僕は君のことを忘れるけれど、ボクはキミのことを忘れない

香澄 翔

文字の大きさ
13 / 38
知らない君を探して

13.助けたお礼

しおりを挟む
 僕が特に意識もせずに廊下から裏庭の方をみたとき、女の子達が別の女の子を囲んでいる姿が見えた。

 普段であれば気にもとめなかったかもしれない。だけど何となく不穏な空気を覚えて、僕は急いで駆け寄っていた。

 覗いてみたらどうやら囲まれていた女の子がいじめられているようだった。

 そのまま助けに入ることも考えたけれど、こちらは一人で相手は三人だ。それに相手は女子だから下手すると面倒なことになりかねない。そこでわざと大きく足音を立てて先生を呼ぶふりをしてみた。

 幸いうまくいって、いじめていた女の子達は逃げていったようだ。
 囲まれていた子は知らない女の子だった。

 かなり可愛い女の子だとは思ったのだけど、でも知らない子だ。なのにその子は僕の名前を呼んでいた。

 こんな可愛い子と知り合いになっていれば忘れないとは思うのだけど、だけど僕は全く覚えがない。でも名字ではなく名前を呼んだということは、ある程度親しい仲だったんじゃないかと思う。

 もしかしたらたとえば保育園のころの友達だっただろうか。

 保育園の頃の友達は校区が違っていて、小中学校では別の学校にいった子もいる。そういう相手だったのなら、もしかしたら覚えていない子もいたかもしれない。

 リボンの色からすれば僕と同じ学年だと思う。

 でももし知り合いだったのなら、もっと早く声をかけてくれていたらいいのに、とは思うけれど、まぁそんな昔の学友だったのなら声はかけづらいかもしれない。実際僕は覚えていなかったから、声をかけられたとしても誰だと不審に思っていたかもしれない。

 そのあと彼女は助けてくれたお礼ということで、いまは二人で喫茶店にきていた。
 お礼なんていらないよといったのだけれど、どうしてもといって押しきられた形だ。

 まぁ正直こんな可愛い子と二人でいられるのは嬉しいとは思うし、どうも彼女は僕のことを知っているみたいだから、話をするにはちょうど良かったかもしれない。

 少しアンティークな雰囲気の喫茶店は、どことなく特別な感じがする。
 確かキタミ亭という名前だったかな。初めてくるそこは、でもなぜかなつかしくすら感じさせる。

 珈琲の香りに包まれていて、優しい感じがのするお店だと思う。

 ちらほらとだけど他に学生のお客の姿も多い。こんな本格的な感じのする喫茶店のわりには値段が安いからかもしれない。

 彼女はパフェを頼んでいたけれど、僕は珈琲だけを頼む。
 おそらくこのお店はパフェが有名なのだろう。周りの学生もみんなパフェを頼んでいるみたいだ。

「今日は本当にありがとう。これはボクからのお礼」

 彼女、坂上こはると名乗った女の子は深々と頭を下げる。

 ただ名前を聞いてみても坂上こはるという名前に覚えはなかった。保育園の頃の友達なんてほとんど覚えていなかったけど、たぶん彼女はいなかったと思う。

 ただ一人称がボクなのはちょっとだけ驚いた。見た目はどこからどうみても清楚な美少女にしか見えなかったから、かなり意外に思った。

 でもそんなところも可愛いなと思う。正直、棚からぼた餅というか。
 こんな可愛い子と知り合いになれてしまったのは、ラッキーだとも思う。

 いや別に下心あって助けた訳ではないんだけど、女の子にうとい僕が内心で浮かれてしまうのは仕方ないと思う。そうだよね。

 まぁ誰に向けて言い訳しているのかわからなかったけれど。

「いやほんと大した事はしていないんだけど」
「ううん。ボクにとって、たけるくんは本当にヒーローだよ」

 彼女はまるであこがれの人を見ているかのような目で僕を見つめていた。
 たまたま現場に遭遇しただけで、そんな大したことはしていないというのに、そこまで言われてしまってはものすごくてれくさい。

「そこまで言うほどのことはしていないよ」

 僕は恥ずかしさすら覚えて頬をかいた。

 実際ほとんど何もしていないに等しいのだけれど、泣くほど怖がっていたようだから、彼女にとっては本当に救いの神のように思えたのかもしれない。

「えーっと、こはるは二年生でいいんだよね。僕も二年。あんまりみかけた覚えがないけど、何組なの?」

 照れくささのあまりに話をそらそうと思って彼女のことをたずねてみる。さっそく名前で呼んでいるのは彼女からこはると呼んでほしいと頼まれたからだ。そうでもなければ僕が女の子のことを名前で呼ぶなんてことはない。

 我ながらチキンな性格だとは思う。でも可愛い女の子と名前で呼び合うなんて関係に憧れていたから、千載一遇のチャンスだとも思った。下心ありありですみません、と知らない誰かに心の中で謝っていた。

 こはるはにこやかな笑顔のまま僕に答える。

「うん、そう。二年生。二組だよ」
「そうなんだ。えっと、きいていいかわからないけど、あの絡んでいた子達は知り合い?」
「ううん。知らない子達。なんか急に呼び出されて」

 こはるはまたあの時の事を思い出して恐くなったのか、うつむきながら話し始める。

 知らない子から絡まれていたというのは意外だったけれど、彼女はかなり可愛いから変に目をつけられていたのかもしれない。いじめなんていうのは、特に大した理由もなく始まることもある。大人しめの可愛い子が目をつけられるなんてこともよくある話だ。

「まぁ、うん。たぶんだいたい理由の目星はついているんだけどね」

 そう言いながら、彼女は事の顛末を話し始めていた。

「ある人の告白を断っちゃったんだけど、その人けっこう女の子に人気がある人で、たぶんそれで恨まれちゃったんだと思う」

 こはるは困ったような顔をして、少しうつむいていた。
 確かにこれだけの美少女であれば、そういうこともあるかもしれないとは思う。もてるのも大変なんだなとは思う。いろいろ考えなきゃいけないことも多いのかもしれない。

 まぁ女の子にはほとんど縁が無かった僕は考える必要がない事案だけど。
 ……我ながらむなしい。

「それは逆恨みなんじゃ」
「うーん。まぁ、断る時にちょっと言い過ぎちゃったから、ボクも悪かったところもあるとは思う」

 こはるは自分にも悪かったところがあったとは思っているようだった。自分にひどいことをされかけていたと言うのに、相手のことも思えるなんていうのは優しい子なんだなとは思う。こんないい子と知り合えるのは、やっぱり幸運なのかな。まぁでもかなりもてる子みたいだから、僕のことなんて歯牙にもかけないかもしれないけど。

 ただこはるも楽しく話しているようにも見えたから、もしかしたら僕にも少しチャンスがあったりしてなんて思う。

 まぁもてない男の妄想です。あり得ないかもしれないけどさ。それくらい許してくれよと、ふたたび心の中の誰かに向かって言い訳していた。

 そのあとしばらくはとりとめのない話をしていた。
 それなりに長い間話していたけれど、そろそろ日も暮れ始めていた。名残惜しいけれど、さすがにお店を後にすることにする。

「今日は本当にありがとう。ボクは本当に感謝しているよ」

 お店を出て改めてこはるは頭を下げる。
 律儀な子だなって心の中で思う。こんな子が彼女だったら最高なのにと思うものの、ありえない話に僕は少し自嘲の笑みを浮かべていた。

「じゃあまたね」

 彼女は軽く手をふってから歩き始める。僕とは家の方向は違うみたいだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

処理中です...