7 / 42
7.糸と麻を買ってきた
しおりを挟む
可愛くて頭も良くて裁縫も出来てスポーツもそこそこできて、可愛い。なんだこの生き物。完璧超人か。
そう、こいつが俺の幼なじみなんです。可愛いだろ。
でもなんで幼なじみどまりで俺の彼女じゃないんだ。おかしいだろ。
俺はといえば頭の良さは平凡。むしろ平均よりちょっと下。運動神経はそこそこいい方だけど、スポーツを本格的にやってる奴らには敵わない。顔はまぁ悪くはない。悪くないとは思う。そうだよな。そうといってくれ。
何にせよつまり平凡。どこにでもいる普通の俺。ありふれたパーソナリティ。
なんで穂花が俺の彼女じゃないのか、今ので答えは見えた気がするが、見なかった事にしよう。エル、知っていたか。つきあいだけ長かったとしても、何のアドバンテージにもならないんだぜ。エルって誰だよ。
セルフつっこみをしながら俺はフェイクファーと戯れていた。
ふさふさして気持ちが良い。でもこれどうやって縫い付ければいいんだと口の中でつぶやくが誰も答えを教えてくれたりはしなさそうなので。裁縫の本をみながら、とりあえず糸と針でちまちま縫い始める。まぁ劇の日の一日だけ持てばいいので、とれさえしなければいいのだ。
裁縫で思い出したけど、そういえばロシア民謡の一週間って歌あるけどさ。糸と麻買ってきても結局何もしないよね。
一週間かけて何もしない。ただ遊んでいるだけというすばらしい歌だ。
それを思うとつまりは俺もいま何もしなくていいという事じゃないだろうか。
「なぁ、そう思うよな」
突然クラスメイトの玄田の肩に手を置いて問いかける。
「え!? えっと」
困惑している彼に再び「そうだよな」と圧をかけてみる。間違いなく相手は何もわかっていないから、思わず「うん」といってくれるに違いない。そうすれば晴れてお役御免という寸法だ。みよ、この完璧な計画。
しかし彼がうなづく前に、隣からすぐに声がかかる。
「だめだよ、たかくん」
笑顔で穂花が俺を見つめていた。
ただ目は笑っていない。深淵をのぞき込むかのような深い瞳をこちらに向けている。やばい。これはそろそろ本気で怒る寸前だ。
「ははは。いや、作業は真面目に取り組まないとな。そういう話さ。なぁ、玄田」
「いや何の事かわからないし、そもそも僕、斉藤なんだけど」
玄田(真名)が何か言っていたが、それはスルーして作業に戻る。
「はぁ……野上は相変わらずだよね……」
そんな様子にさらに深いため息をもらしていたけれど、こちらも見なかった事にしておく。
とりあえず仕方なくちまちま手縫いで縫い付けていく。かなり不格好ではあったが、実のところどうせ遠目からしか見られないし、ファーで隠れているので問題はない。だけど面倒くさいし、ファーのせいで手元もよく見えない。そしてとうとう針で指を刺す。
「あーっもーっ。このふさふさが邪魔なんだよっ。誰だよ、こんなの買ってきた奴」
「お前」
こんどは玄田の突っ込みが入る。
いい突っ込みだ。親指を立てて激励しておく。
「野上はいつもお気楽で悩みなさそうでいいよね……」
今度はあからさまにわかるように大きく息を吐き出していた。
間違いなく嫌味であるが、こんなことに気をとられていては、人生やっていけないのでこれもスルーしておく。スルースキル大事。
「玄田も悩まずがんばれよ」
「だから斉藤だってば。っていうか、さっきまで普通に斉藤って呼んでたよね。誰だよ玄田」
玄田は諦めたのか、また自分の作業に戻ったようだ。となりで看板らしきものに一生懸命何か絵を書き込んでいる。
俺もこれ以上に手を止めると穂花の怒りを買いそうなので、いいかげん真面目にとりかかる。
穂花は文化祭に劇をやると決まってからかなり張り切っているようだった。そんなに劇がやりたかったのだろうか。
そういえば芝居とかそういうの好きだったと思う。学校に演劇部がないのを知ってがっくりしていた記憶がある。
やりたかったけど出来なかった事を、文化祭の時だけとはいえやれるというのは確かにはりきりどころなのかもしれない。それならば協力してやらないとな。
ふざけるのはやめて俺も無言で針を動かしだす。
気がつくと思っていたよりも、ずっと早く衣装は仕上がっていた。やればできる俺。
ま、それなら少しでも練習もしておかないとな。
俺はそう思い、台本を手にとる。
劇自体には大して興味はなかったし、ライオン役も穂花がやるなら俺もやろうくらいのつもりで立候補したけれど、ちょうど良かったのかもしれない。
穂花のためなら何でもしてやりたい。
この時はそう思っていた。
そしてその気持ちはある意味で、ずっと変わる事はなかった。
そう、こいつが俺の幼なじみなんです。可愛いだろ。
でもなんで幼なじみどまりで俺の彼女じゃないんだ。おかしいだろ。
