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8.交わしていない約束
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時間は刻々と流れ、気がつくと文化祭も翌日へと迫っていた。
準備は何とか無事全て終わり、明日の劇の開幕を待つだけである。
芝居に多少の不安はあるものの、まぁ言ってもそれほど台詞の数も多くない。メインはドロシー役の穂花だし、適当に喋っていれば済むのでそこはそれほど心配はしていない。
しかしそんな事よりもずっと気にかかる事があった。
『いよいよ明日文化祭だね』
フェルの声が響く。
いまは俺の机の縁に腰掛けて、素足をぱたぱたと動かしていた。すべやかな素足がみずみずしい。これでサイズが人間サイズであれば、どぎまぎしたかもしれない。
残念ながらさすがにフェルのサイズでは、せいぜい人形か何かにしか思えないので、特にそういった感情は思い浮かばない。
「そうだな。初めての文化祭、とても楽しみだ」
言いながらも俺はどこか暗たんとした気持ちを隠せずにいる。
実際に文化祭は楽しみだし、胸が弾む感じもしているけれど、それとは違う部分で自分の無力さに打ちひしがれていた。
『で、穂花と一緒に文化祭まわる約束はできたのかな』
フェルの質問に答える事は出来ない。
というか、ほとんどフェルは俺と一緒にいるのだから、答えは知っているくせして意地悪な奴だ。
「誘えてませんが、何か?」
半ば逆ギレぎみのに答えると、フェルはわざとらしくため息を漏らす。
『意気地なし』
フェルの言葉に俺は胸が締め付けられる。
わかってる。わかっているんだよ、誰よりも俺が。一緒にいる時にはあれだけ軽口を叩いているくせに、いざこう二人で何かしようってなると、とたんに言葉が出なくなるんだ。
『へたれ。へたれね。へたれキングの称号を上げるわ』
「くっ。全く嬉しくねぇけど、言い返せない」
『どーしてほのかの事になると、急にからっきしになるかな。たかしは』
フェルは机の上から飛び上がると、俺の頭の上にとまる。それから頭の上で寝転んで、俺の前髪を引っ張っていた。額がすーすーしますけど、やめていただけますか。内心思うものの、言葉には出せない。
「それが惚れた弱みってものなのさ」
とりあえず格好つけて答えてみる。でも実際には全く格好良くはないのはわかっている。実際むしろかっこわるい。
頭の上でフェルが足をぱたぱたと動かしているのがわかる。ときどきぺしぺしと当たって少し痛い。
『もうこーなったら当日までになんとか誘うしかないね。なんか文化祭の言い伝えとかあるんでしょ。文化祭の後夜祭のキャンプファイヤーの時に一緒に過ごした二人は必ず結ばれるとかなんとか』
「まぁ、うん。そういうのがあるらしいな」
確かにうちの学校にはそういうジンクスだかなんだかがある。そもそも後夜祭で二人で過ごすような相手は、もともとからそういう関係にある事の方が多いとは思うのだが、文化祭の後だけに急速に良い雰囲気になるなんて事もあるだろう。
穂花は可愛い。正直いって可愛い。
幼なじみでずっと一緒にいたから、たまにわからなくなる事もあるけれど、でもやっぱり相当に可愛いと思う。
学校の連中でひそかに穂花を狙っている奴らもいるだろう。そいつらに先を越されてしまう可能性も大いにある。
それでいいのか? いや、良くない。
俺は決意を胸をして明日、なんとか穂花と約束を取り付けようと心に決める。
穂花は自分達の舞台の事で頭がいっぱいではあったし、なんだかんだで一緒にいる事も多かったけれど、その間に接した相手とは誰とも約束はしていないはずだ。
「よし、明日声をかける。絶対だ。絶対」
心の中で誓ったことではあったが、思わず声に出してしまっていた。するとすかさずフェルが俺の額を後ろかかとで蹴り飛ばす。
『いま誘いなさいよ。へたれ』
同時に放たれたフェルのつっこみは俺の心に強く突き刺さる。
「い、いやだって。この時間だしなぁ。もう寝てるかもしれないし」
『いつまでも引き延ばして結局明日も誘えないパターンね。これは。ほのかが他の人とデートして結ばれちゃってもいいの』
