イケメンマフィアの仰せのままに~断れるはずありません!

氷室ユリ

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第一章 引き寄せ合うチカラ

9 近づく心(1)

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「あ~、やっぱり暇!」

 新たな契約の元で始まった生活だが、こんな状況は何も変わらず。今日もユイはテラスでぼんやり時を過ごす。
 だが以前と違うのはラウルの態度だ。食事は必ず共に摂るし、時間がある時はちょくちょく声を掛けに来る。共に外出もする。ラウルとの距離は確実に縮んでいる。

 夜に関しては生憎マフィア業が立て込んでいる関係で、まだ寝室へのお呼ばれはない。
「残念なような嬉しいような…。そっちの方はあんまり得意じゃないからさぁ。だってラウルったらスゴイんだもん。イヤん!」
 初心なユイは思い出しただけで身を震わせる。
 まだ未経験の恍惚の世界が広がっている事に、期待だけでなく恐怖も感じてしまう。

 勝気な性格のユイは、可能な限り主導権を握りたいと思っている。
 だが夜の情事の事となると全くのお手上げ状態。しかも相手は12も年上のマフィアだ。言われるがまま、されるがままのまな板に置かれた鯉状態である。
 殺し合いは怖くないのに、セックスを恐れる朝霧ユイ23歳。

「ああーもう、やめやめ!だから子供って言われるのよ。それに、相手がフォルディス様なら文句ないじゃない、そうよそうよ!」
 自分で自分を鼓舞して両頬を叩く。

 ちょうどその時、庭の方から声がかかる。親しくなった部下の一人だ。
「ユイ様ぁ!今日も来ていただけますよねっ?」
「もちろん行く行く!いつもの時間でいいのよね?」
「はい!お待ちしてますよ!」
 ユイは笑顔で手を振った。

 部下達の休憩時間に顔を出していたユイだが、今では射撃の練習や鍛錬の場にも顔を出すようになった。ラウルが襲われた時の軟弱な護衛達の姿を目にして以来、気が気ではなかったのだ。
 こんな日常は学生時代を思い出す。それは師匠キハラにしごかれていた日々だ。
「やっぱ私には、こういう場所が合ってるのかな?」

 素性がバレても、部下達は変わらずユイと接している。殺し屋ユイ・アサギリを知る者はいなかったようで、恐れる様子もない。それがユイには有り難かった。


 こんなユイの自由な振る舞いにどうしても納得が行かないダンは、今日もラウルに訴える。
「ラウル様!本当にあのような事をお許しになって良いのですか?」
「あのようなとは、どれの事だ」
「ですからっ!拳銃所持の件です!挙句に部下達に射撃の指導までしているのですぞ?」
 契約が結ばれてからすぐに、ユイのコルトは返却された。それがダンは気に食わないのだ。

「あの者達の腕が上がるのは結構な事ではないか。大いにやってくれ」
――私もいずれ参加しようと思っているのだ――
 密かにそれを目論むラウル。自分も仲間に入りたいと真剣に考えている。
 さすがのダンもそこまでは読めていない。
――絶対に危険だ。何を考えているのか分かったものじゃない!こうなったらさらに監視を万全にせねば…――

「ダン。何が気に入らない?部下達にユイが受け入れられているのは良い事ではないか。そういう娘は今までいなかった」
「確かにそうですが…しかしあの女はっ!」
「魅力的だ。あらゆる点で興味をかき立てられる」すでにラウルの目はダンを見ていない。
「ラウル様ぁ…」
「そんなに心配ならば、今から偵察に行こうではないか」
「ラウル様自らですか!?」
「たまには顔を出すものいいだろう」

――そんな、あえて敵が拳銃を構えている所に出向かなくても!危険すぎます!――

 慌てふためくダンを引き連れて、地下の射撃スペースに向かう。

 そこではちょうど、ユイが手本としてコルトを構えているところだった。
 緊迫した空気が流れる中、足音でラウル達が来た事は皆が察したが、誰一人振り返らない。ユイが放つ張り詰めた緊張感がそれを許さないのだ。

 気づいたユイは内心ガッツポーズする。
――あら?グッドタイミングで来てくれたじゃない?――
 そして一息にトリガーを引いた。

 透かさず両耳を塞ぐラウルとダン。他の者はイヤーパッドを装着済みだ。
「見事だ、ユイ」
「フォルディス様!ありがとうございます」
「ボス!どうぞ!」
「ああ」
 部下の一人がラウルにイヤーパッドと拳銃を差し出した。

 おもむろにそれを装着し、ユイの立っていた位置まで進む。
 ボスの突然の登場に、先程にも増して一同に緊張が走る。

 右手に握られたオートマチック拳銃から、三発の弾が立て続けに発射された。その全てが全く同じポイントを貫通した。
 それはあの日、ユイが敵方の邸宅でやってのけた技だ。