俺はといえば頭の良さは平凡。むしろ平均よりちょっと下。運動神経はそこそこいい方だけど、スポーツを本格的にやってる奴らには敵わない。顔はまぁ悪くはない。悪くないとは思う。そうだよな。そうといってくれ。
何にせよつまり平凡。どこにでもいる普通の俺。ありふれたパーソナリティ。
なんで穂花が俺の彼女じゃないのか、今ので答えは見えた気がするが、見なかった事にしよう。エル、知っていたか。つきあいだけ長かったとしても、何のアドバンテージにもならないんだぜ。エルって誰だよ。
セルフつっこみをしながら俺はフェイクファーと戯れていた。
ふさふさして気持ちが良い。でもこれどうやって縫い付ければいいんだと口の中でつぶやくが誰も答えを教えてくれたりはしなさそうなので。裁縫の本をみながら、とりあえず糸と針でちまちま縫い始める。まぁ劇の日の一日だけ持てばいいので、とれさえしなければいいのだ。
裁縫で思い出したけど、そういえばロシア民謡の一週間って歌あるけどさ。糸と麻買ってきても結局何もしないよね。
一週間かけて何もしない。ただ遊んでいるだけというすばらしい歌だ。
それを思うとつまりは俺もいま何もしなくていいという事じゃないだろうか。
「なぁ、そう思うよな」
突然クラスメイトの玄田の肩に手を置いて問いかける。
「え!? えっと」
困惑している彼に再び「そうだよな」と圧をかけてみる。間違いなく相手は何もわかっていないから、思わず「うん」といってくれるに違いない。そうすれば晴れてお役御免という寸法だ。みよ、この完璧な計画。
しかし彼がうなづく前に、隣からすぐに声がかかる。
「だめだよ、たかくん」
笑顔で穂花が俺を見つめていた。
ただ目は笑っていない。深淵をのぞき込むかのような深い瞳をこちらに向けている。やばい。これはそろそろ本気で怒る寸前だ。
「ははは。いや、作業は真面目に取り組まないとな。そういう話さ。なぁ、玄田」
「いや何の事かわからないし、そもそも僕、斉藤なんだけど」
玄田(真名)が何か言っていたが、それはスルーして作業に戻る。
「はぁ……野上は相変わらずだよね……」
そんな様子にさらに深いため息をもらしていたけれど、こちらも見なかった事にしておく。
とりあえず仕方なくちまちま手縫いで縫い付けていく。かなり不格好ではあったが、実のところどうせ遠目からしか見られないし、ファーで隠れているので問題はない。だけど面倒くさいし、ファーのせいで手元もよく見えない。そしてとうとう針で指を刺す。
「あーっもーっ。このふさふさが邪魔なんだよっ。誰だよ、こんなの買ってきた奴」
「お前」
こんどは玄田の突っ込みが入る。
いい突っ込みだ。親指を立てて激励しておく。
「野上はいつもお気楽で悩みなさそうでいいよね……」
今度はあからさまにわかるように大きく息を吐き出していた。
間違いなく嫌味であるが、こんなことに気をとられていては、人生やっていけないのでこれもスルーしておく。スルースキル大事。
「玄田も悩まずがんばれよ」
「だから斉藤だってば。っていうか、さっきまで普通に斉藤って呼んでたよね。誰だよ玄田」
玄田は諦めたのか、また自分の作業に戻ったようだ。となりで看板らしきものに一生懸命何か絵を書き込んでいる。
俺もこれ以上に手を止めると穂花の怒りを買いそうなので、いいかげん真面目にとりかかる。
穂花は文化祭に劇をやると決まってからかなり張り切っているようだった。そんなに劇がやりたかったのだろうか。
そういえば芝居とかそういうの好きだったと思う。学校に演劇部がないのを知ってがっくりしていた記憶がある。
やりたかったけど出来なかった事を、文化祭の時だけとはいえやれるというのは確かにはりきりどころなのかもしれない。それならば協力してやらないとな。
ふざけるのはやめて俺も無言で針を動かしだす。
気がつくと思っていたよりも、ずっと早く衣装は仕上がっていた。やればできる俺。
ま、それなら少しでも練習もしておかないとな。
俺はそう思い、台本を手にとる。
劇自体には大して興味はなかったし、ライオン役も穂花がやるなら俺もやろうくらいのつもりで立候補したけれど、ちょうど良かったのかもしれない。
穂花のためなら何でもしてやりたい。
この時はそう思っていた。
そしてその気持ちはある意味で、ずっと変わる事はなかった。
0
あなたにおすすめの小説
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話
そう
青春
ある日家に突然現れた謎のサキュバスのホルさん!
好感度はMAXなようで流されるがまま主人公はホルさんと日常を過ごします。
ほのぼのラブコメというか日常系小説
オチなどはなく、ただひたすらにまったりします
挿絵や文章にもAIを使用しております。
苦手な方はご注意ください。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる