時世時節~ときよじせつ~

氷室ユリ

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30 真夜中の海水浴 ※

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 ペテルブルグから南下して、避暑地ソチに旅行に来ている。目前に広がるロシアらしくないビーチを前に、ユイと語る。

「海、入らなくていいのか?今日は曇ってるから、日焼けもそれほど心配ないぞ」
「いいの!水着姿、自信ないし」
 自分の胸元を気にしている様子。彼女のバストはそれ程大きくない。むしろ小さい。
 俺は全然気にしないが、女性にはさぞや悩みの種なのだろう。

「新堂先生は?」
「俺の海パン姿が見たいって?」
 サングラスを押し上げて魅惑の瞳を向けると、ユイが急に慌て出した。
「そ、それはどうかなぁ~!」
「その前に、ユイは泳ぎが得意じゃないんだったな」
「そっ!それ、……何で知ってんの?」
「俺は何でも知ってるんだ」そんな話を学校でしていただろ?と目で訴えてみる。
 
「フンだ。飛び込みは得意ですけどね!」
「おおそうか。飛び込んだ後はどうなるんだ?泳げないヤツが」
「失礼ね。泳げないって決め付けないでくれる?これでも体は浮くんだから!ただ前に進まないだけで」
 ここは透かさず返そう。「それは泳いでるうちに入らない」
「何よ。溺れてる事にもならないでしょ!あ~あ。何でもできる先生は、どうせ得意分野だって言うんでしょうけど?」
「まあね」お察しの通り、その手の事は何でもお手のものだ。

「泳ぐなら夜だな。プライベートビーチで。それで手を打たないか?我がフィアンセ」
「もちろんよ」俺に体を預け、ユイが上目遣いで答えた。


 真夜中の海水浴は、俺にとっても幻想的だ。そう思える理由はもちろんユイにある。
 コテージからやや離れた場所から、海水に浸かりながらユイが姿を現わすのを待ちわびる。

「ユイ?まだか。自分で言ったんだからな!」
 水着に自信がないなら着るなと提案してみた。実際に彼女がその姿を晒すとは思っていないが。さあ、どうする?
 やがて、ユイがようやく姿を見せた。驚いた事に、一糸纏わぬ姿だ。

「曇りのお天気に感謝しないとね!真っ暗だからこんなカッコできるのよ?恥かしいから、あんまり見ないで!」
「初めてじゃないんだ。そんなに恥かしがるなよ。それにこんなに美しいものを、見ないでいるのは拷問だよ」
 そう、朝霧ユイの裸体を見るのは初めてではない。だが、今のような気持ちになるのは初めてだ。何て神々しい、俺の小さな天使よ!

「美しい?私が?またお世辞じゃないウソ言ってるよ、先生ったら!キハラは一度だって言ってくれた事ないよ、って……あの人が言うワケないけど!」
「ブツブツ言ってないで、もっと近くにおいで。気をつけろ、見えるか?」
 海水に腰まで浸かったまま、ユイに手を差し伸べる。俺の微弱に発光した肌を目標にして、暗闇を進むユイ。
「新堂先生、体に蛍光塗料でも塗ってるみたい!今そっち行くね」

 すぐ側まで来たユイの手を掴んで、優しく引く。
「そんなもの塗る訳ないだろ。これを見たら、いい加減怖くなったんじゃないか?」
 この質問には、すぐさま首を横に振られてしまった。

「あったかい!」
 海水は思ったよりも温かかったようだ。
「きゃっ!」
 悲鳴を上げた彼女に驚いて、握った手に力を入れる。
 どうやら砂に埋もれていた石につまづいたらしい。海面に頭からダイブしそうになる。
「おっと……!大丈夫か?」
「あっ、ありがと」

「そんなに焦るなよ!」
「焦ってないもん。こっちは見えないんだからね?仕方ないでしょ!」
 ムキになって反論するユイが、堪らなく可愛らしい。

「その余裕綽々よゆうしゃくしゃくって顔からすると、新堂先生?今日こそは、観念したのかしら」
 ユイがそっと俺の胸に手を当てる。そこから温かなぬくもりが伝わった。
 そんな彼女の手を取って囁く。「ここなら、凍えなくて済むだろ?」
「うん!嬉しい。先生、大好き!」
 何の躊躇ためらいもなく抱きついてくる。もうすでに肌を晒している羞恥心は消え去ったらしい。

 こんな闇夜の中でも、俺にはユイの姿が良く見える。ぬるい海水に浸かった彼女の肌が、徐々に火照り出してピンク色に染まって行く様子も。
 自然な流れで俺達の唇が合わさった。

