喋る黒猫とうそつきの麦わら

香澄 翔

文字の大きさ
6 / 43
一.喋る黒猫と自称魔女の少女

6.遠い視線

しおりを挟む
「じゃ、まずはあかねちゃんちからです」

 言いながら少し離れた家を指さす。
 見た限りありすの家とあまり変わりは無い。むしろどの家もそれほど変わらない。村の古くからある家の様式なのだろう。
 すぐに家の方へとむかって、玄関の扉を勝手に開ける。

「あかねちゃーんっ。ありすだけどー」

 ありすは言いながらもそのまま中に入っていく。

「はいはいはい。有子ゆうこちゃん、いらっしゃい」
「わーーーっ。あかねちゃん、有子って呼ばないで。ありす。ありすって呼んでよぅ」
「あっと、そうだったわね。ありすちゃんね」

 声と共に奥の部屋から、一人の女性が姿を現していた。
 ありすがあかねちゃん等と親しげに呼んでいるから、同じくらいの年の人かと思っていたが、現れたのは僕よりも少し年上と思われる女性だった。
 たぶん年の頃は十八歳くらいだろうか。高校三年生くらいか、場合によってはすでに卒業しているかもしれない。
 長い髪をアップにしてまとめている。そこから覗かせているうなじが、どこか色っぽく感じた。どこか大人の女性という感じがする。

 あと。ありすと比べると、だいぶん大きい。
 身長もだけど、特に胸部が。
 ……僕も男だから、つい目がいってしまうのは仕方ないよね。

「それで何かしら。といっても想像はつくけどね。例の四月一日わたぬきさんのことかな」
「わー。こずちゃんから聴いてましたか」
「そうね。たぶん村のみんなもう知っていると思うわ。ありすちゃんが彼氏を村に連れてきたって、言いふらしていたから」
「わーっわーっわーっ。彼氏じゃないですっ。そういうのではなくて」
「そうなの? もう二人は完全に出来上がってるとか、何とか言っていたけど」

 少し頬に手をあてて、首をかしげる。

「もう。こずちゃん相変わらずなんだから」

 ありすはぶつぶつと口の中で文句をつけていた。
 まぁ実際彼氏でも何でも無いのだから、変な噂を立てられれば困るだろうとは思うが、とりあえず僕を放置して話を進めるのもやめてほしいとは思う。
 やることないおかげでつい二人を見比べてしまうじゃないか。目のやり場に困る。
 なおどこをとは聞かないでほしい。
 そんな風に心の中で誰とも知らない相手とやりとりを続けていた。

「こずえは相変わらずおしゃべりのようだね」

 背中の方からミーシャの声が聞こえる。ミーシャは僕と一緒に家の外で待っていたようで、見ると少し離れたところで座り込んでいた。

「それで、そちらの男の子が話にあがっていた四月一日くんかしら」

 ようやく女性の方から話を振ってくれたようだ。
 とりあえず頭を下げて、それから自己紹介を始める。

「はい。ご紹介にあずかりました四月一日わたぬき謙人けんとです。彼氏ではありませんけど」
「あはは。聞こえてたのね。でも」

 女性は僕の方へとにこやかに微笑む。

「可愛い顔してるね。けっこう好みかも。有子ちゃんの彼氏じゃないのなら、私がもらっちゃおうかな」

 あかねは僕のそばまでよると、すっと顔を近寄せてくる。無意識にだろうけども、軽く頬に彼女の吐息がかかり、何か背筋にぞくりとしたものが走る。

「わぁっ。な、なにを言ってるんですかっ。僕はまだ貴方の名前も知りませんよっ」

 年上の女性が近づいてくるのに慌てて動悸が激しくなる。
 なんか思わずどきどきとしてしまうじゃないか。

「わーーっわーーーっわーーっ。だめっ。だめだよっ。あかねちゃんっ。そういうのはだめっ。あと有子じゃなくて、ありすっ。ありすって呼んでよぅ」

 なぜかありすも慌てた様子で僕と彼女の間に割り込んできていた。

「ふふ。慣れてないって感じで初々しいね。私はあかね。稲穂いなほあかね。よろしくね」
「……よろしくお願いします」

 内心焦る気持ちを隠しながらも、平然を装って答える。
 ただこんな心の内も彼女にはお見通しだったのかもしれない。微かに口元にいたずらな笑みを浮かべていた。

「それで二人で春渡しをするつもりなのね」
「そうなのっ。春渡しするよ。私と四月一日さんで春渡しするの。私と四月一日さんで!」

 ありすはなぜか自分を強調しているようだった。自分の出番を奪われそうになっている事に慌てているのかもしれない。

「心配しなくても大丈夫よ。私は三月みつきじゃないもの。いま春渡しが出来るのは有子ちゃんだけだから。でも昔はこの村にも三月さんも沢山居たみたいなんだけど、こう人が少なくなっちゃったらね。伝統的なお祭りもなかなか難しくなっていくのかしらね」

