君がたとえあいつの秘書でも離さない

花里 美佐

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逆襲

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 翌日。
 
 ボスは、私を連れて彼のオフィスへ行った。
 付いてきて欲しいと言われて、嫌な予感がしたが新しい取引の書類をまとめていたので疑っていなかった。
 
 抜き打ちだった。
 私はそんなスケジュールを聞いていなかった。
 
 ただ、執務がたまっているので、その二時間空けておいて欲しいと言われただけだ。

 車が彼のビルに入っていったとき、驚いてボスを見ると口の端が上がっている。

 「明日から、本格的に戦いに入る。宣戦布告といきましょう。もちろん、あちらのアポは先ほど僕から入れてあるから心配しなくていいよ」

 その時は、それが以前から入れられていた約束とは知らず付いていった。

 見たことのある、絨毯。
 
 今日は秘書室長が出てこない。
 迎えに来たのは、彼の女性秘書。
 
 以前もカフェで待っているときに見かけたあの人だ。

 「石井コーポレーションの石井弘取締役でいらっしゃいますか?」
 高いソプラノが響く。
 
 「お迎えにあがりました。ご案内致しますどうぞ」
 そう言うと、エレベーターへ連れて行かれる。

 エレベーターに入ると、最上階を押す。
 そして、こちらに背を向けながら、ちらちらとこちらを見ている。
 
 「さすが、堂本コーポレーションの副社長秘書ですね。お美しい」
 ビクッとした彼女がボスを見た。
 
 余裕の笑みを浮かべる彼を彼女は返事もせずじいっと見ている。
 何?なんか……。

 すると、最上階へ到着直前に彼女が言った。
 
 「石井コーポレーションの秘書の方もお綺麗ですね。副社長もそう言っておられたのですが、今日よく分かりました」

 ボスは、開いたエレベータのドアを通り抜ける際、何かつぶやいた。
 彼女は、開くボタンを押したまま、彼が通るのを見ている。

 私は、異様な雰囲気を感じながら、その後ろを付いていった。

 「さすがに副社長室は広いですね」
 
 案内されながら入ったボスは、すぐにそう言った。

 窓の外を眺めている匠さんは振り返らない。

 「穂積さん。どういうことかな?弘君が来るなんて聞いていなかったが」

 私達を案内してきた穂積さんと言われた秘書の女性は、匠さんを見て申し訳ございませんと頭を下げた。

 「先ほど、取締役ご本人から緊急でお会いしたいと連絡がございまして、会議中の副社長に確認ができませんでした。営業一課長にはスケジュール変更をお願いしてございます。今日の夕方、空いた時間に入れております」

 匠さんは、穂積さんを見たことのないような視線で見つめている。
 彼女も、言い切ってから彼の顔を見て、驚いたように固まっている。
 
 「……穂積さん。君のことは秘書室長を通して最近調べさせてもらったよ。ご実家のことや、そのほかは弘君から聞くとしようか」
 
 青くなった彼女は弘取締役に目を移した。

 「まあ、どうぞ。おかけ下さい弘君。秘書も同行とはどういうことでしょうか」

 そう言うと、匠さんはソファを手で示した。

 「匠さん。言いたいことはわかりますけど、穂積さんとは一時期知り合いだったというだけで特に何も関係はありませんよ」
 
 弘は、ニヤッと笑った。
 
 清花との関係は、あの日で終わらせた。
 もう一ヶ月以上前だ。
 
 欲しい資料も手に入らないとわかった段階で、匠に気づかれたと感づいた。
 
 彼女は何度も連絡してきていたが、終わりにしたほうが君のためだと諭した。
 
 匠さんが気づいている可能性も含めて、説得した。
 
 一ヶ月前の段階なら、何も手に入れていないし、なんの証拠も残っていない。彼女も罪に問われない。

 今日は、そんなことのために来たのではない。
 
 「そろそろ、古川さんと別れて下さいよ。彼女のためでもあります」

 匠さんも、彼女も目をむいて驚いている。
 
 「匠さん。入札のことはまだ分かりませんが、それ以外でも勝負に出ます。少々手荒に行きますから、覚悟して下さい」

 「お手並み拝見といこう。それと、古川さんのことは公私混同しないはずだが、わざわざここで言うことかな?」
 
 匠さんがにらみつけてくる。
 
 「取締役。どういうことですか?ここは仕事場です」
 
 俺の秘書が怒りを見せた。

 ふたりして、何なんだ。
 
 古川さんまでそういう顔をするのか。
 
 そして、匠さん……こういう所が頭にくる。
 いつもそうやって高いところから俺を見下すように眺めている。
 
 高校の時からそういう人だった。
 本人は無意識というのも、腹が立つ。
 兄さんがやり込められているのを見ていて、死ぬほど頭にきた。
 
 そして、幼馴染みのさくらのこと。
 今は兄さんの妻だが、それもいろいろある。

 「彼女は僕の秘書だ。敵対会社の秘書と付き合うなんて、おかしいでしょう。インサイダーを疑われてもしょうがないでしょ。何かこちらに仕掛けてきたら、そう取られますよ」

 「そう取られたら、古川さんも巻き込まれる。君にとってそれは不本意だろ?」

 「……そうですね。そのためにも、古川さんにも選択してもらわないとね。石井の社員として。守秘義務のある職種だ」

 「前にも申し上げましたが、私はどちらにも与しません。信用頂けないのが残念です。信用頂けないなら、今の仕事を辞めるまでです」

 彼女は言い切った。

 「穂積さんのことは、どう説明する気だ?人にあらぬことを吹きかけておきながら、自分は何をしているんだ、弘君」

 「さっきいいましたよ。彼女とは昔知り合いだっただけで、今は何の関係もありません。何をお調べになったかは知りませんが、彼女のためにもこれ以上はなにもしないほうがいいですよ。あと入札はほとんど諦めてますから……」

 清花は下を向いている。
 古川さんは彼女をじっと見ている。

 「では、失礼しますよ。お忙しい時間に急にすみませんでした。古川さん帰ろう」

 そう言うと、きびすを返した。

 「遙。心配ない。俺を信じろ」

 帰り際、彼女に囁く声が聞こえた。
 腹が立つ。

 エレベーターに乗ると、彼女に向き直った。
 嬉しそうにしやがって。

 衝動的に、彼女の手をつかんで引き寄せた。
 彼女は身体を硬くして、一瞬俺の腕の中に入ったがすぐに俺を突き飛ばした。

 「やめてください。どうして?どうしてこんなことを?」

 「どうして?君が欲しかったのに。僕のものにならないなら、邪魔するまでだよ」

 エレベーターが下に着いた。
 俺は彼女を置いて先に出た。

 
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