突きつけられたフェルの言葉に俺の心の中に妄想が広がっていく。
穂花が名前も知らないイケメンに告白されて返事をして、そのまま遠ざかっていく姿が俺の脳裏を横切っていた。
そのままイケメンが穂花とキスをして――
それでよいのか? いや、良くない。良い訳ない。
自分の妄想に息が詰まる。
「うおぉぉぉぉっ!? 三十分、三十分戻してくれぇぇぇぇぇ」
『はいはい。三十分前ならまだ起きてるかもね。まったくたかしは世話が焼けるんだから。じゃあ、いくよ。時間よ戻れ』
フェルの言葉に伴い、めまいにも似た感覚が俺を襲う。
くらくらと脳が揺れる感覚と共に、俺の意識は時間をさかのぼる。
だけどすぐにそのめまいは晴れて、あたりがはっきりと見て取れるようになる。
ちょうど風呂に入ろうとしていたところだったようで、今は脱衣所の中だ。
「そんなタイミングだったか。ふぅ。じゃあ風呂に入ってゆっくりするか」
『ゆっくりしたら意味ないでしょ。さっさとライム送りなさい』
思わず漏らしたつぶやきにフェルの容赦ない突っ込みが入る。
へたれるのは許してくれないらしい。まぁ確かにフェルも力を使うには多少は影響があるらしいし、そう何度も戻されるのも嫌だろう。
仕方無く部屋に戻って携帯をあさる。なんて送るか迷うところだが、ここは素直に明日の予定を確認してみよう。
「『あした、誰かと文化祭回る約束してる?』 と」
入力だけして、少しだけ手が震える。
これ送ってしまったらなんて返事が返ってくるだろう。
学校一のイケメン君とデートする予定だよ、なんて返ってきたらどうしたらいいんだ。
「うおぁぁぁぁぁぁ。その時は死ぬしかねぇぇぇぇぇ」
自分の妄想に無駄にダメージを受ける。心が焼き裂かれるようだ。
『さっさと送りなさい。えいっ』
送信ボタンの上に置いた指にフェルが着地する。
同時にメッセージがすぐに送信されていた。うぉぉぉ。おくっちまったよ。どうしたらいいんだ。
思わず取り乱していたが、しかし大きく慌てる暇もなく、すぐに携帯が音をたてる。返事が戻ってきたようだ。
スマホの表示に穂花のメッセージが表示されていた。少し怖い気持ちになりながらも確認する。
準備は何とか無事全て終わり、明日の劇の開幕を待つだけである。
芝居に多少の不安はあるものの、まぁ言ってもそれほど台詞の数も多くない。メインはドロシー役の穂花だし、適当に喋っていれば済むのでそこはそれほど心配はしていない。
しかしそんな事よりもずっと気にかかる事があった。
『いよいよ明日文化祭だね』
フェルの声が響く。
いまは俺の机の縁に腰掛けて、素足をぱたぱたと動かしていた。すべやかな素足がみずみずしい。これでサイズが人間サイズであれば、どぎまぎしたかもしれない。
残念ながらさすがにフェルのサイズでは、せいぜい人形か何かにしか思えないので、特にそういった感情は思い浮かばない。
「そうだな。初めての文化祭、とても楽しみだ」
言いながらも俺はどこか暗たんとした気持ちを隠せずにいる。
実際に文化祭は楽しみだし、胸が弾む感じもしているけれど、それとは違う部分で自分の無力さに打ちひしがれていた。
『で、穂花と一緒に文化祭まわる約束はできたのかな』
フェルの質問に答える事は出来ない。
というか、ほとんどフェルは俺と一緒にいるのだから、答えは知っているくせして意地悪な奴だ。
「誘えてませんが、何か?」
半ば逆ギレぎみのに答えると、フェルはわざとらしくため息を漏らす。
『意気地なし』
フェルの言葉に俺は胸が締め付けられる。
わかってる。わかっているんだよ、誰よりも俺が。一緒にいる時にはあれだけ軽口を叩いているくせに、いざこう二人で何かしようってなると、とたんに言葉が出なくなるんだ。
『へたれ。へたれね。へたれキングの称号を上げるわ』
「くっ。全く嬉しくねぇけど、言い返せない」
『どーしてほのかの事になると、急にからっきしになるかな。たかしは』
フェルは机の上から飛び上がると、俺の頭の上にとまる。それから頭の上で寝転んで、俺の前髪を引っ張っていた。額がすーすーしますけど、やめていただけますか。内心思うものの、言葉には出せない。
