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シリーズ盤外戦術
盤外戦術その1 初部活
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放課後。放課後が来てしまいましたよ。放課後。
いやいつも通り部室にいって将棋を指すだけなんだけど。でも。これが矢倉さんと付き合いだしてから、始めての部活。あああ。どういう顔をして矢倉さんと合えばいいのかわからない。
恋人同士になったからには、こう将棋の指し方も変えるべきなのか。
いや、でもそれはそれでおかしいような。
いろいろと迷いながら部室の中に入ると、すでに矢倉さんは中に入っていた。
「あ、矢倉さん、こ、こんにちは」
「み、美濃くん。こんにちは」
何だかすごく照れくさくなって、入り口で挨拶したまま何となくそのまま立ち止まってしまう。
矢倉さんは僕の彼女になったんだよな。間違いじゃないよな。
「え、えーっと」
「美濃くん、何してるの。ボク、入れないんだけど」
振り返ると背中側にいちご先輩が立っていた。
「あ、はい。すみません」
謝って中に入って、矢倉さんの前に座る。
「矢倉さん、えっと、その、指しましょうか」
「は、はい。対局しましょう」
どことなくぎこちない空気が流れる。
その瞬間、いちご先輩がその空気にすぐに気がついて、にやにやとした顔を僕達に向けてくる。
「君たち、昨日あのあと何かあったね」
「え、いや。その」
「ほら。何があったのか、ボクにも教えてよ。まぁだいたい想像はつくけどねー」
いちご先輩のにやけ顔がとまらない。くそう。何か全て見透かされているようだ。
「んで、どっちから言ったの?」
「ぼ、僕です。いちおう」
仕方なしに答える。たぶん言うまでからかわれるのは間違いないだろう。
「ほほー。それで結果は、まぁ、いうまでもないかな?」
「う。その。はい。二人は付き合うという事になりました」
「おー。いいねぇ。おめでとう」
いちご先輩の声が響く。
「あ、ありがとうございます」
顔をうつむけながら答える。たぶん顔が真っ赤に染まっているだろう。
矢倉さんも同じように下を向いて赤くしている。
「んじゃ、ボクからのお祝いってことで。これあげるよ」
取り出してきたのは紙袋だった。
「これは……?」
「たいやき。さっき学校そばのたいやき屋さんまでいって買ってきたんだ。ほんとは昨日の勝利のお祝いって思っていたんだけどね」
たいやきを手渡される。まだ焼きたてのようでほかほかとしていた。
「わぁ。ありがとうございます。いただきます!」
矢倉さんが嬉しそうに受け取っていた。
「矢倉ちゃん、確かたいやき好きって言ってたよね」
「はい! 大好きです!!」
さっきまでの空気はよそに急激に矢倉さんのテンション高くなっていた。
そうか。矢倉さんはたいやきが好きなのか。覚えておこう。
「おいしい!」
矢倉さんは幸せそうにたいやきを食べる。
楽しそうな矢倉さん。
こうして一緒にいるだけで幸せだなと思う。
こんな時間がずっと続いていけばいいな。僕はふと思う。
「じゃあ食べ終わったら、一局お願いします」
「はい。美濃くんもだいぶん強くなってきましたから、うかうかとはしていられませんね」
矢倉さんはにこやかに告げる。
そう言う矢倉さんの口元にちょっとあんこがついていて、いつもの矢倉さんと違う一面が見られたなぁと思う。
対局は結局ほとんど手も足も出ずに矢倉さんにやられてしまった。
でも少しずつ矢倉さんの手も見えてきている。
将棋で矢倉さんに勝てる日がくるかはわからないけれど、毎日こうして指していきたいと思う。
いやいつも通り部室にいって将棋を指すだけなんだけど。でも。これが矢倉さんと付き合いだしてから、始めての部活。あああ。どういう顔をして矢倉さんと合えばいいのかわからない。
恋人同士になったからには、こう将棋の指し方も変えるべきなのか。
いや、でもそれはそれでおかしいような。
いろいろと迷いながら部室の中に入ると、すでに矢倉さんは中に入っていた。
「あ、矢倉さん、こ、こんにちは」
「み、美濃くん。こんにちは」
何だかすごく照れくさくなって、入り口で挨拶したまま何となくそのまま立ち止まってしまう。
矢倉さんは僕の彼女になったんだよな。間違いじゃないよな。
「え、えーっと」
「美濃くん、何してるの。ボク、入れないんだけど」
振り返ると背中側にいちご先輩が立っていた。
「あ、はい。すみません」
謝って中に入って、矢倉さんの前に座る。
「矢倉さん、えっと、その、指しましょうか」
「は、はい。対局しましょう」
どことなくぎこちない空気が流れる。
その瞬間、いちご先輩がその空気にすぐに気がついて、にやにやとした顔を僕達に向けてくる。
「君たち、昨日あのあと何かあったね」
「え、いや。その」
「ほら。何があったのか、ボクにも教えてよ。まぁだいたい想像はつくけどねー」
いちご先輩のにやけ顔がとまらない。くそう。何か全て見透かされているようだ。
「んで、どっちから言ったの?」
「ぼ、僕です。いちおう」
仕方なしに答える。たぶん言うまでからかわれるのは間違いないだろう。
「ほほー。それで結果は、まぁ、いうまでもないかな?」
「う。その。はい。二人は付き合うという事になりました」
「おー。いいねぇ。おめでとう」
いちご先輩の声が響く。
「あ、ありがとうございます」
顔をうつむけながら答える。たぶん顔が真っ赤に染まっているだろう。
矢倉さんも同じように下を向いて赤くしている。
「んじゃ、ボクからのお祝いってことで。これあげるよ」
取り出してきたのは紙袋だった。
「これは……?」
「たいやき。さっき学校そばのたいやき屋さんまでいって買ってきたんだ。ほんとは昨日の勝利のお祝いって思っていたんだけどね」
たいやきを手渡される。まだ焼きたてのようでほかほかとしていた。
「わぁ。ありがとうございます。いただきます!」
矢倉さんが嬉しそうに受け取っていた。
「矢倉ちゃん、確かたいやき好きって言ってたよね」
「はい! 大好きです!!」
さっきまでの空気はよそに急激に矢倉さんのテンション高くなっていた。
そうか。矢倉さんはたいやきが好きなのか。覚えておこう。
「おいしい!」
矢倉さんは幸せそうにたいやきを食べる。
楽しそうな矢倉さん。
こうして一緒にいるだけで幸せだなと思う。
こんな時間がずっと続いていけばいいな。僕はふと思う。
「じゃあ食べ終わったら、一局お願いします」
「はい。美濃くんもだいぶん強くなってきましたから、うかうかとはしていられませんね」
矢倉さんはにこやかに告げる。
そう言う矢倉さんの口元にちょっとあんこがついていて、いつもの矢倉さんと違う一面が見られたなぁと思う。
対局は結局ほとんど手も足も出ずに矢倉さんにやられてしまった。
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将棋で矢倉さんに勝てる日がくるかはわからないけれど、毎日こうして指していきたいと思う。
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