矢倉さんは守りが固い

香澄 翔

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シリーズ盤外戦術

盤外戦術その9 注目された矢倉さん

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 矢倉やぐらさんがいない毎日。部活はほとんど僕一人だ。
 先輩方もときどきは顔を出してくれるものの、いつもいる訳ではない。ちょっと寂しい。

 今は棋譜きふ並べをしたり、本を読んだり、スマホでウォーズをしたりしている。
 でもさすがにそろそろ飽きた。そもそも一人でずっと将棋をしていられるほど、僕にはこらえ性がない。

「あー、誰か相手してくんないかなぁ。暇だ」

 将棋の駒を盤上にバラまいて、それから背中を大きくのばす。
 その瞬間、椅子のバランスを崩して背中側に倒れそうになる。

「うぉ!? わ……!?」

 慌てて机をつかんで、なんとかバランスをとる。
 しかし同時に机も揺れて、駒がいくつか床に落ちてしまう。

「ああ。やっちった」

 仕方なく机の下にもぐりこんで、しゃがんで落ちた駒を拾う。
 拾おうとしたその瞬間、机の前に影が差した。
 あれ、と思って顔をあげると、二本の素足が見える。

「おやー、美濃みのっち。どこ覗いているのかなー」

 かけられた声に慌てて立ち上がろうとすると、頭上の机で思い切り頭を打つ。鈍い音が響いた。

「い、いたっ」
「先輩のスカートの中を覗こうとかするから、天罰が当たったのぜよ」
「してませんっ。駒を拾ってただけです! むしろ先輩の方からやってきたんじゃないですかっ」

 頭をさすりながら近づくと、木村きむら先輩が立っていた。
 ちなみにスカートの中身は見えてないし、見てません。

「はっはっはっ。見たいの? 見たかったのかい? いやぁ、残念ながら、下にはオーバーパンツつけているから色気はないぞよ」

「見たくありませんっ。セクハラやめてください!」

 これはセクハラだと思う。木村先輩はいい加減にしてほしい。

「およよ。そんなこと言わないでおくれ。私と美濃っちの仲じゃないか」
「どんな仲ですかっ。先輩後輩の節度を守ってくださいよ!」

「いやよいやよも好きなうち、と」
「言ってません!」

「まぁ、美濃っちをからかうのはこれくらいにして」
「やっぱりからかっていたんですか」

 ジト目でみつめてみるけれど、木村先輩には全く効いていないようだ。

「これ。これを見せに来たんだ」

 そういって差し出してきたのは木村先輩のスマホで、どうやらネットのブログのようだった。

『将棋どーでもいいにゅーす』

 どうやらこれがブログのタイトルらしい。主に将棋関連のゴシップ記事を扱っているようだが、かなりいろんなことをニュースとして取り扱っているみたいだった。

「これがどうしたのですか?」
「ここ。この記事みてみて」

 木村先輩が指し示した記事は『研究会に超美人な有望新人登場!? ほぼ負け無しで女流棋士に王手をかける』と書かれていた。

「これって」

 間違いなく矢倉さんのことだろう。僕は慌てて記事をクリックする。
 すると顔は写されていないものの、矢倉さんらしい写真と共に研究会に突如現れた彗星だのなんだの描かれていた。

『彼女はついこの間に研究会に登録したかと思うと、あっという間に女流棋士の資格に王手をかけた。だがそれだけではない。彼女の美貌は、見る人の目を引く。女流棋士会に新たなる風が吹くことは間違いなし』

 簡単にまとめるとそんなようなことと共に、いかに矢倉さんが可愛いかを書き連ねていた。そして彼氏はいるのかだの何だの、まるで芸能人のゴシップ記事のようだ。

 いや、矢倉さんは確かに可愛いけど。こんな風に注目されてしまうのは不本意ではないないだろうか。さらにどこで撮ったのかわからないようなスナップ写真もいくつか掲載されている。制服姿の写真もあるし、いやこれ盗撮じゃないだろうか。

「矢倉っち。どうも一部の界隈で話題になっているみたいでさ。まぁ、美人だから目を引くのはわかるけど、まだアマチュアだっていうのに」

 木村先輩もどうやら記事には思うところはあるらしい。

「困りましたね。でもこれどうしたらいいんでしょう」
「うむ。私にもわからん。とにかく、矢倉さんの周りに変な人がいないかは気をつけてあげないとな」
「そうですね」

 僕は眉を寄せながら答える。
 ただこの時はまだ記事が引き起こす事態を、僕は全く想像出来ていなかった。
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