「それが惚れた弱みってものなのさ」
とりあえず格好つけて答えてみる。でも実際には全く格好良くはないのはわかっている。実際むしろかっこわるい。
頭の上でフェルが足をぱたぱたと動かしているのがわかる。ときどきぺしぺしと当たって少し痛い。
『もうこーなったら当日までになんとか誘うしかないね。なんか文化祭の言い伝えとかあるんでしょ。文化祭の後夜祭のキャンプファイヤーの時に一緒に過ごした二人は必ず結ばれるとかなんとか』
「まぁ、うん。そういうのがあるらしいな」
確かにうちの学校にはそういうジンクスだかなんだかがある。そもそも後夜祭で二人で過ごすような相手は、もともとからそういう関係にある事の方が多いとは思うのだが、文化祭の後だけに急速に良い雰囲気になるなんて事もあるだろう。
穂花は可愛い。正直いって可愛い。
幼なじみでずっと一緒にいたから、たまにわからなくなる事もあるけれど、でもやっぱり相当に可愛いと思う。
学校の連中でひそかに穂花を狙っている奴らもいるだろう。そいつらに先を越されてしまう可能性も大いにある。
それでいいのか? いや、良くない。
俺は決意を胸をして明日、なんとか穂花と約束を取り付けようと心に決める。
穂花は自分達の舞台の事で頭がいっぱいではあったし、なんだかんだで一緒にいる事も多かったけれど、その間に接した相手とは誰とも約束はしていないはずだ。
「よし、明日声をかける。絶対だ。絶対」
心の中で誓ったことではあったが、思わず声に出してしまっていた。するとすかさずフェルが俺の額を後ろかかとで蹴り飛ばす。
『いま誘いなさいよ。へたれ』
同時に放たれたフェルのつっこみは俺の心に強く突き刺さる。
「い、いやだって。この時間だしなぁ。もう寝てるかもしれないし」
『いつまでも引き延ばして結局明日も誘えないパターンね。これは。ほのかが他の人とデートして結ばれちゃってもいいの』
突きつけられたフェルの言葉に俺の心の中に妄想が広がっていく。
穂花が名前も知らないイケメンに告白されて返事をして、そのまま遠ざかっていく姿が俺の脳裏を横切っていた。
そのままイケメンが穂花とキスをして――
それでよいのか? いや、良くない。良い訳ない。
自分の妄想に息が詰まる。
「うおぉぉぉぉっ!? 三十分、三十分戻してくれぇぇぇぇぇ」
『はいはい。三十分前ならまだ起きてるかもね。まったくたかしは世話が焼けるんだから。じゃあ、いくよ。時間よ戻れ』
フェルの言葉に伴い、めまいにも似た感覚が俺を襲う。
くらくらと脳が揺れる感覚と共に、俺の意識は時間をさかのぼる。
だけどすぐにそのめまいは晴れて、あたりがはっきりと見て取れるようになる。
ちょうど風呂に入ろうとしていたところだったようで、今は脱衣所の中だ。
「そんなタイミングだったか。ふぅ。じゃあ風呂に入ってゆっくりするか」
『ゆっくりしたら意味ないでしょ。さっさとライム送りなさい』
思わず漏らしたつぶやきにフェルの容赦ない突っ込みが入る。
へたれるのは許してくれないらしい。まぁ確かにフェルも力を使うには多少は影響があるらしいし、そう何度も戻されるのも嫌だろう。
仕方無く部屋に戻って携帯をあさる。なんて送るか迷うところだが、ここは素直に明日の予定を確認してみよう。
「『あした、誰かと文化祭回る約束してる?』 と」
入力だけして、少しだけ手が震える。
これ送ってしまったらなんて返事が返ってくるだろう。
学校一のイケメン君とデートする予定だよ、なんて返ってきたらどうしたらいいんだ。
「うおぁぁぁぁぁぁ。その時は死ぬしかねぇぇぇぇぇ」
自分の妄想に無駄にダメージを受ける。心が焼き裂かれるようだ。
『さっさと送りなさい。えいっ』
送信ボタンの上に置いた指にフェルが着地する。
同時にメッセージがすぐに送信されていた。うぉぉぉ。おくっちまったよ。どうしたらいいんだ。
思わず取り乱していたが、しかし大きく慌てる暇もなく、すぐに携帯が音をたてる。返事が戻ってきたようだ。
スマホの表示に穂花のメッセージが表示されていた。少し怖い気持ちになりながらも確認する。
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