「もし、俺が理性を失ったら……とにかく離れろ。いいな?」
 海中で抱き合いながら、ユイの耳元で言った自分の声は、やや緊張している。
「離れるのは、……無理かも」戸惑いがちに彼女が答える。
 ヴァンパイアの強大なパワーに抗うのは……確かに無理か。
「なら、声に出して言ってくれ。おまえの声を聞き漏らす事はない。何があっても」
「それならできそうよ」間近の俺を振り返って、ユイが笑顔で頷く。

 それを見届けた後、彼女の体を抱き上げて海面に浮かせる。ユイの胸の膨らみに俺の冷たい手が触れると、彼女は小さく声を漏らした。
「先生の手、何てすべすべなの……!絹のグローブでも付けてる?ああっ……そうやって触れられてるだけで、もうダメ、かも……」
「それは困るな!まだまだ、これからだよ」

 どこまでも優しく、繊細な愛撫を続ける。小振りだが張りのあるやや筋肉質の胸。その先端を親指で弄ぶと、ユイの体がビクリと反応した。

「感度良好だな!」
「……イジワル、先生」

 その胸の頂に、今度は口づけを落としてみる。小さく声を漏らしたユイだが、体はすっかり硬直している様子。
「そんなに緊張するな。もっとリラックスして、俺に身を委ねていればいい」

 顔を近づけてそう囁くと、ユイは恥じらいの笑みを浮かべながら頷き、俺に抱き付いてきた。海水に浸かっているにも関わらず、彼女の体は燃えるように火照っている。
 胸への繊細な愛撫を再開すると、ユイの声は喘ぎに変わり悶え始めた。

「その調子だ、ほら……もっと可愛い声を聞かせてくれ」

 俺の指は、胸から腰のくびれを辿り下へと降りて行く。
 そして今一番熱を持っているであろう部分に迫る。迷いなくその奥へと繋がる場所を探り当て、温かく柔らかな小道を進んで行く。
 歓喜の渦に飲み込まれた様子で、ユイはひたすら俺の名を呼び続けた。

「ああっ、新堂、先生っ……!そんな事、したら、ダメ……」
「まだまだ序の口だ」

 中を散策し終えて引き抜いた俺の指に、海水にも流せない程の粘着性を持つ、甘く芳しい蜜が絡みついている。
 血液と同様、生きる証ともいえる神聖な蜜。その香りをしばし堪能してから、潤いに満ちたその場所に、今度は指の本数を増やして再び迫る。

「あっ!い、痛い!……っ」
 ユイの声を受けて動きを止める。
「これで痛かったら、俺のは無理だぞ?」
「……!い、痛くない、大丈夫!」

 見え見えの嘘をついて強がるユイは想定内。とはいえ、彼女を傷つける訳には行かない。念入りに入り口を広げて行く事としよう。
 気が紛れるようキスを繰り返してやりながら、慎重に慣らして行く。

「先生、もう平気、……先生が早く欲しい」
 潤んだ瞳でこんな事を言われて、断れる男がいたら会ってみたい。
「よし。じゃ、行くよ」 
「……ああ先生、愛してる!……っ、痛ぁ~いっ!!」
 愛の言葉を囁いたのも束の間、ほんの少し入ったところで悲鳴が上がった。

「やはり、きついか……」
 彼女の中はとても狭く、このまま進めば傷つけてしまう怖れがある。
「どうする?やめるか?」
 今ならまだ引き返せる。そう思って聞いてみるも、あっさり返された。
「やめない!先生、して、最後まで……!」

 火照った頬のユイに、さらに潤んだ瞳で見上げて懇願される。……小悪魔だ。
 そんなユイの姿に歯止めが利かなくなる。どうやら限界だ。……どうか、傷だけはつけないようにしなくては。
「分かったよ。ならば覚悟しろ?」

 再度挿入を試みる。痛みを感じたのか、ユイの表情が苦痛に変わった。一瞬緊張が走ったが、しばらくして声色が変化した。
「ああ!……んん、先生……っ」
「ユイ、大丈夫か?痛くないか」
「痛かったけど、今は平気。もっともっと!先生、愛してるわ……」
「俺も、愛してるよ、ユイ」優しく口づけて告げる。

 クライマックスを迎えた時には、恍惚のあまりユイは意識を失っていた。
 俺はというと、幸い正気を保ったまま終える事ができた。何度も快楽に溺れそうになったが、耐え抜いた。
 そんな事ができたのは、何があっても彼女を傷つけたくないという、強い思いがあるからだ。自分自身よりも大切なものが。

 愛とは、そういうものだったのだ。

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