 あかねさんは少し寂しそうに告げると、遠い目をして空を見上げる。

「でもまぁ秋の収穫祭になったら私の出番よね。その時は私が四月一日くんに相方を務めてもらおうかしら」
「さすがに僕もそこまではこの村にはいませんよ」

 慌てて否定する僕を尻目に、ふふっと口元に笑みをこぼす。

「いいじゃない。この村もいいところよ。あんまり人はいないけど、私と有子ちゃん。こずえちゃんと若い子も少しはいるしね。他に若い男の子はいないから、今なら好きな子を選べちゃうの。魅力的でしょ。あ、もし特殊な趣味ならかなたちゃんもいるけど、それはさすがにまずいかしら」
「わーっ。あかねちゃん、何言ってるの。四月一日さんに変な事いっちゃだめだよぅ。あと有子じゃなくて、ありす。ありすってよんでよぅ」

 ありすの必死な否定にもかかわらず、あかねはきいていなかったのか、くすくすと笑みを漏らしていた。

「そうね。有子ちゃんの大事なお相手だもんね。私が奪っちゃいけないわね。それに」

 あかねはちらりと僕へと横目で視線を送ると、どこか遠い場所を見るような瞳で空を見上げる。

「たぶんこの夏が最後だものね」

 その寂しげな声に、なぜだか僕は焦燥を覚えて息を飲み込んでいた。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺

NOV
恋愛
俺の名前は『五十鈴 隆』 四十九歳の独身だ。 俺は最近、リストラにあい、それが理由で新たな職も探すことなく引きこもり生活が続いていた。 そんなある日、家に客が来る。 その客は喪服を着ている女性で俺の小・中学校時代の大先輩の鎌田志保さんだった。 志保さんは若い頃、幼稚園の先生をしていたんだが…… その志保さんは今から『幼稚園の先生時代』の先輩だった人の『告別式』に行くということだった。 しかし告別式に行く前にその亡くなった先輩がもしかすると俺の知っている先生かもしれないと思い俺に確認しに来たそうだ。 でも亡くなった先生の名前は『山本香織』……俺は名前を聞いても覚えていなかった。 しかし志保さんが帰り際に先輩の旧姓を言った途端、俺の身体に衝撃が走る。 旧姓「常谷香織」…… 常谷……つ、つ、つねちゃん!! あの『つねちゃん』が…… 亡くなった先輩、その人こそ俺が大好きだった人、一番お世話になった人、『常谷香織』先生だったのだ。 その時から俺の頭のでは『つねちゃん』との思い出が次から次へと甦ってくる。 そして俺は気付いたんだ。『つねちゃん』は俺の初恋の人なんだと…… それに気付くと同時に俺は卒園してから一度も『つねちゃん』に会っていなかったことを後悔する。 何で俺はあれだけ好きだった『つねちゃん』に会わなかったんだ!? もし会っていたら……ずっと付き合いが続いていたら……俺がもっと大事にしていれば……俺が『つねちゃん』と結婚していたら……俺が『つねちゃん』を幸せにしてあげたかった…… あくる日、最近、頻繁に起こる頭痛に悩まされていた俺に今までで一番の激痛が起こった!! あまりの激痛に布団に潜り込み目を閉じていたが少しずつ痛みが和らいできたので俺はゆっくり目を開けたのだが…… 目を開けた瞬間、どこか懐かしい光景が目の前に現れる。 何で部屋にいるはずの俺が駅のプラットホームにいるんだ!? 母さんが俺よりも身長が高いうえに若く見えるぞ。 俺の手ってこんなにも小さかったか? そ、それに……な、なぜ俺の目の前に……あ、あの、つねちゃんがいるんだ!? これは夢なのか? それとも……

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

処理中です...