「お見事です、フォルディス様」
――凄い、弾道が全くブレてない。これは想像以上かも…。きゃ~ステキっ、フォルディス様~!――
 ユイの歓声に続いて、部下達の拍手喝采が巻き起こった。

 ラウルはユイを振り返る。「この程度なら、おまえもできただろう」
「いえいえっ、私のはリボルバーなので、スピードがどうしても劣りますし…」
「ならばこれでやってみろ」ラウルが持っていた拳銃を差し出す。
「え?いやでもっ」

――できるけど…。この状況で?フォルディス様を立てるならわざと外す?いやいや、見破られるでしょ!――
 悩むユイ。部下達を前にボスを侮辱するような行為は避けたい。

 部下達の羨望の眼差しがユイに注がれている。対してダンは警戒を怠らない。
――何を悩んでいる、ユイ・アサギリ?もしやそれをラウル様に向ける気では…!――
 勝手にそんな妄想をしてダンの手が懐に伸びる。

「ちょっとフォルディス様?鍛錬するのは私じゃなくて、彼らですよ!ほらほら、あなたやってみてよ!」
「えっ、オレっすか…?」
 一番近くにいた部下を引き込み、ユイは後退る。
「じゃ、私はそろそろお暇しま~す。頑張ってね、み・ん・なっ!」
 そのままユイはその場から逃げた。

 呆然とその後ろ姿を目で追うラウル。「…」
 沈黙を続けるラウルに、慌ててダンが促す。「っ、おいお前等!しっかり鍛錬しろよ?さあラウル様、我々もそろそろ参りましょう」
「…そうだな。仕事が途中だったのだ」

 どこか納得しきれない様子で、ラウルはその場を後にした。

 そしてボスの去った地下は、異様な盛り上がりを見せる。
「いやぁ~!ボスの射撃、久々に見たけどシビレたなぁ!」
「やっぱカッコいいよ!完璧ど真ん中3連発。最高だぜ、我らがボスは!」
「俺達も目指すぞ!おー!」

 晴れて男達のやる気は120パーセントアップしたのだった。


 ユイはそのまま庭に出て来た。

「あ~ビックリした。やれる訳ないじゃない?あのフォルディス様に張り合うみたいな事なんて!」
 あれはエスパーの力なのだろうか、ユイはふと考える。
 そうであっても実力には違いない。

「ユイ」
 突如後ろから声を掛けられて、ユイは驚く。
「フォルディス様?!お仕事に戻られたんじゃ…」
「おまえの姿が見えたので、ダンを振り切って出て来てしまった」
「ふふっ。あんまりダンさんを困らせないであげてくださいね?」
「意外な事を言う」
「そうですか?」

「あれは未だにおまえを疑っている。さっきも銃に手が伸びていた」
「知ってましたよ」少し笑ってユイが答える。
 そしてラウルから目を離して晴れた空を見上げる。

「いいんです、それで。そう簡単に受け入れてもらえるとは、思ってませんから」
「…」
「でも、いつかきっと分かってくれると思うんです。だって私、ダンさんの気持ち良く分かるから。それに、あんなに一途に仕えられるって凄い。そんなに慕える人に出会えたなんて、羨ましいなぁ…」

「ユイ…」
――私はダンではなく、おまえに慕ってほしい――
 ラウルが心からそう望んでいる事に、ユイはまだ気づいていない。

「フォルディス様は、本当に皆に慕われてて尊敬します。こういう感じって憧れちゃうなぁ~」
「こういう感じ、とは?」
「ほら、私って、いつも一人ぼっちだから。できるのは偽りの仲間だけ。期間限定の、仕事が終わればいなくなる類の?その付き合いが続く事はありませんので」
 ユイに浮かんだ今度の笑みは、どこか自嘲気味だ。

 そんな悲し気なユイにラウルは言う。
「おまえはまだ若い。これから本当の仲間を作ればいいではないか」
「…そうですよね」

――それを、ここで作ってもいいの?…フォルディス様――
 ユイはこんな願いを込めてラウルを見上げた。その想いもまだ、ラウルには届いていない。

「あっ、フォルディス様、さすがにそろそろお仕事に戻らないと」
「ああそうだな。では夕食の時に続きを話そう」
「今夜は一緒にお食事できそうなんですね」
「ああ。ようやく今の仕事が落ち着くのでね」
「良かった!嬉しいですっ」
 
 ユイが笑顔でラウルを見送った。

 こんな様子を窓から抜かりなく観察していたダン。もちろん会話も聞こえている。
「ユイ・アサギリが俺の事をそんなふうに…。いやいや、騙されてはダメだぞ、ダン!きっと演技だ、そうに違いない、善人ぶって言ってるだけだ」一人ブツブツと口にして葛藤する。

 真っ直ぐすぎるこんな男がユイを受け入れる日は、本人が思うよりも案外近いかもしれない。

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