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第二章 恋しい人
正体~賢人side~ー3
しおりを挟む里沙が心配だ。最近は彼女のことばかり考えている。
何か言われていないといいが……。心配だ。
里沙は俺がどこの誰だかわかっていないだろう。
最初のキス。あの時は地下の廊下で、おびえながら震えて俺の胸にすがりついてきた。
説明できない気持ちが込み上げ、潜伏中でしかも社内だったのに衝動的にキスしてしまった。彼女には手を出すまいと思っていたのに、あの潤んだ目で見上げられて堪えられなかった。
しかも……昨日は彼女からキスされた。気持ちが整理出来ない自分を持て余している。
彼女は俺の迷いを端的に指摘して、忘れてくれていいと言った。忘れる?出来るわけない。最初からこうなる気がしていたから俺は彼女を文也のところへ連れて行ったんだろう。
深呼吸をし、頭を左右に振った。今は甘いことを考える余裕はない。
本社からの帰りに、関根課長と部長に本社での報告内容を連絡した。また、里沙が長田達に絡まれたことも一応報告した。関根課長に斉藤さんのことも気をつけるよう伝えた。
彼が営業二部にいてくれたことで予定より早く捜査が終わりそうだ。俺はいずれ本社へ戻る。
財団に戻ったときにはすでに退勤時間を過ぎていた。役員室に里沙を捜したが見当たらない。専務の行き先を尋ねた。
「お帰りなさい。めどがついて良かったですね」
「部長。専務はどこです?」
部長は小さな声で言う。
「もう帰りましたよ。午後から戻ってきたんですが、明らかに様子が変でした。誰も部屋へ入れるなと言われたそうで、北村さんも戸惑ってました。スケジュールが全く予定通りにいかないらしくて。昨日から突発的な行動が多すぎて……」
「北村さんは?」
「彼女も一緒に帰りました。食事へ行こうと専務が誘ったようで……大丈夫ですかね?」
「それは本当ですか?いつ頃です?」
「もう四十分位前ですよ」
俺は、急いで彼女の位置情報を確認した。ホテルのバーだ。嫌な予感がして、部長に告げてすぐ会社を出た。すると、出口で関根課長と一緒になった。
「関根課長」
「大変です。斉藤から連絡があったんですけど、畑中専務とあいつらふたりが斉藤と北村さんをホテルのバーへ連れて行って飲ませているらしいです。溶解室のことがばれたらしい。中身を確認したようなんです」
「……それで?とにかく一緒に行こう」
タクシーを停めると一緒に乗った。俺は陽樹に連絡した。会計部長にはビルの警備員をよこすように言った。
「斉藤さんはどうして君に連絡してきたんだ?」
「彼女は割と酒が強い。おそらく、北村さんが危ないと思ったのかもしれない。あまり酒に強くないんだろう」
「俺は、北村さんが今いる場所を特定してそこへ行くところだったんだ」
「そうだったんですね。おそらく、斉藤が何か感づいているとばれたんだろう。探っていたのに気付かれた可能性もある。どうしますか?」
「一気に決めた方がいいだろう。本社へ連絡した。会計部長には警備員をよこしてくれるように頼んだ」
ホテルが近くて助かった。ふたりでタクシーを降りると急いでエレベーターホールへ。俺は里沙の位置情報を確認した。移動してる?
バーへ入ると、五人はいなかった。店員に聞いたら、女性ふたりが若い男性ふたりに腕を取られて喧嘩しながら歩いて行ったと証言した。
位置情報を見た限りバーよりも上の宿泊層にいる。まずい。俺は急いでそのことを関根に言うと、彼女を追った。
位置情報を見ながら移動した。部屋の場所がわかったので、ベルを鳴らす。
「なんだ?」
男の声がする。
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