたが、必ずしもベッドインがセットではないだろうと考え、あえて告げずにいたのだが…。
この男に限っては漏れなくフルセットである。
ユイはまだまだラウルのみなぎる性欲の全貌を理解してはいない。
「どうした?ユイ」
ベッドで体を横向きにしたラウルは、なかなか横になろうとしないユイを見つめ、愛おし気に微笑んでいる。
「その…何で生理が来たって分かったのかな~って…」
「女性がこのタイミングでその発言をすれば、大抵そういう事だろう」
「ああ!ですね!」
――はぁ…だからやっぱ経験豊富なんだよ、この人は!ムダに落ち込むわ…――
「ユイ?やはり生理痛がきついか。ワインはやめておけば良かったか」
「いいえ!そうじゃないの。大丈夫です、ホント」
「今夜は労わってしてやろう」
「って、しないですよ?今夜は!」
――分かってるって言ったのは何だったの?!――
「なぜ?生理痛はきつくないのだろう?」
――なぜ、って…。そう来る?全くこの人は…どんだけセックス好き?――
ユイがこう呆れる中、ラウルは続ける。
「女性は生理中に性欲が増すと聞いた。私はいつでも応えてやれる」
「えっとだから、私は増してないですからっ!取りあえずせめて3、4日お待ちください!」
ユイの言い分にしばしポカンとするラウル。
――つまりユイは今夜どころか期間中はしたくないという事か…――
その悲し気な表情に、ユイは自分が酷い仕打ちをしているような気分になる。
「あのでも…そう、なった時はお願いしますね」
慌ててこう付け加えた訳だが、心の中では99パーセントなりませんけど!とさらに加えていた。
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